組織構造の基本:機能別・事業部制・マトリックスを比較して理解する
結論から言うと
組織構造とは「誰が誰に報告するか・誰がどの仕事を担当するか」を決める設計図です。試験では「機能別組織・事業部制組織・マトリックス組織」の3形態のメリット・デメリットが繰り返し問われます。各形態の構造を図で理解したうえで、特徴を対比して覚えることが最短の攻略法です。
1. 機能別組織
構造
経営者の直下に「機能(職能)」単位の部門が並ぶ形態です。機能とは「営業」「製造」「開発」「購買」「管理(総務・経理)」などを指します。
graph TD
CEO["社長(経営者)"]
CEO --> A["営業部"]
CEO --> B["製造部"]
CEO --> C["開発部"]
CEO --> D["購買部"]
CEO --> E["管理部(総務・経理)"]
特徴・メリット・デメリット
| 観点 | 内容 |
|---|---|
| メリット | 専門性の集積が容易・規模の経済が効く・トップのコントロールがしやすい |
| デメリット | 製品・地域をまたぐ意思決定が遅い・部門間の横の連携が弱い・トップへの負荷集中 |
| 向いている状況 | 製品・サービスが少なく単純な企業・創業期・中小企業 |
試験で問われる典型論点:「機能別組織では全社的な視野を持つ後継管理者が育ちにくい」→ 各部門の専門家は育つが、事業全体を見渡すゼネラルマネージャーが育ちにくいという欠点です。
2. 事業部制組織
構造
「製品」「地域」「顧客」などの軸で事業部を分け、各事業部が機能(営業・製造・開発)を内包する形態です。各事業部は独立した「プロフィットセンター(利益責任単位)」として機能します。
graph TD
CEO["社長(経営者)"]
CEO --> D1["事業部A<br/>(製品X)"]
CEO --> D2["事業部B<br/>(製品Y)"]
CEO --> D3["事業部C<br/>(製品Z)"]
D1 --> A1["営業"] & B1["製造"] & C1["開発"]
D2 --> A2["営業"] & B2["製造"] & C2["開発"]
D3 --> A3["営業"] & B3["製造"] & C3["開発"]
事業部の分け方
| 分け方 | 例 |
|---|---|
| 製品別 | 「家電事業部」「半導体事業部」 |
| 地域別 | 「国内事業部」「アジア事業部」「欧米事業部」 |
| 顧客別 | 「法人事業部」「個人事業部」 |
特徴・メリット・デメリット
| 観点 | 内容 |
|---|---|
| メリット | 事業ごとの迅速な意思決定・事業責任の明確化・ゼネラルマネージャーの育成 |
| デメリット | 事業部間で機能が重複しコスト増・事業部間で資源や顧客の奪い合いが起きる・事業部単位の最適化が全社最適を損なう(部分最適) |
| 向いている状況 | 複数事業・製品・地域にわたる多角化企業 |
試験で問われる典型論点:「全社最適より部分最適になりやすい」「カニバリゼーション(共食い)が起きやすい」「管理者育成には優れる」
3. マトリックス組織
構造
機能軸と事業(プロジェクト)軸の2つを組み合わせた形態です。従業員は機能部門とプロジェクト・事業部の両方に同時に所属し、2人の上司を持ちます。
graph TD
CEO["社長"]
CEO --> M["製造部長"] & S["営業部長"] & R["開発部長"]
CEO --> P1["プロジェクトA責任者"] & P2["プロジェクトB責任者"]
M --> E1["製造担当者X<br/>(製造部 + PJ-A)"]
R --> E2["開発担当者Y<br/>(開発部 + PJ-A)"]
S --> E3["営業担当者Z<br/>(営業部 + PJ-B)"]
P1 -.->|プロジェクト指示| E1
P1 -.->|プロジェクト指示| E2
P2 -.->|プロジェクト指示| E3
特徴・メリット・デメリット
| 観点 | 内容 |
|---|---|
| メリット | 機能の専門性と事業の柔軟性を同時に活用できる・資源の共有・効率化 |
| デメリット | 2人の上司による命令の競合(二重命令系統)・権限関係が曖昧・調整コストが高い |
| 向いている状況 | 複雑なプロジェクト型業務・R&D部門・グローバル企業 |
試験で問われる典型論点:「マトリックス組織は命令統一性の原則に反する」→ 機能部門上司とプロジェクト上司の命令が競合するリスクが常にある。これが最大の欠点です。
4. 組織設計の基本原則
試験では組織形態だけでなく、組織設計の原則も問われます。
| 原則 | 内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 専門化の原則 | 仕事を専門領域に分割し、各人が専門業務に集中できるようにする | 分業のメリットを引き出す |
| 権限・責任一致の原則 | 与える権限と負わせる責任を一致させる | 責任だけ重くて権限が小さい構造は機能不全を起こす |
| 命令統一性の原則 | 各構成員は一人の上司からのみ命令を受ける | マトリックス組織はこれに反する |
| 統制の幅(スパン・オブ・コントロール)の原則 | 一人の管理者が直接管理できる部下の人数には限界がある | 単純業務:15〜30人、複雑業務:6〜7人が目安 |
| 権限委譲の原則 | 意思決定権限を適切に下位層に委ねる | 委譲しすぎると統制を失い、しなさすぎるとトップに負荷が集中する |
5. 3つの組織形態の比較まとめ
graph LR
A["機能別組織<br/>・専門性集積<br/>・意思決定集権<br/>・後継者育成弱い"] -->|多角化・規模拡大| B["事業部制組織<br/>・分権的・自律的<br/>・部分最適リスク<br/>・後継者育成強い"]
B -->|複雑なPJへの対応| C["マトリックス組織<br/>・機能+PJ軸の複合<br/>・命令統一性に反する<br/>・調整コスト高"]
| 比較軸 | 機能別組織 | 事業部制組織 | マトリックス組織 |
|---|---|---|---|
| 意思決定の速度 | 遅い(トップ集権) | 速い(事業部に委譲) | 中程度(調整が必要) |
| 専門性の活用 | 強い | 重複が多い | 両立しやすい |
| コスト効率 | 高い(機能集約) | 低い(機能重複) | 中程度 |
| 後継管理者の育成 | 弱い | 強い | 中程度 |
| 命令統一性 | 守られる | 守られる | 守られない |
| 適した企業規模・フェーズ | 小規模・単一製品 | 中〜大規模・多角化 | 大規模・複雑PJ |
よくある疑問
Q. 事業部制で「部分最適」が問題になるのはなぜですか?
A. 各事業部長が「自分の事業部の利益」を最大化しようとするため、全社視点での判断と食い違うことがあります。たとえば、ある事業部が採算の取れる顧客を独占し、別の事業部が同じ顧客に重複してアプローチするといった現象が起きます。
Q. マトリックス組織の「2人の上司」はなぜ問題なのですか?
A. 機能部門長の指示とプロジェクト責任者の指示が矛盾したとき、担当者がどちらに従えばよいかわからなくなります。これを「命令の二重系統」と言い、ストレス・混乱・責任のあいまい化につながります。
Q. 機能別組織と事業部制のどちらがよいのですか?
A. どちらが良いかはビジネスの状況次第です。単一製品・単一市場なら機能別、多製品・多地域に展開するなら事業部制が合理的です。チャンドラーの命題「組織は戦略に従う」のとおり、戦略の方向性によって最適な組織構造は変わります。
まとめ
中小企業診断士試験では、組織形態の名称とその特徴(特にデメリット)が繰り返し問われます。特に以下の3点を覚えておいてください。
- 機能別組織 = 専門性は育つが後継者(ゼネラルマネージャー)が育ちにくい
- 事業部制 = 後継者育成に強いが部分最適・機能重複のリスクがある
- マトリックス組織 = 柔軟性は高いが命令統一性の原則に反する
「チャンドラーの命題(組織は戦略に従う)」も頻出の概念として押さえておきましょう。