在庫管理(定量発注・定期発注・EOQ・MRP)
要点(BLUF)
在庫管理の基本は「いつ」「どれだけ」発注するかを決めること。定量発注は「量を固定してタイミングを変える」、定期発注は「タイミングを固定して量を変える」。EOQは発注費と在庫維持費のトレードオフを最小化する発注量の計算式。MRPは製品の生産計画を起点に部品・材料の必要量を逆算するシステム。
1. 在庫の役割と問題点
在庫を持つ理由
- 需給のバッファ:需要の変動・供給の遅れに対応する
- 欠品防止:生産ラインの停止・機会損失を防ぐ
- まとめ発注によるコスト削減:少量頻繁発注より1回の発注コストを下げる
在庫のコスト
graph LR
A[在庫コスト] --> B[在庫維持費<br>保管費・資本コスト・陳腐化リスク]
A --> C[発注費<br>事務処理費・運送費・段取り費]
A --> D[欠品コスト<br>機会損失・信頼失墜]
B -->|発注量増→増加| E[トレードオフ]
C -->|発注量増→減少| E
在庫維持費と発注費はトレードオフの関係にある。この合計を最小化するのがEOQ(後述)。
2. 定量発注方式(発注点法)
仕組み
在庫量があらかじめ設定した発注点(Reorder Point)を下回ったら、あらかじめ決めた一定量を発注する方式。
- 発注タイミング:在庫が発注点を下回った時(不定期)
- 発注量:毎回同じ(EOQを使うことが多い)
発注点の計算
発注点 = 調達リードタイム中の平均需要量 + 安全在庫
= (日平均需要量 × リードタイム日数) + 安全在庫
特徴
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 向いている品目 | 単価が比較的低い、需要が安定している品目(B品目・C品目) |
| 管理のしやすさ | 在庫量の監視が必要(リアルタイムの在庫把握が前提) |
| 発注作業 | タイミングがばらつく(不定期)のでまとめ発注には不向き |
3. 定期発注方式
仕組み
あらかじめ設定した一定の発注間隔(週次・月次など)で発注する方式。発注量は毎回、その時点の在庫量に応じて計算する。
- 発注タイミング:固定(毎週月曜、毎月1日など)
- 発注量:毎回変わる(在庫状況で計算)
発注量の計算
発注量 = 目標在庫量 - 現在在庫量 - 発注残
目標在庫量 = (発注間隔 + リードタイム)× 日平均需要量 + 安全在庫
特徴
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 向いている品目 | 単価が高い重要品目(A品目)、複数品目をまとめて発注したい場合 |
| 管理のしやすさ | 発注タイミングが固定なので管理しやすい |
| 安全在庫 | 定量方式より多めに必要(タイミングが固定なので欠品リスクが高い期間が長い) |
2方式の比較
graph TB
subgraph 定量発注方式
QA[在庫量] -->|発注点を下回る| QB[一定量を発注]
QB -->|入荷| QA
QC[発注タイミング:不定期]
QD[発注量:固定]
end
subgraph 定期発注方式
PA[発注間隔が来る] -->|在庫量を確認| PB[発注量を計算して発注]
PB -->|入荷| PA
PC[発注タイミング:固定]
PD[発注量:変動]
end
| 比較項目 | 定量発注 | 定期発注 |
|---|---|---|
| 発注タイミング | 不定期(在庫が発注点を下回った時) | 定期(決まった間隔) |
| 発注量 | 固定(EOQなど) | 変動(在庫量に応じて計算) |
| 安全在庫 | 比較的少なくてよい | 多めに必要 |
| 向いている品目 | B・C品目(安価・安定需要) | A品目(高価・重要) |
| 在庫管理の手間 | 在庫量の常時把握が必要 | 定期確認でよい |
4. EOQ(経済的発注量:Economic Order Quantity)
概念
発注費と在庫維持費の合計(総費用)が最小となる発注量。
- 発注費:1回発注するたびにかかるコスト(事務費・配送費など)。発注回数が増えると増加する → 発注量が少ないほど総発注費は増える
- 在庫維持費:在庫を保有することのコスト(倉庫費・資本コスト・陳腐化)。1回の発注量が多いほど平均在庫量が増える → 発注量が多いほど在庫維持費は増える
xychart-beta
title "EOQ:総費用の最小点"
x-axis ["少ない", "・", "EOQ", "・", "多い"]
y-axis "コスト" 0 --> 100
line [90, 60, 40, 50, 70]
line [10, 20, 40, 60, 80]
line [80, 70, 60, 70, 80]
※ 上図イメージ:在庫維持費(右上がり)+発注費(右下がり)の合計が最小になる点がEOQ
EOQの計算式
| 変数 | 意味 |
|---|---|
| Q* | 経済的発注量(EOQ) |
| D | 年間需要量(個/年) |
| S | 1回あたりの発注費(円/回) |
| H | 1個あたりの年間在庫維持費(円/個/年) |
例題:年間需要量1,000個、1回発注費2,000円、1個あたり年間在庫維持費200円の場合
⚠️ 試験ではこの公式を覚え、数値を代入する計算問題が出ることがある。
5. MRP(資材所要量計画:Material Requirements Planning)
概念
MRPは「何をいつ何個作るか」という生産計画(主日程計画:MPS)を起点に、それに必要な部品・材料の量と発注タイミングを逆算するシステム。
定量発注・定期発注が「過去の消費実績」から需要を予測するのに対し、MRPは「将来の生産計画」から需要を計算する点が本質的な違い。
MRPの構成要素
graph TD
MPS["主日程計画(MPS)<br>Master Production Schedule<br>いつ・何を・何個作るか"] --> MRP["MRP計算エンジン"]
BOM["部品表(BOM)<br>Bill of Materials<br>製品を構成する部品の階層構造"] --> MRP
INV["在庫記録<br>現在の在庫量・発注残"] --> MRP
MRP --> OUT1["発注指示<br>(いつ・何を・何個発注するか)"]
MRP --> OUT2["製造指示<br>(いつ・何を・何個作るか)"]
部品表(BOM)とリードタイム展開
MRPの中核となる概念がBOM(部品表)とリードタイム展開です。
BOMの例(自転車):
自転車(完成品)
├── フレーム ×1
│ └── 鋼管 ×3
├── ホイール ×2
│ ├── タイヤ ×1
│ └── スポーク ×36
└── ハンドル ×1
リードタイム展開のイメージ:
gantt
title リードタイム展開(逆算)
dateFormat YYYY-MM-DD
section 完成品
自転車 組立 :a1, 2024-03-08, 3d
section 部品
フレーム加工 :a2, 2024-03-05, 3d
ホイール組立 :a3, 2024-03-04, 4d
section 材料
鋼管発注・入荷 :a4, 2024-02-26, 7d
タイヤ発注・入荷 :a5, 2024-02-25, 7d
完成品の納期から逆算して、各部品・材料の製造・発注開始日を決定する。
MRPの計算フロー(基本)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 総所要量 | BOMから計算した必要量の合計 |
| 正味所要量 | 総所要量 − 在庫量 − 発注残 |
| 計画発注量 | 正味所要量をカバーするための発注量 |
| 計画発注開始日 | 計画発注量の受入日 − リードタイム |
6. よくある疑問
Q. 定量発注と定期発注、どちらを使えばよいの?
一般的にはABC分析と組み合わせます。年間使用金額が大きいA品目は定期発注(重点管理)、B・C品目は定量発注(省力管理)が定石です。ただし、試験では「需要が安定しているなら定量発注」「まとめて発注したいなら定期発注」という整理でも対応できます。
Q. EOQの公式は丸暗記が必要?
試験でそのまま出る可能性があるので、公式そのものは覚えたほうが安全です。ただし、「発注費と在庫維持費が等しくなる点がEOQ」という導出ロジックも理解しておくと応用が効きます。
Q. MRPと定量発注の違いは何?
定量発注は「消費した量を補充する」後ろ向きの発想。MRPは「将来の生産計画から必要量を計算する」前向きの発想。MRPは生産計画が変われば自動的に発注計画も変わるため、変動する需要への対応力が高い。
Q. MPS・BOM・在庫記録はどれが最重要?
3つがすべて揃って初めてMRPが機能します。BOMの精度が低い(部品の員数が間違っている)と、計算した所要量がすべて狂います。実務ではBOMの整備が最も難しいとされます。
7. 試験での出題パターン
- 定量発注と定期発注の特徴・違いの正誤判定(頻出・難易度低)
- 発注点の計算(リードタイム中の需要量 + 安全在庫)
- EOQの計算(公式への代入)
- MRPの仕組み・BOMの読み取り
⚠️ 引っかけポイント
- 「定量発注は管理が楽」→ 在庫量の常時監視が必要なため、実は管理コストがかかる
- 「定期発注は安全在庫が少なくて済む」→ 誤り。タイミングが固定のため安全在庫は多めに必要
- 「EOQは発注回数を最小にする発注量」→ 誤り。総費用を最小にする発注量
まとめ
- 発注方式は「定量(量固定・タイミング変動)」と「定期(タイミング固定・量変動)」の2種類
- EOQ = 発注費と在庫維持費のトレードオフを最小化する発注量。公式:√(2DS/H)
- MRPは生産計画(MPS)→部品表(BOM)→在庫記録を使って、正味所要量とリードタイムから発注・製造指示を自動生成するシステム
- ABC分析と組み合わせ:A品目→定期発注、B・C品目→定量発注が基本