収益性分析(ROA・ROE・デュポン分解)を体系的に理解する
結論から
収益性分析は「企業がどれだけ効率よく利益を生んでいるか」を数値で評価する手法です。売上高利益率系の指標(儲けの厚さ)とROA・ROE(資本に対する利益)の2系統を押さえ、さらにROEをデュポン分解することで「なぜROEが高い(低い)のか」を3要因に分解できます。
試験では指標の計算式と「どの指標を改善すればROEが上がるか」という分析問題が頻出です。
1. 売上高利益率系の指標
P/Lの5段階の利益それぞれについて、売上高に対する割合を示します。
計算式一覧
売上高総利益率(粗利率)= 売上総利益 ÷ 売上高 × 100
売上高営業利益率 = 営業利益 ÷ 売上高 × 100
売上高経常利益率 = 経常利益 ÷ 売上高 × 100
売上高純利益率 = 当期純利益 ÷ 売上高 × 100
各指標の意味
| 指標 | 何を示すか | 改善策 |
|---|---|---|
| 売上高総利益率 | 商品・サービスそのものの付加価値の高さ | 販売価格引上げ・原価低減 |
| 売上高営業利益率 | 本業全体(販管費含む)のコスト効率 | 販管費の削減・売上増 |
| 売上高経常利益率 | 財務コスト(支払利息)を含めた収益力 | 有利子負債の削減 |
| 売上高純利益率 | 最終的な利益効率 | 特別損失の圧縮・税務対策 |
具体例
| 科目 | 金額(万円) |
|---|---|
| 売上高 | 10,000 |
| 売上原価 | 6,000 |
| 売上総利益 | 4,000 |
| 販管費 | 2,500 |
| 営業利益 | 1,500 |
| 営業外費用(純額) | 200 |
| 経常利益 | 1,300 |
| 当期純利益 | 900 |
売上高総利益率 = 4,000 / 10,000 = 40%
売上高営業利益率 = 1,500 / 10,000 = 15%
売上高経常利益率 = 1,300 / 10,000 = 13%
売上高純利益率 = 900 / 10,000 = 9%
2. ROA(総資産利益率)
定義と計算式
ROA(Return on Assets)= 企業が持つ総資産をどれだけ効率的に利益に変えたか
ROA = 当期純利益 ÷ 総資産 × 100
または営業利益ベースで計算することもあります:
ROA(営業利益ベース)= 営業利益 ÷ 総資産 × 100
試験の注意点:問題文でROAの分子(純利益か営業利益か)が指定されます。指定に従ってください。
ROAの意味
ROAは「資金の出し手(債権者+株主)全体に対する利益効率」を示します。借入金の多い少ないに関わらず、資産全体の運用効率を評価できます。
目安(要最新確認):
- 5%以上:良好
- 2〜5%:標準的
- 2%未満:改善余地あり
3. ROE(自己資本利益率)
定義と計算式
ROE(Return on Equity)= 株主が出したお金でどれだけ利益を稼いだか
ROE = 当期純利益 ÷ 自己資本 × 100
ROEは株主視点の収益性指標です。ROAより高い傾向があります(借入を使うことでROEが上がるレバレッジ効果があるため)。
目安(要最新確認):
- 8〜10%以上:良好(投資家が求める水準)
- 日本企業平均はROA・ROEともに欧米より低め
4. デュポン分解(ROEの3要因分解)
ROEを3つの要因に分解することで、「なぜROEが変化したか」を診断できます。
デュポン分解の式
ROE = 売上高純利益率 × 総資産回転率 × 財務レバレッジ
= (当期純利益 ÷ 売上高) × (売上高 ÷ 総資産) × (総資産 ÷ 自己資本)
Mermaid図:デュポン分解の構造
graph TD
ROE["ROE\n当期純利益÷自己資本"]
ROE --> A["① 売上高純利益率\n当期純利益÷売上高\n=収益性"]
ROE --> B["② 総資産回転率\n売上高÷総資産\n=効率性(回転)"]
ROE --> C["③ 財務レバレッジ\n総資産÷自己資本\n=財務戦略(レバレッジ)"]
A --> A1["改善策:コスト削減\n付加価値向上"]
B --> B1["改善策:資産効率化\n売上増・不要資産削減"]
C --> C1["改善策:借入増(ただし\nリスクも増大)"]
3要因の意味と改善策
| 要因 | 計算式 | 意味 | 改善策 |
|---|---|---|---|
| ①売上高純利益率 | 純利益÷売上高 | 売上1円あたりの最終利益 | コスト削減・販売価格改善 |
| ②総資産回転率 | 売上高÷総資産 | 総資産1円あたりの売上高 | 在庫・設備の効率化・売上増 |
| ③財務レバレッジ | 総資産÷自己資本 | 自己資本の何倍の資産を使っているか | 借入増(ただしリスク増) |
計算例
| 指標 | 数値 |
|---|---|
| 売上高 | 10,000万円 |
| 当期純利益 | 900万円 |
| 総資産 | 15,000万円 |
| 自己資本 | 5,000万円 |
① 売上高純利益率 = 900 / 10,000 = 9%
② 総資産回転率 = 10,000 / 15,000 = 0.667回
③ 財務レバレッジ = 15,000 / 5,000 = 3倍
ROE = 9% × 0.667 × 3 = 18%
検算:ROE = 900 / 5,000 = 18% ✓
デュポン分解による比較分析例
2社を比較した場合:
| 企業 | 純利益率 | 総資産回転率 | レバレッジ | ROE |
|---|---|---|---|---|
| A社(高付加価値型) | 20% | 0.5回 | 2倍 | 20% |
| B社(薄利多売型) | 5% | 2.0回 | 2倍 | 20% |
ROEは同じ20%でも、稼ぎ方がまったく異なります。デュポン分解は「ROEが同じでも企業の構造が違う」を可視化できる強力なツールです。
5. ROAとROEの関係
flowchart LR
ROA["ROA\n純利益÷総資産"]
LEV["財務レバレッジ\n総資産÷自己資本"]
ROE["ROE\n純利益÷自己資本"]
ROA -->|"× 財務レバレッジ"| ROE
LEV -->|"× "| ROE
ROE = ROA × 財務レバレッジ
重要な関係:借入(負債)を増やすと財務レバレッジが上がり、ROAが一定でもROEは上昇します。ただし利払い負担が増えROAが低下するリスクもあります(トレードオフ)。
よくある疑問
Q. ROAとROEはどちらが重要ですか? A. 目的によります。企業全体の資産効率を見たい(債権者・経営者視点)→ ROA。株主視点で投資リターンを見たい → ROE。診断士試験ではどちらも重要です。
Q. 財務レバレッジを上げるとROEが上がるなら、借金を増やせばいいのでは? A. 理論上はそうですが、借入増は支払利息の増大とデフォルトリスクを招きます。借入コスト(金利)が事業のROA以上なら逆効果(逆レバレッジ)になります。
Q. 総資産回転率の単位は何ですか? A. 「回」です。1年間に総資産の何倍の売上を生み出したか、を示します。1.0回なら総資産と同額の売上、2.0回なら総資産の2倍の売上が出ている状態です。
Q. デュポン分解で分子・分母を消去するとROEになるのはなぜですか? A.「売上高」と「総資産」が途中でキャンセルされるからです。
(純利益/売上高) × (売上高/総資産) × (総資産/自己資本)
= 純利益/自己資本 = ROE
まとめ
- 売上高利益率:P/Lの各段階の利益 ÷ 売上高(収益性の”厚さ”)
- ROA = 純利益 ÷ 総資産(総資産の運用効率)
- ROE = 純利益 ÷ 自己資本(株主資本の収益性)
- デュポン分解:ROE = 売上高純利益率 × 総資産回転率 × 財務レバレッジ
- ROE = ROA × 財務レバレッジ
デュポン分解は「ROEが変化した要因はどれか」を問う試験問題に直結します。3要因それぞれの意味と改善方向を確実に押さえてください。