投資評価(NPV・IRR・回収期間法)を完全理解する
結論から
投資評価とは「今お金を出して将来の利益を得る行為」が正しい判断かどうかを数値で評価する手法です。3手法のうち最も重要なのはNPV法(正味現在価値法)で、「将来CFを現在価値に換算した合計が初期投資を上回るか」を判断します。
試験ではNPVの計算が最頻出。現在価値の概念と割引計算を確実に押さえてください。
1. 貨幣の時間価値(Time Value of Money)
「今日の100万円と5年後の100万円は同じ価値ではない」これが貨幣の時間価値の根本にある概念です。
なぜ今日の100万円の方が価値が高いか:
- 今日受け取って運用すれば5年後には増えている
- インフレで将来の購買力が下がる
- 将来の不確実性(回収できないリスク)がある
将来価値と現在価値
将来価値(FV)= 現在価値(PV) × (1 + r)^n
現在価値(PV)= 将来価値(FV) ÷ (1 + r)^n
= 将来価値(FV) × [1/(1+r)^n]
ここで:
- r = 割引率(資本コスト・期待収益率)
- n = 年数
- 1/(1+r)^n = 現価係数(Present Value Factor)
計算例
割引率10%で、3年後に受け取る133万円の現在価値は?
PV = 133 ÷ (1 + 0.1)^3
= 133 ÷ 1.331
= 100万円
2. キャッシュフローのタイムライン
投資評価では、投資プロジェクトのCFを以下のように時系列で表します。
gantt
title 投資プロジェクトのCFタイムライン
dateFormat X
axisFormat %s年目
section 初期投資
初期投資(アウトフロー): crit, 0, 1
section 年次キャッシュフロー
1年目CF(インフロー): 1, 2
2年目CF(インフロー): 2, 3
3年目CF(インフロー): 3, 4
4年目CF(インフロー): 4, 5
flowchart LR
T0["0年目\n−1,000万円\n(初期投資)"]
T1["1年目\n+300万円"]
T2["2年目\n+400万円"]
T3["3年目\n+500万円"]
T4["4年目\n+200万円\n(残存価値含む)"]
T0 --> T1 --> T2 --> T3 --> T4
3. NPV法(正味現在価値法)
定義と計算式
NPV = Σ[各年度のCF ÷ (1+r)^n] − 初期投資額
= CF₁/(1+r)¹ + CF₂/(1+r)² + ... + CFₙ/(1+r)ⁿ − I₀
判断基準:
- NPV > 0 → 投資実行(初期投資を上回るリターンが期待できる)
- NPV < 0 → 投資見送り
- NPV = 0 → どちらでもよい(収支均衡)
計算例
| 条件 | 数値 |
|---|---|
| 初期投資 | 1,000万円 |
| 1年目CF | 400万円 |
| 2年目CF | 500万円 |
| 3年目CF | 300万円 |
| 割引率 | 10% |
現価係数:
1年目:1/(1.1)¹ = 0.909
2年目:1/(1.1)² = 0.826
3年目:1/(1.1)³ = 0.751
NPV = 400×0.909 + 500×0.826 + 300×0.751 − 1,000
= 363.6 + 413.0 + 225.3 − 1,000
= 1,001.9 − 1,000
= 1.9万円 > 0
→ 投資実行を推奨
試験のポイント:現価係数は問題文に与えられることが多い。計算の手順(各年CFに現価係数をかけて合計し、初期投資を引く)を確実に覚える。
NPV法の特徴
| 長所 | 短所 |
|---|---|
| 貨幣の時間価値を考慮 | 割引率(r)の設定が難しい |
| 複数期間のCFを考慮 | 計算が複雑 |
| 投資の優劣を金額で表示 | 割引率が変わると結果が変わる |
| 理論的に最も正確 | 絶対額なので規模の違う投資比較に不向き |
4. IRR法(内部収益率法)
定義
IRR(Internal Rate of Return)はNPV = 0 になる割引率のことです。
NPV = 0 となるrを求める
CF₁/(1+IRR)¹ + CF₂/(1+IRR)² + ... − I₀ = 0
判断基準:
- IRR > 資本コスト(ハードルレート) → 投資実行
- IRR < 資本コスト → 投資見送り
IRRのイメージ
flowchart LR
IRR_CONCEPT["IRRとは\n「この投資の実質利回り」"]
COMPARE["資本コストと比較"]
IRR_CONCEPT --> COMPARE
COMPARE -->|"IRR > 資本コスト"| GO["投資実行"]
COMPARE -->|"IRR < 資本コスト"| NOGO["投資見送り"]
IRR法の特徴
| 長所 | 短所 |
|---|---|
| 利回りとして直感的に理解しやすい | 複数のIRRが存在する場合がある |
| 割引率が不明でも使える | NPVと逆の判断になることがある |
| 異なる規模の投資を比較できる | 計算が複雑(反復計算が必要) |
NPVとIRRの矛盾:複数の投資プロジェクトを比較すると、NPVで有利な方とIRRで有利な方が異なる場合があります。その場合はNPV優先が理論的に正しい判断です。
5. 回収期間法(Payback Period)
定義と計算式
回収期間(年)= 初期投資額 ÷ 年間平均CF
CFが毎年異なる場合は、累計CFが初期投資額を超えるタイミングを求めます。
判断基準:
- 回収期間 < 目標回収期間 → 投資実行
計算例
初期投資1,000万円、各年CFが以下の場合:
| 年度 | 年間CF | 累計CF |
|---|---|---|
| 1年目 | 300 | 300 |
| 2年目 | 400 | 700 |
| 3年目 | 500 | 1,200 → ここで回収完了 |
3年目の途中で回収完了:
回収期間 = 2年 + (1,000 − 700) / 500
= 2年 + 0.6年
= 2.6年
回収期間法の特徴
| 長所 | 短所 |
|---|---|
| 計算が簡単 | 貨幣の時間価値を無視 |
| 流動性・リスクを素朴に評価できる | 回収期間後のCFを無視する |
| 中小企業で実務利用が多い | 投資の収益性を正確に評価できない |
6. 3手法の比較まとめ
graph TD
METHODS["投資評価手法"]
METHODS --> NPV_M["NPV法\n(正味現在価値法)"]
METHODS --> IRR_M["IRR法\n(内部収益率法)"]
METHODS --> PP_M["回収期間法\n(Payback Period)"]
NPV_M --> NPV_D["長所:最も理論的・正確\n短所:割引率の設定が必要\n判断:NPV>0なら実行\n試験頻出度:最高"]
IRR_M --> IRR_D["長所:利回りで直感的\n短所:複数解・NPVと矛盾の可能性\n判断:IRR>資本コストなら実行\n試験頻出度:高"]
PP_M --> PP_D["長所:計算簡単・実務で多用\n短所:時間価値無視・回収後無視\n判断:PP<目標年数なら実行\n試験頻出度:中"]
| 手法 | 時間価値 | 全期間CF | 計算難度 | 試験頻出度 |
|---|---|---|---|---|
| NPV法 | 考慮 | 考慮 | 中 | 最高 |
| IRR法 | 考慮 | 考慮 | 高 | 高 |
| 回収期間法 | 無視 | 無視 | 低 | 中 |
7. 試験での出題傾向
- NPVの計算が最頻出。現価係数が与えられて、NPVを計算してプラス/マイナスを判定する
- IRRの概念問題:「IRRが資本コストを上回る場合に投資を実行する」という命題の正誤
- 回収期間の計算:累計CFから回収年数を求める
- NPVとIRRの矛盾:「複数プロジェクト比較でNPVとIRRの優先順位が異なる場合、どちらを優先するか」→ NPV優先
よくある疑問
Q. 割引率はどうやって決めるのですか? A. 実務では加重平均資本コスト(WACC)を使います。試験では問題文に割引率(または資本コスト)が与えられます。
Q. 現価係数は覚える必要がありますか? A. 試験では現価係数表が問題文に与えられることがほとんどです。ただし「1/(1+r)^n という計算式から導く」という手順は理解しておく必要があります。
Q. NPVがゼロのプロジェクトは投資してよいですか? A. 理論上は「どちらでもよい」です(資本コスト分の利益は出る)。ただし実務では機会費用やリスクを考えて見送ることが多いです。
Q. IRRが複数存在するのはどんな場合ですか? A. CFの符号が途中で正→負→正のように複数回変わる場合です(非通常型投資)。試験では通常型(初期に投資、その後は正のCF)を前提とした問題がほとんどです。
Q. 回収期間法はなぜ実務でも使われるのですか? A. 計算が簡単で、「投資したお金を何年で回収できるか」という経営者が直感的に理解しやすい指標だからです。特に中小企業や不確実性が高い投資では今でも多用されます。ただしNPVと必ず組み合わせて使うのがベストプラクティスです。
まとめ
- 貨幣の時間価値:将来CFは現在価値(PV = CF/(1+r)^n)に割り引いて評価
- NPV法:将来CFの現在価値合計 − 初期投資。NPV>0なら投資実行(最も理論的・試験最頻出)
- IRR法:NPV=0となる割引率。IRR>資本コストなら投資実行。NPVと矛盾時はNPV優先
- 回収期間法:初期投資を何年で回収できるか。時間価値無視だが計算が簡単
- 試験対策:NPVの計算手順(現価係数×CF合計−初期投資)を反射的に実行できるようにする