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結論から言うと

「借金をするほど得か、それとも損か?」——これがMM理論の問いです。税金なし(完全市場)なら資本構成は企業価値に無関係ですが、税金ありなら負債の節税効果で企業価値は上がります。ただし借りすぎると財務危機コストが増す。このバランスを探るのが「最適資本構成」の議論です。


MM理論とは

モジリアーニ(Modigliani)とミラー(Miller)が1958年に提唱した理論で、完全市場の仮定のもとでは資本構成が企業価値に影響しないことを示した定理です。

MM理論の前提条件(完全市場の仮定)

診断士試験では「前提条件は何か」が問われます。必ず覚えてください。

前提条件内容
税金がない法人税・個人所得税なし
取引コストがない売買手数料・倒産費用なし
情報の完全性全員が同じ情報を持つ
個人も企業も同じ条件で借入可能裁定取引が自由

命題I(税なし):資本構成無関係命題

完全市場では、資本構成をどう変えても企業価値は変わらない。

直感的には「自己資本100%の会社と借入50%の会社は、企業価値が同じ」というものです。なぜなら、投資家が「個人として借入」することで、企業の資本構成の変化を完全に相殺できるからです(裁定取引)。

graph LR
    A[無負債企業<br>自己資本のみ] -->|企業価値 V0| C{企業価値}
    B[有負債企業<br>自己資本 + 負債] -->|企業価値 V0| C
    C --> D[どちらも同じ<br>V_L = V_U]

命題II(税なし):レバレッジと株主資本コスト

負債が増えると、株主のリスクが上昇するため株主資本コストも上昇します。ただし、その上昇分がちょうど負債の低コスト効果を打ち消すため、WACCは一定のままです。

ke=k0+DE(k0kd)k_e = k_0 + \frac{D}{E}(k_0 - k_d)

ポイント:負債が増えても企業価値は変わらないが、株主は財務リスクを負うため高いリターンを要求する。


法人税ありのMM理論:節税効果

現実には法人税が存在します。利息は損金算入できるため、負債を使うと節税効果(タックスシールド)が生まれます。

節税効果の現在価値

節税効果の現在価値=負債額×法人税率=D×t節税効果の現在価値 = 負債額 \times 法人税率 = D \times t

有負債企業の企業価値

VL=VU+D×tV_L = V_U + D \times t

結論:法人税ありの世界では、負債を増やすほど節税効果が大きくなり、理論上は「借入100%が最適」となります。

graph TD
    A[無負債企業価値 VU] --> B[+ 節税効果 D×t]
    B --> C[有負債企業価値 VL]
    C --> D[負債↑ → 節税効果↑ → VL↑]

トレードオフ理論:現実の最適資本構成

「借入100%が最適」という結論は非現実的です。実際には財務危機コストが存在するからです。

財務危機コストとは

トレードオフ理論

企業価値 = 無負債時の価値 + 節税効果の現在価値 − 財務危機コストの現在価値

VL=VU+PV(節税効果)PV(財務危機コスト)V_L = V_U + PV(節税効果) - PV(財務危機コスト)

graph LR
    A[負債比率 D/E] --> B{バランス点}
    C[節税効果の増加↑] --> B
    D[財務危機コストの増加↑] --> B
    B --> E[最適資本構成<br>企業価値が最大]

負債比率を横軸、企業価値を縦軸にとると、「山型」のカーブになります。節税効果と財務危機コストが拮抗する点が最適資本構成です。


ペッキングオーダー理論

マイヤーズとマジルフが提唱した理論で、情報の非対称性(企業内部の方が外部より情報が豊富)を考慮した理論です。

資金調達の優先順位

graph TD
    A[1位:内部留保<br>最もコストが低い] --> B[2位:社債・銀行借入<br>次にコストが低い]
    B --> C[3位:新株発行<br>最もコストが高い]

理由:株式を新規発行すると、市場は「会社が株価を過大評価しているから増資している」と受け取り、株価が下落しやすいです。そのため企業は株式発行を最後の手段とします。

トレードオフ理論との違い

理論核心最適資本構成
トレードオフ理論節税効果と財務危機コストのバランス存在する
ペッキングオーダー理論情報の非対称性特定の最適点は存在しない

試験での出題ポイント

  1. MM命題の前提条件の正誤問題:「税金がない」「取引コストがない」「情報の完全性」が崩れると命題が成立しなくなる
  2. 「税なし→無関係」「税あり→節税効果分だけ価値増」の区別
  3. トレードオフ理論のグラフ読み取り:山型カーブのどこが最適かを問う
  4. ペッキングオーダーの順序:内部留保→負債→新株の順

よくある疑問

Q. MM理論の前提が非現実的なのに、なぜ学ぶのか?

「完全市場なら無関係」というベースラインを確立することで、税金・倒産コスト・情報の非対称性といった現実の要素が「どの方向に企業価値を動かすか」を議論できるようになります。理想的な基準点として機能します。

Q. 財務危機コストって倒産したときのコストだけ?

いいえ。倒産前から発生します。格下げによる調達コスト上昇、顧客離れ、優秀な人材の流出、有利な投資機会の逸失——これらすべてが財務危機コストです。

Q. ペッキングオーダー理論は試験でよく出るか?

MM理論・トレードオフ理論ほどの頻度ではありませんが、「なぜ企業は増資を嫌うか」という文脈で選択肢に登場します。「シグナリング効果(増資=株価過大評価のシグナル)」とセットで覚えてください。


まとめ

理論税金結論
MM理論(税なし)なし資本構成は企業価値に無関係
MM理論(税あり)あり負債増→節税効果→企業価値増
トレードオフ理論あり節税効果と財務危機コストのバランスが最適
ペッキングオーダー内部留保→負債→新株の順で調達

「MM理論の前提条件を崩すと現実の理論が生まれる」という構造で理解してください。