失業とインフレーション(フィリップス曲線・自然失業率)
要点(BLUF)
- 短期フィリップス曲線:失業率↑ ⇔ インフレ率↓(トレードオフ)
- 長期フィリップス曲線:自然失業率で垂直(インフレ率を変えても失業率は変わらない)
- 自然失業率 = 摩擦的失業 + 構造的失業(循環的失業がゼロの状態)
1. 失業の種類
flowchart TD
A["失業"] --> B["自発的失業"]
A --> C["非自発的失業"]
B --> B1["摩擦的失業\n(転職活動中・情報収集中)"]
B --> B2["構造的失業\n(産業構造変化でスキルミスマッチ)"]
C --> C1["循環的失業\n(景気後退で需要不足)"]
B1 --> D["自然失業率に含まれる"]
B2 --> D
C1 --> E["景気回復で解消"]
| 種類 | 定義 | 例 | 政策 |
|---|---|---|---|
| 摩擦的失業 | 転職活動中など情報探索による一時的失業 | 退職後の求職期間 | 職業紹介・情報提供 |
| 構造的失業 | 産業構造変化でスキルが陳腐化した失業 | 製造業衰退でエンジニアが余剰 | 職業訓練・教育 |
| 循環的失業 | 景気後退による需要不足が原因の失業 | リーマンショック後の大量解雇 | 財政・金融政策 |
| 季節的失業 | 季節要因による一時的失業 | 農業・観光業のオフシーズン | 雇用保険 |
自然失業率(Natural Rate of Unemployment)
循環的失業がゼロの状態での失業率。フリードマンとフェルプスが提唱。「完全雇用」とは失業率がゼロではなく、自然失業率と一致している状態。
2. インフレーションの種類
| 種類 | 定義 | 原因 | 例 |
|---|---|---|---|
| ディマンドプル・インフレ | 需要超過による物価上昇 | 好景気・財政拡張・金融緩和 | バブル期の物価上昇 |
| コストプッシュ・インフレ | 費用上昇による物価上昇 | 原油高・賃金上昇 | 石油ショック |
3. 短期フィリップス曲線
発見と定式化
A.W.フィリップス(1958年)がイギリスのデータから「名目賃金上昇率と失業率」に負の相関を発見。後にインフレ率と失業率の関係として定式化された。
短期フィリップス曲線:右下がり
- π:インフレ率
- u:失業率
- u*:自然失業率
失業率が自然失業率より低い(好景気)→ インフレ率が高まる 失業率が自然失業率より高い(不況)→ インフレ率が低下する(デフレ圧力)
flowchart LR
A["景気拡大\nAD右シフト"] --> B["失業率↓"]
A --> C["インフレ率↑"]
D["景気後退\nAD左シフト"] --> E["失業率↑"]
D --> F["インフレ率↓"]
B --> G["短期フィリップス曲線:\n失業率とインフレ率のトレードオフ"]
E --> G
図1:短期フィリップス曲線
読み方: 横軸が失業率(右ほど高)、縦軸がインフレ率(上ほど高)。A点は金融緩和・好景気で失業率が低くインフレ率が高い状態、B点はその逆。政府は短期的にこのトレードオフを政策に活用できる。自然失業率u*の垂直破線は長期均衡の基準。
4. 期待インフレ率と長期フィリップス曲線
フリードマン・フェルプスの批判
1970年代のスタグフレーション(インフレ + 失業率上昇の同時発生)で短期フィリップス曲線が崩壊。フリードマンとフェルプスは「期待インフレ率」の概念を導入。
期待付きフィリップス曲線:
- πe:期待インフレ率
フィリップス曲線は期待インフレ率の値に応じて上下にシフトする。
長期フィリップス曲線
長期では期待インフレ率が実際のインフレ率と一致する(適応的期待の収束)。
長期フィリップス曲線:自然失業率u*の位置に垂直
インフレ率がいくら高くても低くても、長期的には失業率は自然失業率に収束する。
flowchart TD
A["短期: 失業率↓→インフレ率↑(トレードオフ)"] --> B["人々が期待インフレ率を引き上げる"]
B --> C["フィリップス曲線が上方シフト"]
C --> D["失業率は自然失業率水準に戻る"]
D --> E["長期: 自然失業率u*で垂直"]
図2:長期フィリップス曲線(垂直)と期待インフレ上昇によるシフト
読み方: 長期では政府が金融緩和で失業率を下げようとするたびに期待インフレ率が上昇し、短期PCがPC1→PC2→PC3と上方シフトする。長期均衡点はLRPC上のu*に戻る。インフレ率だけが上昇し失業率は変化しない——これが加速インフレ仮説。スタグフレーションはPC曲線自体が右上にシフトした状態(失業率もインフレ率も上昇)。
スタグフレーションの説明
1970年代の石油ショックでAS曲線が左上シフト → インフレと景気後退が同時発生 → 短期フィリップス曲線では説明できない(インフレ率と失業率が同時上昇)。これが期待インフレの考え方の普及につながった。
5. 政策的含意
インフレとのトレードオフ
短期的には財政・金融政策で「失業率低下 ↔ インフレ上昇」のトレードオフを活用できる。ただし:
- 長期的には自然失業率以下に失業率を下げ続けることはできない
- 試みると加速するインフレが生じるだけ(加速インフレ仮説)
インフレ期待の管理(インフレターゲティング)
中央銀行が明示的なインフレ目標を設定することで期待インフレ率をアンカーし、フィリップス曲線の上方シフトを防ぐ政策フレームワーク。
よくある疑問
Q: 「スタグフレーション」はなぜ短期フィリップス曲線で説明できないのか?
A: 短期フィリップス曲線は「インフレ率上昇 → 失業率低下」という右下がりの関係を前提にしています。しかしスタグフレーションでは「インフレ率上昇 + 失業率上昇」が同時に発生する。これはフィリップス曲線そのものが上方シフトした(=期待インフレ率が高まった)ため、あるインフレ率でも以前より高い失業率が対応するようになった状態です。
Q: 自然失業率はゼロにできるか?
A: 理論上できません。摩擦的失業(転職活動中の失業)は完全な情報が存在しない限り必ず発生します。求職者と求人のマッチングには時間がかかる。構造的失業も産業構造が変化し続ける限り発生します。自然失業率がゼロということは、誰も転職も産業変化もない静態的経済を意味します。
Q: 日本の物価が上がらない(デフレ傾向)のはなぜか?
A: 複合的な要因があります。需要側では少子高齢化による消費低迷、企業の設備投資抑制。供給側では企業の価格引き上げへの抵抗(デフレ・マインド)、輸入価格の安定。期待インフレ率が長年低位安定しているため、フィリップス曲線が原点近くにとどまっていると解釈できます(要最新確認)。
まとめ
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| 自然失業率 | 摩擦的 + 構造的失業率(循環的失業なし) |
| 短期フィリップス曲線 | 右下がり(失業率↑ ↔ インフレ率↓) |
| 長期フィリップス曲線 | 垂直(自然失業率u*で) |
| スタグフレーション | AS左上シフトにより失業率とインフレ率が同時上昇 |
試験では「自然失業率の定義(摩擦的+構造的)」「短期と長期フィリップス曲線の違い」「スタグフレーションの説明」が頻出。