結論から言うと
企業価値評価とは「その会社はいくらか?」を計算する手法です。主要な手法はDCF法(将来のキャッシュフローの現在価値合計)とマルチプル法(類似企業との比較)の2つです。診断士試験では計算より概念理解が中心ですが、DCF法の計算フローは押さえてください。
企業価値評価が使われる場面
- M&A(買収・合併)の価格交渉
- 事業売却の際の妥当価格算定
- 株式上場(IPO)の公開価格算定
- 投資家の投資判断
企業価値の概念整理
graph TD
A[企業価値 EV<br>Enterprise Value] --> B[株式価値<br>Equity Value]
A --> C[有利子負債]
B --> D[株価 × 発行済株式数<br>時価総額]
E[株式価値] --> F[= 企業価値 - 有利子負債]
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| 企業価値(EV) | 事業全体の価値(株主+債権者の分) |
| 株式価値 | 株主に帰属する価値(EV − 負債) |
| 時価総額 | 株価 × 発行済株式数(株式価値の市場評価) |
DCF法(Discounted Cash Flow)
基本的な考え方
「将来事業が生み出すキャッシュフロー(FCF)を、リスクを考慮した割引率(WACC)で現在価値に換算し合計する」方法です。
- :t期のフリーキャッシュフロー
- :加重平均資本コスト(割引率)
- :ターミナルバリュー(継続価値)
DCF法の計算手順
flowchart TD
A[Step 1: FCFを予測<br>通常5〜10年] --> B[Step 2: WACCを計算<br>CAPM + 負債コスト]
B --> C[Step 3: FCFを現在価値に割引]
C --> D[Step 4: ターミナルバリューを計算]
D --> E[Step 5: TVを現在価値に割引]
E --> F[Step 6: FCFの現在価値合計 + TVの現在価値<br>= 企業価値]
フリーキャッシュフロー(FCF)とは
事業が生み出した、債権者と株主双方に帰属するキャッシュです。
または
ターミナルバリュー(継続価値)
予測期間(5〜10年)以降、企業が永続すると仮定したキャッシュフローの価値です。
定率成長モデルによる計算:
- :予測期間後最初のFCF
- :FCFの永続成長率
- :割引率
ターミナルバリューが企業価値全体の60〜80%を占めることも多く、成長率 の設定が評価額に大きく影響します。
pie title 企業価値の構成(例)
"予測期間中のFCF現在価値合計" : 30
"ターミナルバリューの現在価値" : 70
マルチプル法(類似会社比較法)
類似する上場企業の市場での評価倍率(マルチプル)を使って、対象企業を評価する方法です。DCF法と異なり、市場の現実的な評価を直接反映できます。
主なマルチプル指標
| 指標 | 計算式 | 意味 |
|---|---|---|
| PER | 株価 ÷ EPS(1株当たり純利益) | 利益の何倍で買われているか |
| PBR | 株価 ÷ BPS(1株当たり純資産) | 純資産の何倍で買われているか |
| EV/EBITDA | 企業価値 ÷ EBITDA | 事業価値がEBITDAの何倍か |
EV/EBITDAの計算
- EBITDA = 税引前利益 + 支払利息 + 減価償却費(Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation and Amortization)
- 国際比較や買収価格の妥当性判断によく使われます
graph LR
A[類似上場企業のEV/EBITDA<br>例 8倍] --> B[対象企業のEBITDA<br>例 10億円]
B --> C[推定企業価値<br>8 × 10億円 = 80億円]
純資産価値法(ネットアセット法)
貸借対照表の純資産額をもとに企業価値を算定する方法です。
| 手法 | 内容 |
|---|---|
| 簿価純資産法 | B/Sの純資産をそのまま使用 |
| 時価純資産法 | 資産・負債を時価に修正して純資産を計算 |
シンプルな手法ですが「将来の収益力を反映しない」という欠点があります。主に清算価値の下限として使われます。
各手法の比較
graph TD
A[企業価値評価手法] --> B[DCF法<br>将来のFCFから算出]
A --> C[マルチプル法<br>市場の類似企業から算出]
A --> D[純資産価値法<br>B/Sの資産・負債から算出]
B --> E[メリット:理論的<br>デメリット:仮定次第で大きく変動]
C --> F[メリット:市場実勢を反映<br>デメリット:比較対象の選定が難しい]
D --> G[メリット:客観的<br>デメリット:収益力を無視]
| 手法 | 見ているもの | 主な用途 |
|---|---|---|
| DCF法 | 将来のキャッシュ創出能力 | M&A・IPO価格算定 |
| マルチプル法 | 市場の評価水準 | 相場感の把握・クロスチェック |
| 純資産価値法 | 保有資産の価値 | 清算・不動産保有会社 |
実務では複数手法を組み合わせて使います。
試験での出題ポイント
診断士試験では計算より概念が中心です。
- DCF法の構造:FCFを予測→WACCで割引→TV加算という流れ
- ターミナルバリューの公式:
- WACCが割引率になる理由:事業全体(債権者+株主)のキャッシュを評価するため
- 各手法の特徴の正誤問題:「DCF法は将来キャッシュフローを現在価値に割り引く」など
よくある疑問
Q. DCF法でなぜWACCを使うのか?
FCFは「債権者と株主の双方に帰属するキャッシュ」です。そのため、双方の資本コストを加重平均したWACCで割り引くことが理論的に正しいです。株主だけに帰属するキャッシュ(株主配当後利益)を評価するなら、株主資本コスト(ke)で割り引きます。
Q. EBITDAとは何か、なぜ使われるのか?
EBITDAとは「税引前利益+支払利息+減価償却費」で、「事業が稼ぐ現金ベースの利益」の近似値です。国ごとの税制・金利・会計基準の違いを除いた純粋な事業収益力を比較できるため、クロスボーダーM&Aで特によく使われます。
Q. ターミナルバリューの成長率 g はどう決めるのか?
実務では長期インフレ率や名目GDP成長率を参考に1〜3%程度に設定することが多いです。ただしgの設定は恣意的になりやすく、DCF法の最大の弱点の一つです。感度分析(gとWACCを変化させて企業価値がどう変わるか)が実務では必須です。
まとめ
| 手法 | 計算の核心 |
|---|---|
| DCF法 | FCFを予測し、WACCで現在価値に割引 + ターミナルバリュー |
| マルチプル法 | 類似企業のPER・PBR・EV/EBITDAを使って逆算 |
| 純資産価値法 | B/Sの(修正後)純資産を企業価値とする |
DCF法はWACCと切り離せません。資本コスト(WACC・CAPM)でWACCの計算を確認してから、このDCF法の手順を学ぶと理解が深まります。