🎓 レベル:応用 | 重要度:A(必須)
📎 前提:シナリオプランニング・リアルオプションと戦略的柔軟性。確率更新はベイズ統計
要点(BLUF)
- 決定木は、意思決定ノード(自分が選ぶ)と確率ノード(自然が決める)を交互に並べ、末端の利得から**ロールバック(後ろ向き計算)**で最適手を求める道具です。
- **完全情報の価値(EVPI)**は「もし未来が完全に分かったら得られる期待値」と「分からないまま最善手を打つ期待値」の差。情報にいくらまで払えるかの上限を与えます。
- 現実の情報は不完全です。信頼性のある市場調査の**標本情報の価値(EVSI)**をベイズ更新で計算し、それが調査コストを上回るかで「調べるべきか」を判断します。
1. 決定木のロールバックと EVPI
新製品の発売判断。成功(確率0.4)なら +500、失敗(0.6)なら −300。見送りは 0。
flowchart LR
D{"発売する?"} -- "発売" --> C{"市場は?"}
D -- "見送り" --> N["利得 0"]
C -- "成功 0.4" --> S["+500"]
C -- "失敗 0.6" --> F["-300"]
# 決定木のロールバック:発売 vs 見送り
p_succ = 0.40
pay = {"成功": 500.0, "失敗": -300.0}
ev_launch = p_succ * pay["成功"] + (1 - p_succ) * pay["失敗"]
ev_not = 0.0
best = max(ev_launch, ev_not)
print(f"発売のEV:{ev_launch:.1f} / 見送りのEV:{ev_not:.1f} "
f"→ 最適は {'発売' if ev_launch > ev_not else '見送り'}(EV {best:.1f})")
# 完全情報の価値 EVPI:未来が分かれば各状態で最善手を打てる
ev_perfect = p_succ * max(pay["成功"], 0) + (1 - p_succ) * max(pay["失敗"], 0)
evpi = ev_perfect - best
print(f"完全情報下のEV:{ev_perfect:.1f}")
print(f"完全情報の価値 EVPI:{evpi:.1f}")
出力:
発売のEV:20.0 / 見送りのEV:0.0 → 最適は 発売(EV 20.0)
完全情報の価値 EVPI:180.0
完全情報下のEV:200.0
(出力順は実行環境により前後しますが値は同じです。)
出力の意味:発売の期待値は +20 でわずかにプラス、だから発売が最適。ただし失敗時 −300 のリスクを抱えます。もし未来が完全に分かれば、成功と分かった時だけ発売(+500)、失敗と分かれば見送り(0)で、期待値は 200。その差 EVPI=180 が「完璧な情報に払える上限」です。−300 のリスクを避けられる価値が、情報の価値として 180 と定量化されました。情報収集の予算は、原理的に EVPI を超えてはいけません。
2. 不完全な調査の価値(EVSI)
完璧な情報は買えません。信頼性が「成功時に陽性 0.8/失敗時に陽性 0.3」の市場調査を考えます。ベイズで事後確率を更新し(更新の詳細はベイズ統計)、調査してから決める価値 EVSI を求めます。
p_succ = 0.40
pay = {"成功": 500.0, "失敗": -300.0}
best = 20.0 # 調査なしの最適EV(前節)
# 調査の信頼性
p_pos_succ, p_pos_fail = 0.80, 0.30 # P(陽性|成功), P(陽性|失敗)
p_pos = p_pos_succ*p_succ + p_pos_fail*(1 - p_succ) # 陽性の周辺確率
post_pos = p_pos_succ*p_succ / p_pos # P(成功|陽性)
post_neg = (1 - p_pos_succ)*p_succ / (1 - p_pos) # P(成功|陰性)
def ev_launch(ps):
return ps*pay["成功"] + (1 - ps)*pay["失敗"]
ev_pos = max(ev_launch(post_pos), 0) # 陽性なら発売/見送りの良い方
ev_neg = max(ev_launch(post_neg), 0) # 陰性なら同上
ev_with_test = p_pos*ev_pos + (1 - p_pos)*ev_neg
evsi = ev_with_test - best
print(f"陽性確率 {p_pos:.2f}、事後成功確率 陽性{post_pos:.2f}/陰性{post_neg:.2f}")
print(f"検査後の最適EV:陽性→{ev_pos:.1f}, 陰性→{ev_neg:.1f}")
print(f"検査ありのEV:{ev_with_test:.1f}")
print(f"標本情報の価値 EVSI:{evsi:.1f}(EVPI 180.0 が上限)")
出力:
陽性確率 0.50、事後成功確率 陽性0.64/陰性0.16
検査後の最適EV:陽性→212.0, 陰性→0.0
検査ありのEV:106.0
標本情報の価値 EVSI:86.0(EVPI 180.0 が上限)
出力の意味:調査が陽性なら成功確率が 0.40→0.64 に上がり発売(EV 212)、陰性なら 0.40→0.16 に下がり見送り(EV 0)。調査してから決める価値は 106、調査なしの 20 を引いた EVSI=86 が「この調査に払える上限」です。完璧でない分、EVPI(180)より小さい。だから市場調査の費用が 86 未満なら実施が得、それ以上なら払い過ぎ。情報の価値を金額で評価できることが、決定分析の実務的な力です。
⚠️ よくある誤解
- 「期待値最大化が常に正しい」ではない:リスクが大きく一回限りなら、効用(リスク回避)やシナリオプランニングの頑健性も併用します。
- 「情報は多いほど良い」ではない:情報の価値には上限(EVPI)があり、コストが価値を超えれば調べない方が得です。
- 「調査が陽性=発売で安心」ではない:事後確率(0.64)で見ます。検査の信頼性を織り込まないと過信します(ベイズ統計)。
- EVPI ≥ EVSI ≥ 0:完全情報の価値が常に上限。EVSI は調査の信頼性が高いほど EVPI に近づきます。
関連ノート
- シナリオプランニング(確率が曖昧な深い不確実性)/リアルオプションと戦略的柔軟性(柔軟性の価値)
- M&Aの戦略と価値評価(勝者の呪い=情報の非対称)/PEST分析とマクロ環境(不確実性の特定)
- 事後確率の計算・ベイズ更新はベイズ統計テキスト、効用とリスク回避は金融工学テキストへ
- 経営戦略テキスト 全体目次