🎓 レベル:基礎 | 重要度:A(必須)
📎 前提:なし(この章の入口) | 関連:責任共有モデルとリージョン/AZ・コストとスケーリングの考え方
要点(BLUF)
- クラウド=資源をAPIで借りて使った分だけ払うモデル。サーバを「買って数年持つ固定費」から「借りて返す変動費」に変える。本質は所有から利用へ。
- IaaS/PaaS/SaaS は「どこまで自分で管理し、どこからクラウドに任せるか」の3段階。下に行くほど自由で手間が多く、上に行くほど楽だが自由が減る。
- 選択の基準は「差別化につながらない部分はできるだけ上のレイヤー(マネージド)に任せる」。OSのパッチ当てで価値は生まれない。
概念 ── オンプレミスとの違い
従来の オンプレミス(自社運用) は、サーバを購入し、データセンターに置き、電源・空調・ネットワーク・OS・ミドルウェア・アプリまですべて自分で面倒を見ます。初期投資(CapEx)が大きく、需要を読み違えると「買いすぎて遊ぶ」か「足りなくて落ちる」かのどちらか。
クラウド は、これらをサービスプロバイダ(要最新確認:AWS・Azure・Google Cloud など)がまとめて運用し、利用者は API・管理画面から必要なだけ即座に確保して、使った分だけ支払います(OpEx)。違いを一枚で整理します。
| オンプレミス | クラウド | |
|---|---|---|
| 費用 | 初期投資が大(CapEx) | 従量課金(OpEx) |
| 調達 | 発注〜設置に数週間 | API で数分・数秒 |
| 容量 | 買った分が上限 | 実質ほぼ無限に伸縮 |
| 運用 | 全レイヤー自分 | 下のレイヤーは任せられる |
| 障害時 | 自分でハード交換 | 多くは自動で代替へ |
クラウドの強みは「弾力性(elasticity)」です。アクセスが増えたら増やし、減ったら減らす。この伸縮を秒・分単位でできることが、固定費の世界との決定的な差です。
仕組み ── 3つの抽象度(IaaS/PaaS/SaaS)
「どこまで自分で管理するか」を線引きしたのが3つのモデルです。下から積み上がるスタックの、どこに利用者とクラウドの境界線を引くかで名前が変わります。
flowchart TB
subgraph SaaS["SaaS(例:メール・チャットサービス)"]
s1["アプリまで全部クラウド。利用者は使うだけ"]
end
subgraph PaaS["PaaS(例:アプリ実行基盤)"]
p1["利用者はコードだけ。OS・ランタイムはクラウド"]
end
subgraph IaaS["IaaS(例:仮想マシン)"]
i1["利用者はOSから上。ハード・仮想化はクラウド"]
end
IaaS --> PaaS --> SaaS
| モデル | 利用者が管理 | クラウドが管理 | 例(要最新確認) |
|---|---|---|---|
| IaaS | OS・ミドル・アプリ | ハード・仮想化・ネットワーク | 仮想マシン・ブロックストレージ |
| PaaS | アプリ・データ | OS・ランタイム・スケーリング | アプリ実行基盤・マネージドDB |
| SaaS | データ・設定だけ | アプリ含め全部 | メール・表計算・CRM |
イメージは「ピザを食べる方法」のたとえが有名です。オンプレ=家で粉から作る、IaaS=生地キットを買う、PaaS=宅配を頼む、SaaS=レストランで食べる。下に行くほど手間と自由、上に行くほど手軽さが増えます。
動く例 ── 「APIで借りる」を体感する
クラウドの本質は「資源がコマンド/APIで手に入る」こと。例として CLI で仮想マシンを1台起動するイメージ(プロバイダにより構文は違う・要最新確認)。
# クラウドCLIの典型(疑似・プロバイダごとに実コマンドは異なる)
# 「インスタンスを1台、このイメージで、この性能で起動して」を1行で依頼
cloud compute instances create web-01 \
--image ubuntu-22.04 \
--machine-type small \
--zone asia-northeast1-a
# 数十秒で起動し、課金が始まる。不要なら delete で即停止=即課金停止
ポイントは、この1コマンドが「サーバの発注・設置・OS導入」を置き換えていること。そして消せば課金が止まる。この即時性と従量性が、後の IaC(IaCとは・宣言的構成)で「インフラ全体をコードで起こして消す」発想につながります。
なぜこう分けるのか
- 差別化しない仕事を手放すため:OSのセキュリティパッチ当てやDBのバックアップ運用は、誰がやっても価値が同じ「重い仕事(undifferentiated heavy lifting)」。これをマネージドに寄せ、自分は本業のアプリに集中する。
- 責任を明確にするため:どのモデルを選ぶかで「自分が守る範囲」が決まる。これが 責任共有モデルとリージョン/AZ の責任共有モデルに直結します。
⚠️ よくある誤解・落とし穴
- 「クラウドは必ず安い」→ 使い方次第。消し忘れた資源・過剰なスペック・想定外の通信料でオンプレより高くなることは普通にある(コストとスケーリングの考え方)。
- 「SaaSが一番進んでいて常に正解」→ 自由度が要る・既存システムと密に繋ぐ用途では IaaS/PaaS が適切。抽象度は高ければ良いのではなく、手放してよい責任の量で選ぶ。
- 「マネージドなら運用ゼロ」→ クラウド側が見るのは下のレイヤーだけ。設定ミス・権限・データは依然として利用者の責任。
- 「クラウド=どこかの1台の巨大コンピュータ」→ 実体は世界中のデータセンター群。どこに置くかは 責任共有モデルとリージョン/AZ のリージョン/AZの話。
対応ラボ
なし(概念トピック)。実際に資源をAPIで起こす感覚は第5章 IaC(Terraformの基礎(HCL・state))の terraform apply で体験します。
関連
- 利用者とクラウドの責任の線引きは 責任共有モデルとリージョン/AZ
- 借りた資源にいくらかかるかは コストとスケーリングの考え方
- 何を借りられるか(資源の品揃え)は 主要サービスの地図(計算・保存・ネットワーク・DB)
- インフラ全体をコードで起こす発想は IaCとは・宣言的構成