🎓 レベル:標準 | 重要度:A(必須)
📎 関連:顧客獲得コスト(CAC)とLTV/CAC | 前提:マーケティングデータとKPIの体系
要点(BLUF)
- LTV(顧客生涯価値、CLV とも)は、1顧客が取引を続ける間にもたらす粗利(貢献利益)の総和です。売上ではなく粗利で測ります。
- 継続率 が一定、期間割引率を とすると、毎期の粗利 の現在価値合計は幾何級数で閉じ、。無割引()なら です。
- 継続率 が 1 に近づくと LTV は凸的に急増します。継続率を数ポイント上げる施策は、価値を跳ね上げる強いレバーです。
1. LTV とは:粗利の生涯総和
**LTV(Lifetime Value)は、1人の顧客が「取引を続けてくれる間に、自社にもたらす粗利の合計」です。ポイントは、売上ではなく粗利(貢献利益=売上 − 変動費・原価)**で測ること。割引や送料・原価で利益が薄い顧客は、売上が大きくても LTV は小さくなります。
いちばん素朴な形は、こうです。
「期待継続期間」は、継続率 (次の期も取引を続ける確率)が一定なら計算できます。獲得直後を第0期として、顧客が第 期まで生き残っている確率は 。アクティブな期数の期待値は、生存確率を足し上げた幾何級数です。
たとえば毎期の粗利 円、継続率 なら、期待継続期間は 期、素朴版 LTV は 円です。
2. 割引を入れた LTV(数式)
将来の粗利は、いま手にする粗利より価値が低い(お金の時間価値)。そこで期間割引率 で現在価値に割り引きます。前提(規約)を明示します。
- 各期の期首に粗利 が入る。
- 第0期(獲得直後)は生存確率 1、第 期は生存確率 。
- 第 期の粗利は で現在価値に割り引く。
すると第 期がもたらす「割引後・期待粗利」は 。これを全期間で足すと、公比 の幾何級数になります。 なら で収束し、 なので、
割引を無視()すると となり、§1 の素朴版と一致します。
flowchart LR P0["第0期:粗利 m(生存確率 1)"] --> P1["第1期:m × r /(1+d)"] P1 --> P2["第2期:m × r^2 /(1+d)^2"] P2 --> Pn["… → 幾何級数で総和 = LTV"]
規約の明記:この定義は獲得直後(第0期)の初回粗利も LTV に含めます。つまり LTV は「獲得した瞬間からの粗利の現在価値合計」です。次ノートで CAC(獲得コスト)と比べるとき、この起点を揃えておくことが重要です。
3. 級数和と閉形式は一致する(コード)
幾何級数を直接 から大きな まで足した値と、閉形式 が一致するかを確かめます。さらに継続率 を動かし、LTV が について凸(1 に近づくほど急増)であることを表で見ます。
数式の対応:公比 、。
import numpy as np
import pandas as pd
# 1顧客の前提:各期首にもたらす粗利 m、期間継続率 r、期間割引率 d
m = 3000.0 # 1期あたりの粗利(貢献利益、円)
r = 0.80 # 継続率(次の期も継続する確率)
d = 0.10 # 期間割引率
# (a) 級数を t=0..T で数値合計:第t期の割引後・期待粗利 = m * (r/(1+d))**t
T = 1000
t = np.arange(T + 1)
series_ltv = np.sum(m * (r / (1 + d)) ** t)
# (b) 閉形式 LTV = m(1+d)/(1+d-r)
closed_ltv = m * (1 + d) / (1 + d - r)
print(f"級数和(t=0..{T}) = {series_ltv:,.2f} 円")
print(f"閉形式 m(1+d)/(1+d-r) = {closed_ltv:,.2f} 円")
print(f"無割引 d=0 の m/(1-r) = {m / (1 - r):,.2f} 円")
# 継続率 r を動かして LTV の凸性を見る(m, d は固定)
rows = []
for rr in [0.6, 0.7, 0.8, 0.9]:
rows.append({
"継続率r": rr,
"期待継続期間": 1 / (1 - rr), # 無割引の素朴な期待継続期間 1/(1-r)
"LTV": m * (1 + d) / (1 + d - rr),
})
tbl = pd.DataFrame(rows)
print("\n=== 継続率 r と LTV(m=3000, d=0.10 固定)===")
print(tbl.to_string(index=False, formatters={
"継続率r": "{:.2f}".format,
"期待継続期間": "{:.2f}".format,
"LTV": "{:,.0f}".format}))
出力:
級数和(t=0..1000) = 11,000.00 円
閉形式 m(1+d)/(1+d-r) = 11,000.00 円
無割引 d=0 の m/(1-r) = 15,000.00 円
=== 継続率 r と LTV(m=3000, d=0.10 固定)===
継続率r 期待継続期間 LTV
0.60 2.50 6,600
0.70 3.33 8,250
0.80 5.00 11,000
0.90 10.00 16,500
出力の意味:まず級数和と閉形式がともに 11,000 円で一致しました(公比 なので で完全に収束)。一方、割引を無視した 円より、割引後の 11,000 円は小さい——将来の粗利を割り引くぶん LTV は控えめになります。下の表が肝心です。 を 0.6 → 0.9 と上げると、LTV は 6,600 → 8,250 → 11,000 → 16,500 と増えますが、増分が 1,650 → 2,750 → 5,500 と加速しています。これは期待継続期間 が 2.5 → 10 へ非線形に伸びるためで、LTV は について凸。継続率を「あと数ポイント」上げる施策が、なぜ価値に大きく効くのかが数字で見えます。
⚠️ よくある誤解
- LTV は売上ではなく粗利で測る:売上で測ると、原価・変動費を賄えない薄利の顧客まで過大評価します。分子は必ず貢献利益(粗利)に。
- 継続率一定は近似:現実の継続曲線は逓減します(初期に解約が多く、生き残った顧客ほど続く)。一定 は単純化で、より精緻にはリテンション曲線(本章後半 02-03 で扱う)や確率的購買モデル BG/NBD(第9章)を使います。
- 割引を無視すると長期で過大評価: の は将来粗利を額面のまま足すため、現在価値()より大きく出ます(15,000 対 11,000)。長期・低継続率ほど差が開きます。
- LTV は予測であって保証ではない:継続率・粗利・割引率という前提が外れれば値も動きます。点推定の一発値だけでなく、前提を振った感度( や のレンジ)で幅を見ましょう。
関連ノート
- 顧客獲得コスト(CAC)とLTV/CAC(次のトピック・LTV を獲得コスト CAC と比べて採算を見る)
- 第2章 顧客価値の測定 目次
- マーケティングデータとKPIの体系(「単価 × 頻度 × 継続」からの展開)
- 割引現在価値の一般論は金融テキストへ/確率的購買モデル BG/NBD は第9章/継続率が一定でなく逓減する実際のリテンション曲線は本章後半(02-03)で扱う
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