🎓 第8章:レコメンデーション
第8章 レコメンデーション
ここまでの章で、私たちは顧客の選好を測り(第5章)、似た顧客をセグメントにまとめ(第6章)、施策の効果を検証してきました(第7章)。本章はそれらを一段、解像度を上げます——「このセグメントに何を売るか」ではなく、「この一人に、次に何を薦めるか」。一人ひとりに合う商品を、何百万人規模で自動提示する仕組みが**レコメンデーション(推薦)**です。EC のトップページ、動画サービスの「あなたへのおすすめ」、音楽のプレイリスト——売上の大きな割合が、いまや推薦経由で生まれます。
推薦の中心問題はシンプルに言える欠測の穴埋めです。ユーザー × アイテムの巨大な表があり、ほとんどのセルは空(まだ見ていない・買っていない)。空のセルに「もし出会ったらどれだけ好むか」を予測し、上位を提示する——これが推薦の骨格です。穴の埋め方に二つの大きな系統があります。
ひとつは 協調フィルタリング(近傍法・行列分解)(collaborative filtering)。アイテムの中身は一切見ず、ユーザーたちの行動履歴だけを使い、「あなたに似た人が好んだもの」「あなたが好んだものと一緒に好まれるもの」を予測します。近傍法(コサイン類似度の加重平均)と、評価行列を潜在因子に分解する行列分解()の二本立てです。コサイン類似度は クラスタリングによるセグメンテーション(k-means) で、潜在因子の発想は後段の機械学習につながります。
もうひとつが コンテンツベース・ハイブリッド推薦(コールドスタート対策)。協調が「みんなの行動」を使うのに対し、コンテンツベースはアイテムの属性ベクトルを使い、「好んだものに似た属性のもの」を薦めます。製品を属性の束として捉える発想は コンジョイント分析(部分効用・WTP・市場シェア) そのものです。最大の利点はコールドスタート——履歴ゼロの新規アイテムでも、属性さえあれば推薦できる。協調の弱点を補うので、両者を重み で混ぜるハイブリッドが実務の定番になります。
そして、推薦は一度きりではなく回り続ける——薦めて、反応を見て、また薦める。この探索(新しい候補を試す)と活用(良いと分かった候補を出す)のオンライン最適化を担うのが多腕バンディットで、本章の到達点です(多腕バンディットとオンライン最適化)。どの推薦が効いたかの最終判定は、結局 A/Bテストの設計と分析 の実験に帰着します。
トピック一覧
- 協調フィルタリング(近傍法・行列分解) — 標準
- コンテンツベース・ハイブリッド推薦(コールドスタート対策) — 標準
- 多腕バンディットとオンライン最適化 — 標準
関連章
- 第5章 顧客選好と選択モデル(製品=属性の束。コンジョイントの部分効用=属性の価値が、コンテンツベースの特徴ベクトルの発想に直結する)
- 第6章 セグメンテーション(コサイン類似度・教師なしで「似た者」を測る道具立てが、協調フィルタリングの近傍法にそのまま効く。セグメントが「集団への推薦」なら、本章は「個人への推薦」)
- 第7章 実験と因果推論(推薦アルゴリズムが本当に売上を上げたかは、オフラインのRMSEではなくA/Bテストで検証する。多腕バンディットは実験を「回しながら最適化」する発展)
- レコメンドの一般理論(行列分解の最適化・暗黙的フィードバック・評価指標・深層推薦)、および多腕バンディットの強化学習としての扱いは機械学習テキストにあり、重複させず参照します。本章はそれらを**マーケの「一人ひとりへの提示」**に束ねます。