🎓 レベル:応用 | 重要度:A(必須)
📎 前提:工程能力指数(シグマ水準 ) | 抜取検査の確率(二項):ベルヌーイ分布・二項分布 | OC曲線・生産者危険α/消費者危険β:品質管理・第一種の過誤・第二種の過誤・検出力(2種類の誤りとトレードオフ・サンプルサイズ設計)(統計)
要点(BLUF)
- シックスシグマは、 という統計用語の顔をしていますが、中身は改善のマネジメント手法です。中核が DMAIC(Define・Measure・Analyze・Improve・Control)という、データで原因を突き止め改善を定着させる5段サイクル。
- シグマ水準 → DPMO(Defects Per Million Opportunities)の対応で品質を測ります。有名な 「=3.4 DPMO」は、長期的に工程平均が ずれるという慣行の約束込みの値で、。シフトを置かなければ は約2 ppb(桁が全然違う)。
- 品質コストは PAF——予防(Prevention)・評価(Appraisal)・失敗(Failure)——に分け、1-10-100 の法則(源流で防げば1、検査で捕まえれば10、顧客に届いてからは100)が示すとおり、上流に金をかけるほど総額は下がる。
- 検査設計を OM の意思決定として扱います。OC曲線・生産者危険 /消費者危険 の理論は 品質管理・第一種の過誤・第二種の過誤・検出力(2種類の誤りとトレードオフ・サンプルサイズ設計) に譲り、本稿は検査の経済性——全数検査・無検査・抜取のどれが安いか。デミングの「全数か無か(all-or-none)」ルール:安定工程では中途半端な抜取は損で、不良率 が損益分岐 を超えれば全数、下回れば無検査が最適です。
1. シックスシグマと DMAIC——手法であって魔法ではない
シックスシグマは、モトローラ/GE が広めた全社的な品質・プロセス改善の枠組みです。統計(管理図・能力指数・検定・実験計画)を道具箱として使いますが、本質は「測れるものにして、原因をデータで突き止め、改善を標準に固定する」というマネジメントの規律です。中核の改善サイクルが DMAIC。
flowchart LR D["Define 定義<br/>問題・顧客要求(CTQ)・目標"] --> M["Measure 測定<br/>現状の能力・DPMOを測る"] M --> A["Analyze 分析<br/>原因をデータで特定"] A --> I["Improve 改善<br/>対策・最適条件を実装"] I --> C["Control 管理<br/>管理図で定着・再発防止"] C -->|"次の課題へ"| D
最後の C(Control)が管理図(統計的工程管理)です。改善した状態を - 管理図で見張り、元に戻らないよう固定する——DMAIC は前章までの道具を改善のプロセスに組み込んだもの、と捉えると腑に落ちます。
2. シグマ水準と DPMO——なぜ が 3.4 なのか
DPMO は不良率を百万機会あたりに正規化した指標です。
工程能力(工程能力指数)で見たとおり、シグマ水準 最寄り規格までが何 かで、短期(工程が中心に静止)なら片側不良率は 。ところがシックスシグマでは、長期には工程平均がじわじわ ほど動くという経験則を織り込み、シグマ水準から を引いて不良率を見積もります。これが「=3.4 DPMO」の正体です。
シフトを置かなければ は (片側)、両側で約 2 ppb——3.4 DPMO とは6桁違います。「6σ=3.4」は1.5σシフトを仮定した約束事だと押さえるのが肝心です。
3. シグマ水準 → DPMO 対応表(コード)
scipy.stats.norm で、シフト無し(短期)と1.5σシフト(長期)の DPMO を並べ、=3.4 DPMO を再現します。
import numpy as np
import pandas as pd
from scipy.stats import norm
# シグマ水準 Z(最寄り規格までの距離が何 sigma か)-> DPMO
# 短期(シフト無・片側) : (1 - Phi(Z)) * 1e6
# 長期(1.5sigmaシフト・片側): (1 - Phi(Z-1.5)) * 1e6
rows = []
for Z in [1, 2, 3, 4, 4.5, 5, 6]:
rows.append({"sigma水準": Z,
"DPMO_no_shift": (1 - norm.cdf(Z)) * 1e6,
"DPMO_1.5shift": (1 - norm.cdf(Z - 1.5)) * 1e6})
df = pd.DataFrame(rows)
print(df.to_string(index=False, float_format=lambda x: f"{x:.3f}"))
z6_shift = (1 - norm.cdf(6 - 1.5)) * 1e6
z6_noshift_two_ppb = 2 * (1 - norm.cdf(6)) * 1e9
print(f"\n6 sigma(1.5sigma シフト・片側)= {z6_shift:.4f} DPMO = 約 3.4")
print(f"6 sigma(シフト無・両側) = {z6_noshift_two_ppb:.4f} ppb = 約 2")
出力:
sigma水準 DPMO_no_shift DPMO_1.5shift
1.000 158655.254 691462.461
2.000 22750.132 308537.539
3.000 1349.898 66807.201
4.000 31.671 6209.665
4.500 3.398 1349.898
5.000 0.287 232.629
6.000 0.001 3.398
6 sigma(1.5sigma シフト・片側)= 3.3977 DPMO = 約 3.4
6 sigma(シフト無・両側) = 1.9732 ppb = 約 2
出力の意味:右列(1.5σシフト)が、よく見るシックスシグマの DPMO 表そのものです—— で66807、 で6210、 で233、そして で 3.398 ≒ 3.4 DPMO。多くの企業が出発点とする「 品質」は実は約6.7%の不良(66807 DPMO)で、 までに5桁以上改善する余地があることがわかります。一方の左列(シフト無し)では は DPMO(両側でも約2 ppb)——同じ「6σ」でも、1.5σシフトを置くかどうかで3.4 と 0.002 のあいだを動く。数字を引用するときはどちらの約束かを必ず確認します(要最新確認)。
4. 品質コスト——PAF と 1-10-100
品質は「お金をかけるほど高い」のではなく、かけ方の配分で総額が決まります。費用を3つに分けるのが PAF モデル。
- 予防コスト(Prevention):そもそも不良を出さないための投資(設計・教育・工程改善・標準化)。
- 評価コスト(Appraisal):できたものを調べる費用(検査・試験・測定)。
- 失敗コスト(Failure):内部失敗(出荷前の手直し・廃棄)+外部失敗(顧客クレーム・返品・リコール・信用失墜)。
経験則の 1-10-100 の法則は、同じ1個の不良を捕まえるコストが、下流ほど桁で膨らむことを言います——源流の予防なら 1、工程内の検査で捕まえれば 10、顧客に届いてからは 100。だから予防に前払いするほど、評価+失敗の総額が下がる。検査(評価)を厚くするのは「10で食い止める」手当てに過ぎず、根治は予防(上流で作り込む)です。次の検査の経済性は、この「10 と 100」の綱引きを定量化したものと読めます。
5. 検査設計——デミングの「全数か無か」
検査をいくらやるか。OC曲線・生産者危険 /消費者危険 で抜取計画 を設計する理論は 品質管理・第一種の過誤・第二種の過誤・検出力(2種類の誤りとトレードオフ・サンプルサイズ設計) に譲り、ここでは経済性で考えます。デミングは「工程が安定(管理状態)なら、中途半端な抜取検査は最悪手」と説きました( ルール)。費用を2つ置きます。
- :製品1個を検査するコスト(評価コスト)。
- :不良1個が検査をすり抜けて後工程・顧客に流れたときの損害(失敗コスト=1-10-100 の「100」側)。
不良率 のロット( 個)に対し、2つの極端な方策のコストは
両者が等しくなる不良率が損益分岐です。
安定工程では、最適は両極のどちらかになります(中間の抜取は両方の悪いとこ取り)。
- (不良が多い)→ 全数検査(流出損害が検査費を上回る)。
- (不良が少ない)→ 無検査(検査費が流出損害を上回る=検査するだけ損)。
6. 検査の経済性を可視化する(コード)
円/個・ 円/個(流出損害は検査費の50倍)、ロット 。全数と無検査の総コストを不良率 に対して描き、損益分岐 を確かめます。
import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt
import japanize_matplotlib
# デミングの「全数か無か」:k1=1個の検査費、k2=不良1個が後工程へ流れた損害
k1 = 2.0 # 円/個(検査費=評価コスト)
k2 = 100.0 # 円/個(不良流出の損害=失敗コスト。1-10-100 の "100")
N = 10000 # ロットサイズ
p_star = k1 / k2
print(f"検査費 k1 = {k1:.0f} 円/個、不良流出の損害 k2 = {k2:.0f} 円/個")
print(f"損益分岐の不良率 p* = k1/k2 = {p_star:.4f}(= {p_star * 100:.1f}%)")
print()
print("不良率p 全数検査 N*k1 無検査 p*N*k2 安い方")
for p in [0.005, 0.010, 0.020, 0.030, 0.050]:
full = N * k1
none = p * N * k2
cheaper = "全数検査" if full < none else "無検査"
print(f"{p:.3f} {full:10.0f} {none:10.0f} {cheaper}")
# 図:両ポリシーの総コスト vs 不良率
ps = np.linspace(0, 0.05, 200)
full_cost = np.full_like(ps, N * k1)
none_cost = ps * N * k2
plt.figure(figsize=(10, 5.5))
plt.plot(ps * 100, full_cost, color="#1f77b4", lw=2, label=f"全数検査 N*k1 = {N * k1:.0f}円(不良率によらず一定)")
plt.plot(ps * 100, none_cost, color="#d62728", lw=2, label="無検査 p*N*k2(不良の流出損害)")
plt.axvline(p_star * 100, color="green", ls="--", label=f"損益分岐 p* = k1/k2 = {p_star * 100:.1f}%")
plt.fill_between(ps * 100, none_cost, full_cost, where=(ps <= p_star), color="#d62728", alpha=0.10)
plt.fill_between(ps * 100, full_cost, none_cost, where=(ps > p_star), color="#1f77b4", alpha=0.10)
plt.text(0.6, N * k1 * 1.04, "p < p*:無検査が安い", color="#d62728")
plt.text(2.7, N * k1 * 1.04, "p > p*:全数検査が安い", color="#1f77b4")
plt.xlabel("ロットの不良率 p(%)"); plt.ylabel("総コスト(円)")
plt.title("検査の経済性:全数 vs 無検査の損益分岐 p*=k1/k2(デミングの全数か無か)")
plt.legend(loc="upper left"); plt.tight_layout(); plt.show()
出力:
検査費 k1 = 2 円/個、不良流出の損害 k2 = 100 円/個
損益分岐の不良率 p* = k1/k2 = 0.0200(= 2.0%)
不良率p 全数検査 N*k1 無検査 p*N*k2 安い方
0.005 20000 5000 無検査
0.010 20000 10000 無検査
0.020 20000 20000 無検査
0.030 20000 30000 全数検査
0.050 20000 50000 全数検査
出力の意味: なら損益分岐は 。不良率が より低ければ()、全数検査の2万円より無検査の流出損害(5千〜1万円)の方が安く、検査しない方が得。 を超えると()流出損害が3万〜5万円に膨らみ、全数検査が得になります。図では、青い水平線(全数=一定2万円)と赤い直線(無検査=に比例)が で交差し、左側は無検査、右側は全数が下にきます。安定工程では抜取(中間)に意味は薄く、 と の大小で all-or-none に振る——これがデミングの主張です。ただし大前提は工程が管理状態であること(統計的工程管理)。 が群ごとに暴れる不安定工程では、この単純比較は使えません。
⚠️ よくある誤解
- 「6σ=3.4 DPMO はシフト無しの厳密値」ではない:3.4 は工程平均が ずれるという慣行を織り込んだ値()。シフトを置かなければ は約2 ppb で、6桁違います。引用時は1.5σシフトの約束込みかを必ず確認(要最新確認)。
- 「DMAIC をやれば品質が上がる」ではない:DMAIC は問題解決の型であって魔法ではありません。CTQ(顧客が本当に求める品質特性)の取り違え・測定システムの不備があれば空回りします。道具(管理図・能力指数・検定)を正しく当てて初めて効きます。
- 「検査を厚くすれば品質が上がる」ではない(最重要):検査は良品と不良品を仕分けるだけで、品質そのものを作りません(デミング)。品質は工程で作り込むもの(源流の予防=1-10-100 の「1」)。検査(評価=「10」)を増やすのは流出を食い止める最後の砦に過ぎず、根治ではありません。
- 「安定工程でも抜取検査が無難」ではない:管理状態の工程では、 と の大小で全数か無検査に振るのが経済的(all-or-none)。中途半端な抜取は両方の悪いとこ取りになりがちです。一方、ロットごとに品質が変わる不安定工程や、供給者の受入判定では、OC曲線で設計した抜取検査が活きます(理論は 品質管理)——どちらが適切かは工程の安定性しだいです。
関連ノート
- 工程能力指数(前提・シグマ水準 から DPMO へ。短期と1.5σシフトの違い)
- 統計的工程管理(DMAIC の Control=管理図。検査の経済性は工程が管理状態であることが前提)
- 品質管理(統計・OC曲線/生産者危険 ・消費者危険 /抜取計画 の理論。本章が経済性、こちらが理論)
- 第一種の過誤・第二種の過誤・検出力(2種類の誤りとトレードオフ・サンプルサイズ設計)(統計・生産者危険=第一種、消費者危険=第二種の過誤)
- ベルヌーイ分布・二項分布(統計・抜取の合格確率 は二項分布)
- 第8章 制約理論とリーン(源流で品質を作り込む=検査でなく工程で。自働化・ポカヨケ・止める仕組み)
- オペレーションズ・マネジメント 全体目次