← 中小企業診断士テキスト 一覧

消費者行動理論(無差別曲線・予算制約・効用最大化)

要点(BLUF)


1. 効用の概念

総効用・限界効用・限界効用逓減の法則

概念定義
総効用(TU)ある消費量から得られる満足度の合計
限界効用(MU)消費量を1単位増やしたときの追加的な満足度
限界効用逓減の法則消費量が増えるにつれ、MUは次第に小さくなる

例: ビールを1杯目・2杯目・3杯目と飲む場合、1杯目が最も美味しく感じ、3杯目には満足感が薄れる。これが限界効用逓減。

MU=ΔTUΔQMU = \frac{\Delta TU}{\Delta Q}


2. 無差別曲線

定義と特性

無差別曲線とは、「消費者が同じ満足度(効用)を得られる財の組み合わせの軌跡」のこと。

4つの特性:

  1. 右下がり:X財を増やすにはY財を減らさないと同じ効用水準を保てない(機会費用)
  2. 原点に対して凸:限界代替率逓減(MRS逓減)が成立するため
  3. 交差しない:2本の無差別曲線が交差すると矛盾が生じる(推移律の違反)
  4. 右上の曲線ほど効用が高い:より多くの財を消費できるため

限界代替率(MRS)

MRSxy=ΔYΔX=MUxMUyMRS_{xy} = -\frac{\Delta Y}{\Delta X} = \frac{MU_x}{MU_y}

MRSはX財1単位追加取得のためにY財をどれだけ手放せるかを示す。無差別曲線の傾きの絶対値に等しい。


3. 予算制約線

導出

消費者の所得をM、X財の価格をPx、Y財の価格をPyとすると:

PxX+PyY=MP_x \cdot X + P_y \cdot Y = M

これを変形すると:

Y=MPyPxPyXY = \frac{M}{P_y} - \frac{P_x}{P_y} \cdot X

graph LR
    A["予算制約線の傾き = -Px/Py"] --> B["Px↑ → 線が急になる"]
    A --> C["Py↑ → 線が緩やかになる"]
    A --> D["M↑ → 平行移動(右上)"]

4. 効用最大化条件

MRS = 価格比

予算制約のもとで効用を最大化する点は、無差別曲線と予算制約線の接点

この接点の条件:

MRSxy=PxPyMRS_{xy} = \frac{P_x}{P_y}

すなわち:

MUxMUy=PxPy\frac{MU_x}{MU_y} = \frac{P_x}{P_y}

変形すると:

MUxPx=MUyPy\frac{MU_x}{P_x} = \frac{MU_y}{P_y}

解釈: 各財1円あたりの限界効用が等しくなる点で効用最大化が実現する(限界効用均等の法則)。

flowchart TD
    A["消費者の問題"] --> B["予算制約: PxX + PyY = M"]
    A --> C["目的: 効用最大化"]
    B --> D["最適点: 無差別曲線と予算制約線の接点"]
    C --> D
    D --> E["条件: MRS = Px/Py"]
    E --> F["同値: MUx/Px = MUy/Py"]

無差別曲線と予算制約線(グラフ)

X財 Y財 U₁ U₂ U₁<U₂ 予算制約線 M/Py M/Px 最適点 E*(X*,Y*) X* Y*

読み方: 緑の曲線が無差別曲線(U₁ < U₂)。紫の直線が予算制約線。二者の接点E*が最適消費点で、ここでMRS=Px/Pyが成立する。U₂はU₁より右上にあり、効用が高い水準を示すが、予算制約線に接することができないため到達不可能。


5. 需要曲線の導出

価格消費曲線

X財の価格Pxが変化すると予算制約線の傾きが変わり、最適点も移動する。この最適点の軌跡を「価格消費曲線(PCC)」という。

PxX財の最適消費量P_x \downarrow \Rightarrow X財の最適消費量\uparrow

この関係(価格と需要量の逆相関)が需要曲線の根拠。

所得消費曲線

所得Mが変化したときの最適点の軌跡を「所得消費曲線(ICC)」という。正常財では右上がりになる。


6. 所得効果と代替効果

価格変化の影響は2つに分解できる:

効果内容
代替効果相対価格が変化することによる消費量の変化(効用一定の条件下で測る)
所得効果実質所得の変化による消費量の変化

正常財(普通財)の場合: 価格効果=代替効果+所得効果\text{価格効果} = \text{代替効果} + \text{所得効果} (ー)=(ー)+(ー)(ー) = (ー) + (ー)

代替効果と所得効果の分解(グラフ)

X財 Y財 B₁ B₂ B' U₁ U₂ A X₀ B X₁ C X₂ 代替効果 所得効果

読み方: X財の価格が下がると予算制約線がB₁→B₂に回転(X軸切片が右に拡大)。点A→点B(黄点線B’上)が代替効果(効用一定・相対価格変化のみ)、点B→点C(新均衡)が所得効果(実質所得の増加分)。X₀→X₁→X₂の順に需要量が増加する。

ギッフェン財(特殊ケース): 所得効果がプラスかつ強力なため、価格が下がると需要が減るという逆説的現象が起きる。


よくある疑問

Q: 無差別曲線はなぜ原点に対して凸なのか?

A: 限界代替率逓減(MRS逓減)が成立するからです。X財をたくさん持っているときは、X財の価値(限界効用)が低く、Y財を少しでも手放したくない。だから、X財1単位のためにY財をあまり手放せなくなり、曲線の傾きが緩くなる(原点に対して凸の形になる)。

Q: 価格比がなぜ予算制約線の傾きになるのか?

A: 予算制約線Y = M/Py - (Px/Py)Xを見ると、XをΔXだけ増やすとYはΔX × (Px/Py)だけ減る。これはX財をΔX単位購入するのに払ったお金(PxΔX)をY財に換算したもの。傾きの絶対値Px/PyはX財1単位とY財何単位を交換するかという「市場の交換レート」そのもの。

Q: 代替効果と所得効果をどう区別して覚えるか?

A: 代替効果は「相対価格が変わったから乗り換える」効果(相対的に安くなった財を買う)。所得効果は「実質的に豊かになった(または貧しくなった)」効果。X財の価格が下がると①X財が相対的に安くなって乗り換える(代替効果)②同じお金でより多く買えるようになった(所得効果)の2つが同時に発生する。


まとめ

ポイント内容
効用最大化条件MRS = Px/Py(無差別曲線と予算制約線の接線条件)
予算制約線の傾き-Px/Py(価格比)
需要曲線の導出価格消費曲線(PCC)から読み取る
所得効果・代替効果価格変化の影響を2つに分解する分析手法

試験では「MRS=Px/Pyの意味」「無差別曲線の特性(4つ)」「ギッフェン財の成立条件」あたりが頻出。図を描きながら理解しておくと強い。


関連ノート