市場構造(完全競争・独占・寡占・ゲーム理論)
要点(BLUF)
- 市場構造は「売り手の数」と「財の差別化程度」で4類型に分けられる
- 独占企業はMR = MCで産出量を決め、需要曲線から価格を読む → 死荷重(社会的損失)が発生
- ゲーム理論の核心:ナッシュ均衡は「全員が相手の戦略を前提に最適反応している状態」
1. 市場構造の4類型
flowchart LR
A["市場構造"] --> B["完全競争"]
A --> C["独占的競争"]
A --> D["寡占"]
A --> E["独占"]
B --> B1["売り手:多数\n財:同質\nプライステイカー"]
C --> C1["売り手:多数\n財:差別化あり\n参入自由"]
D --> D1["売り手:少数\n財:同質or差別化\n戦略的相互依存"]
E --> E1["売り手:1社\nプライスメイカー\n参入障壁あり"]
| 特徴 | 完全競争 | 独占的競争 | 寡占 | 独占 |
|---|---|---|---|---|
| 売り手の数 | 多数 | 多数 | 少数 | 1社 |
| 財の同質性 | 同質 | 差別化 | 同質/差別化 | 唯一 |
| 参入障壁 | なし | なし | あり | 高い |
| 価格設定 | プライステイカー | 一定の裁量 | 戦略的 | プライスメイカー |
| 例 | 農産物 | 飲食店 | 自動車・鉄鋼 | 電力(旧来型) |
2. 独占企業の価格設定と死荷重
独占のMR曲線
完全競争企業のMR = P(水平線)に対し、独占企業は需要曲線の傾きを持つ。需要曲線が右下がりのとき、MR曲線は需要曲線より急な傾きを持つ(需要曲線の「傾きが2倍」):
右下がりの線形需要曲線 P = a - bQ の場合:
独占均衡と死荷重
flowchart TD
A["独占企業の利潤最大化"] --> B["MR = MC を満たすQ*を決定"]
B --> C["需要曲線上のP*(Q*に対応)を読む"]
C --> D["完全競争均衡より高い価格・低い産出量"]
D --> E["死荷重(DWL)発生 = 社会的余剰の喪失"]
図1:独占企業の価格・産出量決定と死荷重
読み方: MR=MC の交点から垂直に上がり、需要曲線との交点で独占価格Pmが決まる。完全競争均衡(D∩MC)と比べて産出量がQm→Qcの差だけ絞られ、この三角形が死荷重(社会的損失)として消える。水色の長方形が独占利潤。
- 独占価格 P_M > 限界費用 MC:消費者余剰が一部生産者余剰に転化し、残りは死荷重として消滅
- 独占の弊害:社会全体の総余剰が最大化されない → 独占禁止法の根拠
3. 寡占市場の理論
クールノー均衡
2社が産出量を同時に決定する(クールノー競争)。各社は相手の産出量を所与として自社の利潤最大化産出量を決める。この状態の均衡をクールノー=ナッシュ均衡と呼ぶ。
結果: 産出量は完全競争よりも少なく、独占よりも多い(価格は独占より低く、完全競争より高い)。
屈折需要曲線(スウィージー・モデル)
寡占市場では他社が価格を引き下げると追随するが、引き上げては追随しない、という非対称行動仮説。これにより需要曲線が「屈折」し、MCが変動しても価格が硬直的になる(価格の硬直性の説明)。
4. ゲーム理論
基本的な概念
| 概念 | 定義 |
|---|---|
| 戦略 | プレイヤーが取り得る行動の選択肢 |
| 利得 | 各戦略の組み合わせに対応する結果(利益・効用) |
| 支配戦略 | 相手がどの戦略をとっても、自分にとって最適な戦略 |
| ナッシュ均衡 | 全プレイヤーが相手の戦略を前提に「最適反応」をとっている状態 |
囚人のジレンマ
経済学で最も有名なゲームの1つ。容疑者A・Bが取調室で隔離され、それぞれ「黙秘」か「自白」を選択する。
図2:囚人のジレンマのペイオフ行列(ビジネス版:協調 vs 裏切り)
読み方: 各セルの数値は(A社の利得, B社の利得)。A社から見るとB社の戦略にかかわらず「裏切り」の方が得。B社も同様。結果として両者が裏切りの(1,1)に落ち着く——これがナッシュ均衡。パレート最適の(3,3)より悪い結果になる。
利得行列(刑期年数、小さいほど良い):
| B:黙秘 | B:自白 | |
|---|---|---|
| A:黙秘 | A:-2, B:-2 | A:-10, B:0 |
| A:自白 | A:0, B:-10 | A:-5, B:-5 |
ナッシュ均衡 = 「両者自白」
- AはBが黙秘なら自白(0 > -2)、Bが自白でも自白(-5 > -10)→ 自白が支配戦略
- Bも同じ理由で自白が支配戦略
- 結果:両者が自白 → (-5, -5)
ジレンマの核心: 全員が合理的に行動した結果が、パレート最適(両者黙秘:-2,-2)より悪い均衡に陥る。
ナッシュ均衡の重要ポイント
- ナッシュ均衡は1つとは限らない(複数存在する場合もある)
- ナッシュ均衡がパレート最適とは限らない(囚人のジレンマがその例)
- 支配戦略均衡はナッシュ均衡でもあるが、逆は成立しない
よくある疑問
Q: 独占禁止法で独占が規制されるのはなぜか?
A: 独占企業はMR = MCの条件でQを決めて、そのQに対応する需要曲線上の価格Pを設定します。このPはMC(限界費用)を大幅に上回る。完全競争ならP = MCまで価格が下がるのに、独占では価格が高止まりし産出量が絞られる → 消費者余剰が減り、一部は利潤に転化されるが残りは「死荷重」として社会から消える。この社会的損失を防ぐための規制が独占禁止法。
Q: クールノー均衡とナッシュ均衡はどう違うのか?
A: クールノー均衡はナッシュ均衡の一種です。「産出量競争」という特定のゲーム設定のもとでのナッシュ均衡がクールノー均衡。より一般的な概念がナッシュ均衡(プレイヤーが複数いる任意のゲームに適用可能)。
Q: 囚人のジレンマは実際のビジネスでどう現れるか?
A: 企業間の価格競争や広告競争に典型的。2社とも広告費を減らせば業界全体のコスト削減になるが、片方が広告を打つとシェアを奪われる。だから両社とも広告費を増やし続けてしまう(両者に費用がかかるが相殺されてシェアは変わらない)。カルテル(価格協定)で解決しようとするが、それ自体がジレンマ構造(抜け駆けのインセンティブがある)。
まとめ
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| 独占の利潤最大化 | MR = MC でQ決定 → 需要曲線からP読む |
| 死荷重 | 独占によって消滅する社会的余剰 |
| ナッシュ均衡 | 全員が最適反応をとっている状態(離脱のインセンティブがない) |
| 囚人のジレンマ | 個人の合理性 ≠ 集団の合理性 |
試験では「死荷重の説明」「ナッシュ均衡の定義」「囚人のジレンマの利得行列の読み方」が頻出。
関連ノート
- 生産者行動理論(費用曲線・利潤最大化)
- 市場の失敗(市場の失敗)
- 需要と供給・市場均衡(需要供給の均衡)