市場の失敗(外部性・公共財・情報の非対称性)
要点(BLUF)
- 市場の失敗 = 価格メカニズムが機能しても資源配分が効率的にならない状態
- 主要3類型:外部性・公共財・情報の非対称性
- 各類型には対応する政策手段(ピグー税・補助金・公的供給・シグナリングなど)がある
1. 市場の失敗の全体像
flowchart TD
A["市場の失敗"] --> B["外部性"]
A --> C["公共財"]
A --> D["情報の非対称性"]
B --> B1["外部不経済(負の外部性)"]
B --> B2["外部経済(正の外部性)"]
B1 --> BP["対策: ピグー税"]
B2 --> BS["対策: 補助金"]
C --> C1["非排除性 + 非競合性"]
C1 --> CP["問題: フリーライダー\n対策: 政府による公的供給"]
D --> D1["逆選択(契約前)"]
D --> D2["モラルハザード(契約後)"]
D1 --> DP["対策: シグナリング・スクリーニング"]
D2 --> DM["対策: モニタリング・インセンティブ設計"]
2. 外部性(外部効果)
定義
ある経済主体の行動が、市場取引を経ずに他の経済主体に影響を与えること。
| 種類 | 内容 | 例 |
|---|---|---|
| 外部不経済(負の外部性) | 他者に不利益を与える | 工場排煙・騒音・環境汚染 |
| 外部経済(正の外部性) | 他者に利益を与える | 養蜂場と果樹園・教育・研究開発 |
外部不経済の問題:過剰生産
企業は私的費用(私的限界費用 PMC)しか考慮せず、社会的費用(社会的限界費用 SMC = PMC + 外部費用)を無視する。
PMCで生産決定すると生産量が過多になり、SMCで決定した場合より多く生産される → 過剰生産・過剰汚染。
ピグー税(外部不経済の解決)
限界外部費用に相当する税を企業に課すことで、PMCをSMCの水準まで引き上げる。企業が社会的費用を内部化するよう促す仕組み。
補助金(外部経済の解決)
研究開発や教育のように社会的便益が私的便益を上回る場合、補助金で私的便益を社会的便益水準まで引き上げる → 過少供給を解消する。
3. 公共財
定義と特性
| 特性 | 内容 |
|---|---|
| 非排除性 | 対価を払わない人を消費から排除できない |
| 非競合性 | 1人が消費しても他者の消費量が減らない |
純粋公共財: 非排除性と非競合性の両方を持つ(国防・灯台・無料のテレビ放送など)。
フリーライダー問題
非排除性があるため、対価を払わずに便益を享受しようとする行動(フリーライダー)が横行する。その結果:
- 民間では供給が過少になる(供給しても費用が回収できないため)
- 政府が税収で公的供給するか、強制的な費用負担を課す必要がある
flowchart LR
A["公共財の非排除性"] --> B["フリーライダーが発生"]
B --> C["民間供給では費用回収不可"]
C --> D["過少供給問題"]
D --> E["政府による公的供給・税による費用負担"]
準公共財(クラブ財・コモンプール財)
| 財の種類 | 排除性 | 競合性 | 例 |
|---|---|---|---|
| 私的財 | あり | あり | 食品・衣料 |
| クラブ財 | あり | なし | 有料道路・衛星放送 |
| コモンプール財 | なし | あり | 漁業資源・地下水 |
| 純粋公共財 | なし | なし | 国防・一般道路 |
4. 情報の非対称性
定義
取引の当事者間で保有する情報量に差がある状態。情報を多く持つ側が少ない側に不利な条件を押し付けることができる。
逆選択(アドバースセレクション)
契約前に生じる問題。情報の少ない側が不利な選択肢を引いてしまう現象。
中古車市場(レモン問題:アカロフ):
- 売り手は車の品質を知っているが、買い手にはわからない
- 買い手は平均品質で価格を設定 → 高品質車の売り手は売る気をなくす
- 市場には低品質車(レモン)しか残らない
- 最終的に市場が崩壊する可能性がある
保険市場の逆選択:
- 健康状態を知っているのは個人のみ → 保険会社はわからない
- 保険料が高いと健康な人が脱退 → 残るのはリスクの高い人ばかり
モラルハザード
契約後に生じる問題。情報の少ない側(プリンシパル)が多い側(エージェント)の行動を監視できないため、エージェントが努力しなくなる問題。
例:
- 保険に入ったら不注意な行動が増える(火災保険→防火怠慢)
- 銀行が大きすぎてつぶせない(Too Big to Fail)→ リスクを過剰に取る
解決策
flowchart TD
A["情報の非対称性の解決策"]
A --> B["シグナリング\n(情報を持つ側が発信)"]
A --> C["スクリーニング\n(情報のない側が選別)"]
A --> D["モニタリング\n(エージェントの行動監視)"]
A --> E["インセンティブ設計\n(成果報酬・株式オプション)"]
B --> B1["例: 学歴・資格・保証書"]
C --> C1["例: 審査・試験・保険の条件設定"]
D --> D1["例: 監査・中間報告"]
E --> E1["例: 業績連動報酬・ストックオプション"]
よくある疑問
Q: ピグー税と炭素税・環境税は同じか?
A: 炭素税はピグー税の典型的な応用例です。CO2排出という負の外部性に対して、排出量に応じた税を課すことで私的限界費用を社会的限界費用に近づける。理論的にはピグー税と同じ仕組みです。
Q: 逆選択とモラルハザードをどう区別するか?
A: 時系列で整理するとシンプル。「契約前の問題 = 逆選択」「契約後の問題 = モラルハザード」。逆選択は「悪い相手を引いてしまう」こと、モラルハザードは「契約後に相手が手を抜く」こと。
Q: 外部性はなぜ市場で解決できないのか?
A: 価格シグナルが機能しないからです。たとえば工場が排気ガスを出しても、大気汚染という被害はコストとして計上されない。市場価格には外部費用が反映されていないため、企業は「安いコスト」で生産できると誤認して過剰生産する。コースの定理によれば、取引費用がゼロで権利が明確なら当事者交渉で解決できるが、現実にはそうならないため政府介入が正当化される。
まとめ
| 失敗の類型 | 問題 | 主な対策 |
|---|---|---|
| 外部不経済 | 過剰生産・過剰汚染 | ピグー税 |
| 外部経済 | 過少供給 | 補助金 |
| 公共財 | フリーライダー・過少供給 | 政府による公的供給 |
| 逆選択 | 低品質品しか残らない | シグナリング・スクリーニング |
| モラルハザード | 努力しなくなる | モニタリング・インセンティブ設計 |
試験では「ピグー税の計算(外部費用分)」「逆選択とモラルハザードの区別」「公共財の2特性(非排除性・非競合性)」が頻出。
関連ノート
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