費用は「発生主義」、収益は「実現主義」で認識するのが日本の会計原則の基本です。現金の動きとは独立してタイミングを決める点が、現金主義との根本的な違いです。
3つの認識基準の定義
flowchart TD
A[取引の発生] --> B{どの基準を使うか}
B --> C[現金主義\nCash Basis]
B --> D[発生主義\nAccrual Basis]
B --> E[実現主義\nRealization Basis]
C --> C1[現金の入出金\nがあった時点で認識]
D --> D1[経済的事象が\n発生した時点で認識]
E --> E1[収益が確定\nした時点で認識\n※実現の2要件を満たす]
C1 --> F[✕ 期間損益の\n歪みが大きい]
D1 --> G[費用に適用\n→費用の発生主義]
E1 --> H[収益に適用\n→収益の実現主義]
| 基準 | タイミング | 主な適用先 |
|---|---|---|
| 現金主義 | 現金の受払時 | 税務上の中小企業の一部特例、家計簿 |
| 発生主義 | 経済的事象の発生時 | 費用の認識(日本会計基準) |
| 実現主義 | 収益が実現した時点 | 収益の認識(日本会計基準) |
実現の2要件
収益を「実現した」と判断するには以下の両方が必要です。
- 財貨・サービスの引渡し完了(相手方への価値移転)
- 対価の確実性(現金・現金等価物の受取り、または受取りが確実な権利の発生)
費用収益対応の原則
費用と収益を同一期間に対応させて認識する原則です。売上を計上するなら、その売上に対応する仕入原価(売上原価)も同期間に認識します。
flowchart LR
subgraph 1期
A1[仕入 100] -->|対応| B1[売上 150]
A1 --> C1[売上総利益 50]
B1 --> C1
end
subgraph NG例
A2[仕入を翌期に計上] -.->|ズレ| B2[売上は当期]
B2 --> C2[利益が過大表示]
end
対応の形には2種類あります。
- 個別的対応:売上原価と売上高のように1対1で対応(直接費)
- 期間的対応:減価償却費や保険料のように期間に按分して対応(間接費・期間費用)
収益認識の主要な基準
引渡基準(出荷基準・着荷基準)
商品の引渡し時点で収益を認識します。
timeline
title 引渡基準の収益認識タイムライン
受注 : 契約締結(収益なし)
出荷 : 出荷基準なら収益計上
着荷 : 着荷基準なら収益計上
入金 : 現金主義ならここで計上
- 出荷基準:商品が倉庫を出た時点。実務で最も一般的
- 着荷基準:買主の手元に届いた時点。輸出取引などで使用
工事進行基準 vs 工事完成基準
長期の工事契約(建設・プラント・システム開発など)では特別なルールが適用されます。
| 項目 | 工事進行基準 | 工事完成基準 |
|---|---|---|
| 認識タイミング | 進捗に応じて毎期 | 工事完成・引渡時に一括 |
| 収益の平準化 | できる | できない(偏る) |
| 適用条件(日本基準) | 工事収益・原価・進捗を合理的に見積もれる場合 | 要件を満たせない場合の代替 |
| P/Lへの影響 | 安定的 | 完成年度に集中 |
xychart-beta
title "工事進行基準 vs 完成基準(3年工事・総収益300)"
x-axis ["1年目", "2年目", "3年目"]
y-axis "収益計上額" 0 --> 300
bar [100, 100, 100]
line [0, 0, 300]
上のバーが進行基準(各年100)、ラインが完成基準(3年目に300)です。
進捗度の測定方法
- 原価比例法:発生工事原価 ÷ 工事原価総額で進捗度を算定
- 例:工事原価総額600、1年目発生額200 → 進捗度33.3%
収益認識の5ステップ(新収益認識基準)
2021年4月から上場企業等に強制適用されたASBJ収益認識基準(IFRS15と同等)は、診断士試験でも概念レベルで問われます。
flowchart LR
S1[Step1\n契約の識別] --> S2[Step2\n履行義務の識別]
S2 --> S3[Step3\n取引価格の算定]
S3 --> S4[Step4\n取引価格を\n履行義務へ配分]
S4 --> S5[Step5\n履行義務充足時\nに収益認識]
| ステップ | 内容 | 例 |
|---|---|---|
| 1. 契約の識別 | 顧客との契約を識別する | 注文書・売買契約 |
| 2. 履行義務の識別 | 契約に含まれる約束を分ける | 製品の引渡し、保守サービス |
| 3. 取引価格の算定 | 変動対価・値引き等を考慮した価格 | 返品権付き販売の期待値計算 |
| 4. 価格の配分 | 独立販売価格の比率で各義務に配分 | 製品700:保守300(合計1,000) |
| 5. 収益の認識 | 履行義務を充足したとき(一時点 or 一定期間) | 引渡完了時、工事進行中 |
試験ポイント: 「一時点での認識」か「一定期間にわたる認識」の判定が頻出です。
- 一時点:通常の商品販売(引渡時)
- 一定期間:サービス提供、長期工事、サブスクリプション
よくある疑問
Q. 費用は発生主義なのに、収益が実現主義なのはなぜ? A. 保守主義の原則です。収益は確実性が高いものだけを早めに認識し、費用は早めに計上することで利益の過大表示を防ぎます。収益に発生主義を適用すると、まだ確定していない儲けを計上してしまう危険があります。
Q. 工事進行基準で損失が見込まれる場合は? A. 工事損失引当金を計上します。完成前でも損失が確実なら当期に費用計上する(保守主義)。
Q. 出荷基準は2021年の新基準で廃止されたの? A. 原則として変更されました。新基準では「支配の移転時点」で認識するため、国内販売では「出荷時」「着荷時」「検収時」のいずれかを合理的な代替として認めています(要最新確認)。
Q. 現金主義を使ってよい場面はある? A. 会計上は原則認められません。ただし税務上(法人税法)では中小企業の一定の取引で現金主義の選択が可能なケースがあります。
まとめ
- 費用=発生主義、収益=実現主義が日本会計の原則
- 現金主義は「現金動いたら認識」なのでシンプルだが期間損益が歪む
- 工事進行基準:進捗に応じて毎期認識(収益を平準化)
- 新収益認識基準の5ステップ:契約→履行義務→価格算定→配分→認識
- 試験では進行基準の計算(原価比例法)と5ステップの概念理解が問われる