棚卸資産の評価方法の選択は、売上原価と期末在庫額を左右します。特にインフレ局面では各方法で損益が大きく変わります。試験では数値計算が頻出なので、計算方法を確実に習得してください。
棚卸資産とは
販売目的で保有する在庫品(商品・製品・仕掛品・原材料)です。販売されると「売上原価」としてP/Lに費用計上され、未販売分はB/S資産に残ります。
基本等式:
期首棚卸高 + 当期仕入高 = 売上原価 + 期末棚卸高
3つの評価方法
前提データ(例題)
| 日付 | 内容 | 数量 | 単価 |
|---|---|---|---|
| 期首 | 繰越 | 100個 | @100円 |
| 5/1 | 仕入 | 200個 | @110円 |
| 8/1 | 仕入 | 100個 | @120円 |
| — | 販売 | 300個 | — |
期末在庫:100個(400個 − 300個)
先入先出法(FIFO: First-In First-Out)
「先に仕入れた在庫から先に売れた」と仮定します。
払出の順序:
- 期首100個 @100 → 10,000円
- 5/1仕入200個 @110 → 22,000円(計300個で合計 32,000円)
売上原価:100×100 + 200×110 = 32,000円
期末棚卸高:100×120 = 12,000円(最後に仕入れた分が残る)
移動平均法(Moving Average)
仕入のたびに平均単価を再計算します。
期首:100個 @100 = 10,000円
↓
5/1仕入後:(10,000 + 200×110) ÷ (100+200) = 32,000 ÷ 300 = @106.67円
↓
8/1仕入直前の残高:(300−販売数の一部)×106.67...
※この例では8/1の仕入前に全300個を売ったと仮定した場合の計算を整理します。
実務的な計算手順:
- 期首残100個 @100 = 10,000
- 5/1仕入後の平均単価:(10,000 + 22,000) ÷ 300 = @106.67
- 8/1仕入後(仮に5/1後に200個売り、残100個がある場合): (100×106.67 + 100×120) ÷ 200 = (10,667 + 12,000) ÷ 200 = @113.34
- 最終的に期末100個 @113.34 = 11,334円
- 売上原価 = 総投入額 − 期末棚卸 = 44,000 − 11,334 = 32,666円
総平均法(Weighted Average)
期間全体の加重平均単価を使います。
期間中の総仕入高(期首含む)= 100×100 + 200×110 + 100×120
= 10,000 + 22,000 + 12,000 = 44,000円
総数量 = 400個
平均単価 = 44,000 ÷ 400 = @110円
売上原価:300個 × 110 = 33,000円
期末棚卸高:100個 × 110 = 11,000円
3手法の比較まとめ
xychart-beta
title "各評価法の売上原価・期末棚卸高(インフレ局面)"
x-axis ["先入先出(FIFO)", "移動平均", "総平均"]
y-axis "金額(円)" 0 --> 45000
bar [32000, 32666, 33000]
line [12000, 11334, 11000]
上のバーが売上原価、ラインが期末棚卸高です。
| 評価法 | 売上原価 | 期末棚卸 | 当期利益(売上一定) |
|---|---|---|---|
| 先入先出(FIFO) | 低い(古い安い原価) | 高い(新しい高い単価) | 高い |
| 移動平均 | 中間 | 中間 | 中間 |
| 総平均 | 高い(平均単価) | 低い | 低い |
インフレ(物価上昇)局面の覚え方:
- 先入先出法 → 売上原価が最も低くなる(古い安い在庫を先に費用化)→ 利益最大
- 総平均法 → 売上原価が最も高くなる(高い新仕入が平均に引っ張られる)→ 利益最小
- デフレ時は逆転します
低価法
取得原価と正味実現可能価額(時価)を比較して、低い方で評価するルール。2008年の会計基準改正により、棚卸資産の評価は強制低価法(取得原価法は廃止)となっています。
flowchart TD
A[期末棚卸資産] --> B{取得原価 vs 正味実現可能価額}
B -->|取得原価 < 時価| C[取得原価で評価\n評価損なし]
B -->|取得原価 > 時価| D[時価で評価\n棚卸資産評価損を計上]
D --> E[仕訳:棚卸資産評価損/棚卸資産]
- 正味実現可能価額:売価 − 見積追加製造原価 − 見積販売費用
- 評価損は売上原価に算入(原則)または特別損失として別表示
試験での出題パターン
パターン1:計算問題
与えられた仕入データから、先入先出法・移動平均法・総平均法でそれぞれの売上原価または期末棚卸高を計算させる問題。
チェックポイント:
- 移動平均法は「仕入のたびに再計算」→ 途中の払出がある場合、払出前の平均単価を使うことに注意
- 総平均法は「期末に一括計算」→ 期中はどの単価を使ったか気にしなくてよい
パターン2:影響の方向性
「インフレ局面において先入先出法を採用した場合、総平均法と比べて当期純利益はどうなるか」のような問題。
→ 先入先出法は売上原価が低い → 利益が高い → 先入先出法 > 総平均法(利益額)
よくある疑問
Q. 後入先出法(LIFO)は使えないの? A. 日本の会計基準では2010年3月期以降廃止されました(IFRSでも禁止)。試験では選択肢に出てくることがありますが「現在は認められない」と理解してください。
Q. 移動平均法と総平均法、どちらが実務で多い? A. 移動平均法は在庫管理システムがリアルタイムで原価を把握できる場合に有効。総平均法は計算が年1回でよく事務負担が小さい。
Q. 低価法の「正味実現可能価額」と「時価」は同じ? A. 概念上は正確には異なりますが、試験レベルでは「期末時点での市場価格」として扱う問題が多いです。
Q. 棚卸評価損はどこに計上する? A. 原則として売上原価に算入(製造業は製造原価、商品なら売上原価)。ただし臨時かつ多額であれば特別損失として別表示します。
まとめ
- 棚卸資産の評価方法は、同一の商品でも損益と資産額を変える
- インフレ局面:先入先出法>移動平均法>総平均法の順で利益が大きくなる
- デフレ局面:逆転する
- 後入先出法(LIFO)は日本基準・IFRSでは廃止済み
- 低価法(強制):取得原価 vs 正味実現可能価額の低い方で評価
- 試験では計算問題と方向性問題の両方が出る