🎓 レベル:標準 | 重要度:B(推奨)
📎 前提:リソースベースドビュー(RBV)(内部の能力)・競争優位とは(持続的競争優位の源泉)(コスト優位=楔の片側)
要点(BLUF)
- バリューチェーンは、企業の活動を主活動(購買・製造・出荷・販売・サービス)と支援活動(調達・技術・人事・全般管理)に分解し、どの活動がコストを生み、どの活動が WTP を上げるかを見る道具です。コスト優位は活動の連鎖から生まれます。
- コスト構造は固定費と変動費で決まり、その比率が営業レバレッジ(売上変動が利益をどれだけ増幅するか)と損益分岐点を決めます。
- 経験曲線:累積生産量が倍になるごとに単位コストが一定率で下がります。これが規模の大きいリーダーのコスト優位の数量的な正体で、第2章の集中度・第4章のコストリーダーシップに繋がります。
1. コスト構造と営業レバレッジ
同じ売上でも、**固定費が重い構造(自動化型)と変動費が重い構造(労働集約型)**では利益の振る舞いが違います。限界利益(売上−変動費)から固定費を引いたものが営業利益で、
営業レバレッジは「売上が1%動くと営業利益が何%動くか」の増幅率です。
import numpy as np
import pandas as pd
# 2社のコスト構造:高固定費(自動化)vs 低固定費(労働集約)
firms = pd.DataFrame({
"企業": ["自動化型", "労働集約型"],
"固定費": [600, 200], # 万円/月
"変動費率": [0.30, 0.70], # 売上1に対する変動費の割合
})
sales = 1000.0 # 月商(万円)
firms["限界利益"] = sales * (1 - firms["変動費率"])
firms["営業利益"] = firms["限界利益"] - firms["固定費"]
firms["損益分岐点売上"] = firms["固定費"] / (1 - firms["変動費率"])
firms["営業レバレッジ"] = firms["限界利益"] / firms["営業利益"]
print(firms.to_string(index=False, float_format=lambda x: f"{x:.1f}"))
# 売上が +10% 動いたときの営業利益の変化率(営業レバレッジの効果)
for _, r in firms.iterrows():
op_up = sales * 1.10 * (1 - r["変動費率"]) - r["固定費"]
pct = (op_up - r["営業利益"]) / r["営業利益"] * 100
print(f"{r['企業']}: 売上+10% → 営業利益 {r['営業利益']:.0f}→{op_up:.0f}({pct:+.1f}%)")
出力:
企業 固定費 変動費率 限界利益 営業利益 損益分岐点売上 営業レバレッジ
自動化型 600 0.3 700.0 100.0 857.1 7.0
労働集約型 200 0.7 300.0 100.0 666.7 3.0
自動化型: 売上+10% → 営業利益 100→170(+70.0%)
労働集約型: 売上+10% → 営業利益 100→130(+30.0%)
出力の意味:両社とも月商1000では営業利益100で同じですが、自動化型は営業レバレッジ7.0、労働集約型は3.0。売上が+10%動くと、自動化型の利益は**+70%、労働集約型は+30%**——固定費が重いほど、好況では利益が大きく跳ね、不況では深く沈みます。損益分岐点も自動化型のほうが高い(857 対 667)。コスト構造の選択は「リターンの増幅率とリスク」の選択であり、需要が安定し量を見込める事業ほど高固定費・低変動費(自動化)が有利になります。
2. 経験曲線:累積生産量が生むコスト優位
規模そのものより、累積生産量が単位コストを下げます。経験曲線は「累積生産量が倍になるごとに単位コストが一定率(学習率)に下がる」関係です。
学習率85%なら、累積が倍になるたび単位コストが前の85%になります。
import numpy as np
# 経験曲線:累積生産量が2倍になるごとに単位コストが学習率倍に下がる
learning_rate = 0.85 # 85%経験曲線
b = -np.log(learning_rate) / np.log(2) # コスト弾力性
C1 = 100.0 # 初号機の単位コスト
# リーダー(累積1000)と後発(累積200)の単位コスト
for name, cum in [("リーダー", 1000), ("後発", 200)]:
cost = C1 * cum ** (-b)
print(f"{name}(累積{cum}):単位コスト {cost:.1f}")
cost_leader = C1 * 1000 ** (-b)
cost_follow = C1 * 200 ** (-b)
print(f"コスト弾力性 b={b:.3f}")
print(f"コスト差:後発はリーダーの {cost_follow / cost_leader:.2f} 倍")
出力:
リーダー(累積1000):単位コスト 19.8
後発(累積200):単位コスト 28.9
コスト弾力性 b=0.234
コスト差:後発はリーダーの 1.46 倍
出力の意味:累積生産量で先行するリーダーの単位コストは 19.8、後発は 28.9——後発のコストはリーダーの1.46倍です。これは技術力の差ではなく、ただ多く作ってきたことから来る構造的なコスト優位(学習・規模・工程改善の蓄積)。だから市場シェア(=累積生産の差)が自己強化的なコスト優位を生み、業界収益性の定量化(集中度とHHI)の集中度や第4章のコストリーダーシップに直結します。後発が追いつくには、同じ曲線を速く下る(量を作る)か、別の曲線(新技術・新工程)に乗り換えるしかありません。
⚠️ よくある誤解
- 「高固定費=悪」ではない:量が見込めるなら高固定費・低変動費がレバレッジで報われます。良し悪しは需要の安定性と量で決まります。
- 「経験曲線は永遠に下がる」ではない:技術の成熟で逓減し、別曲線(破壊的技術)に追い抜かれます。古い曲線の最適化に固執すると罠になります(→第7章)。
- 「コスト優位だけが戦略」ではない:バリューチェーンは WTP を上げる差別化の源泉も探す道具です。コスト優位と差別化のどちらを採るかは競争優位とは(持続的競争優位の源泉)の楔の両側で、第4章の基本戦略へ。
- 会計コストと機会コストは別:戦略判断では埋没費用を無視し、増分(限界)で考えます。
関連ノート
- リソースベースドビュー(RBV)(内部能力・前提)/VRIO分析(資源の評価)
- 業界収益性の定量化(集中度とHHI)(規模・集中度とコスト)/競争優位とは(持続的競争優位の源泉)(楔の片側=コスト)
- 第4章 競争戦略(コストリーダーシップと差別化の選択)/第7章(経験曲線の乗り換え・破壊的技術)
- 損益分岐・限界利益の会計的基礎は中小企業診断士テキスト(財務・管理会計)へ
- 経営戦略テキスト 全体目次