🎓 レベル:標準 | 重要度:A(必須)
📎 前提:戦略のレベル(全社・事業・機能)(全社戦略=成長と資本配分)
要点(BLUF)
- アンゾフの成長マトリクスは、成長の方向を**製品(既存/新規)×市場(既存/新規)**の2×2で整理します。市場浸透・市場開拓・製品開発・多角化の4ベクトルです。
- 「新規性が高いほどハイリスク・ハイリターン」を、成功確率 × 成功時利得 − 投資額の期待 NPV で順位づけます。
- さらにリスク(標準偏差)と確実性等価(CE)で見ると、リスク回避的な企業ほど、期待値が同程度でも新規性の高いベクトルを割り引くことが数値で分かります。
1. 4つの成長ベクトルと期待NPV
flowchart TD
subgraph 市場
direction LR
end
A["市場浸透:既存製品×既存市場(低リスク)"]
B["市場開拓:既存製品×新市場"]
C["製品開発:新製品×既存市場"]
D["多角化:新製品×新市場(高リスク)"]
外(新市場)や上(新製品)へ行くほど、未知が増えて成功確率が下がり、必要投資は増えます。各ベクトルに成功確率・成功時利得・投資額を与え、期待 NPV を計算します。
import numpy as np
import pandas as pd
# アンゾフの4成長ベクトル:成功確率・成功時利得・必要投資(合成データ・億円)
ansoff = pd.DataFrame({
"成長ベクトル": ["市場浸透", "市場開拓", "製品開発", "多角化"],
"成功確率": [0.80, 0.55, 0.50, 0.30],
"成功時利得": [100, 200, 220, 500],
"投資額": [50, 90, 100, 180],
})
ansoff["期待利得"] = ansoff["成功確率"] * ansoff["成功時利得"]
ansoff["期待NPV"] = ansoff["期待利得"] - ansoff["投資額"]
print(ansoff.to_string(index=False, float_format=lambda x: f"{x:.1f}"))
出力:
成長ベクトル 成功確率 成功時利得 投資額 期待利得 期待NPV
市場浸透 0.8 100 50 80.0 30.0
市場開拓 0.6 200 90 110.0 20.0
製品開発 0.5 220 100 110.0 10.0
多角化 0.3 500 180 150.0 -30.0
出力の意味:多角化は成功時利得が 500 と最大ですが、成功確率 0.3・投資 180 が重く、期待 NPV は −30 とマイナス。最も地味な市場浸透が期待 NPV 30 で最良です。「大きく当てれば凄い」案件ほど、確率と投資で割り引くと見劣りする——期待値で見ると派手な多角化が必ずしも得ではない、というのが第一の教訓です。
2. リスクと確実性等価:新規性のコスト
期待値が同じでも、ばらつき(リスク)は違います。成果は成功/失敗のベルヌーイなので、標準偏差は 。リスク回避を織り込んだ確実性等価 で評価します( はリスク回避度)。
import numpy as np
import pandas as pd
ansoff = pd.DataFrame({
"成長ベクトル": ["市場浸透", "市場開拓", "製品開発", "多角化"],
"成功確率": [0.80, 0.55, 0.50, 0.30],
"成功時利得": [100, 200, 220, 500],
"投資額": [50, 90, 100, 180],
})
p = ansoff["成功確率"].values
pay = ansoff["成功時利得"].values
inv = ansoff["投資額"].values
mean = p * pay - inv # 期待NPV
var = (pay ** 2) * p * (1 - p) # 成果のばらつき(分散)
std = np.sqrt(var)
lam = 0.001 # リスク回避度
ce = mean - 0.5 * lam * var # 確実性等価
out = pd.DataFrame({
"成長ベクトル": ansoff["成長ベクトル"],
"期待NPV": mean, "リスク(σ)": std, "確実性等価CE": ce,
})
print(out.to_string(index=False, float_format=lambda x: f"{x:.1f}"))
出力:
成長ベクトル 期待NPV リスク(σ) 確実性等価CE
市場浸透 30.0 40.0 29.2
市場開拓 20.0 99.5 15.1
製品開発 10.0 110.0 4.0
多角化 -30.0 229.1 -56.2
出力の意味:リスク(σ)は市場浸透 40 から多角化 229 へ跳ね上がります。リスクを織り込んだ確実性等価で見ると順位の差はさらに開き、多角化は −30 から −56.2 へ悪化。**リスク回避的な企業にとって、新規性の高い成長ほど「割り引かれる」**のです。もっとも、これは多角化が常に悪いという話ではありません——シナジーで成功確率や利得が変われば評価は一変します。それが次の多角化とシナジーのテーマです。
⚠️ よくある誤解
- 「大きく狙えるベクトルが良い」ではない:成功時利得の大きさだけでなく、確率・投資・リスクで割り引いた期待 NPV/CE で見ます。
- 「多角化は常に損」ではない:本ノートはシナジーを入れていません。シナジーが成功確率や利得を押し上げれば多角化も正当化されます(→多角化とシナジー)。
- 数値は説明用:成功確率や利得は、市場調査・類似案件・ベイズ統計的な事前と更新で見積もります。要点は「新規性が期待値とリスクの両方を動かす」構造です。
- 段階投資の価値を無視している:一括投資前提ですが、小さく試して当たれば拡大するリアルオプションで評価すると多角化の価値は上がります(→第8章・金融工学)。
関連ノート
- 戦略のレベル(全社・事業・機能)(全社戦略・資本配分)/多角化とシナジー(次のトピック)
- M&Aの戦略と価値評価(成長を買う場合)/第8章 不確実性下の戦略(段階投資=リアルオプション)
- 期待値・分散・リスク回避の基礎は統計学テキスト、DCF は金融工学テキストへ
- 経営戦略テキスト 全体目次