🎓 レベル:標準 | 重要度:A(必須)
📎 前提:定常性と自己相関 | 数理:確率過程(マルコフ連鎖・ポアソン過程)(統計)
要点(BLUF)
- ランダムウォーク は単位根を持つ非定常過程。トレンドのように見えますが、実体は累積したノイズ。分散は時間とともに増大し、最良の予測は「前回値」。
- 単位根検定(ADF):帰無仮説は「単位根あり(非定常)」。 で定常と判断します。
- 非定常は差分で定常化:ランダムウォークの1階差分はホワイトノイズ。これが ARIMA の「I(和分)」(ARMA・ARIMAモデル)。過剰差分に注意。
1. ランダムウォーク=単位根過程
AR(1) で にしたのがランダムウォークです。
「前回値にノイズを足すだけ」。係数 は特性方程式の根が1(単位根)であることを意味し、ここが非定常の境目です( なら定常、 で単位根)。累積和なので分散が
と時間とともに発散し、平均回帰しません。見た目は右肩上がり/下がりの「トレンド」に見えますが、それは偶然のノイズの積み重なりで、方向は毎回変わります。
2. なぜ厄介か
- 予測が難しい:最良予測は (前回値そのまま)、予測区間は とともに で広がる。
- 見せかけの回帰:独立な2本のランダムウォークを回帰すると、無関係なのに高い と「有意」な係数が出てしまう(共和分と誤差修正モデル(VECM) で対処)。
- だから時系列分析では、まず定常かどうかを判定し、非定常なら定常化してからモデル化します。
3. 単位根検定(ADF)
ADF(拡張ディッキー–フラー)検定は単位根の有無を調べます。差分の式
で「(=単位根 )」を帰無仮説に検定します。帰無仮説=非定常なので、
- :帰無を棄却 → 定常
- :棄却できず → 非定常(単位根あり)の疑い
と読みます(「有意なら定常」で、ふつうの検定と帰無の向きが逆な点に注意)。
4. コード:ADF で判定する
ランダムウォーク・定常 AR(1)・差分後の3つを ADF にかけます。
import numpy as np
from statsmodels.tsa.stattools import adfuller
rng = np.random.default_rng(2)
n = 500
rw = np.cumsum(rng.normal(0, 1, n)) # 非定常:ランダムウォーク
ar = np.zeros(n)
for t in range(1, n): ar[t] = 0.5*ar[t-1] + rng.normal(0, 1) # 定常:AR(1)
rw_diff = np.diff(rw) # ランダムウォークの1階差分
def report(name, x):
stat, p = adfuller(x)[:2]
verdict = "定常(単位根を棄却)" if p < 0.05 else "非定常(単位根を棄却できず)"
print(f"{name:<22} ADF統計量={stat:>7.3f} p値={p:.3f} → {verdict}")
print("ADF:帰無仮説=単位根あり(非定常)。p<0.05 で定常")
report("ランダムウォーク", rw)
report("AR(1) φ=0.5(定常)", ar)
report("ランダムウォークの差分", rw_diff)
出力:
ADF:帰無仮説=単位根あり(非定常)。p<0.05 で定常
ランダムウォーク ADF統計量= -0.466 p値=0.898 → 非定常(単位根を棄却できず)
AR(1) φ=0.5(定常) ADF統計量=-13.392 p値=0.000 → 定常(単位根を棄却)
ランダムウォークの差分 ADF統計量=-22.604 p値=0.000 → 定常(単位根を棄却)
出力の意味:ランダムウォークは で非定常と正しく判定(単位根を棄却できない)。定常 AR(1) は で定常。そしてランダムウォークを1階差分すると で定常に変わります——差分が単位根を取り除いたのです。
5. 差分による定常化(ARIMA の I)
ランダムウォークの差分は 、つまりホワイトノイズ(定常)。一般に「 回差分すれば定常になる」系列を 次和分 と呼び、これが ARIMA() の中央の です(ARMA・ARIMAモデル)。
flowchart LR
NS["非定常系列<br/>(ADF: p≥0.05・ACFが高止まり)"] --> D["1階差分 Δx_t = x_t − x_{t-1}"]
D --> S["定常系列<br/>(ADF: p<0.05)→ ARMA でモデル化"]
季節性のある非定常なら季節差分 、分散が時間で増えるなら対数変換、と原因に応じて使い分けます。
⚠️ よくある誤解
- 「ADF で有意=非定常」ではない:帰無が非定常なので、有意(p小)なら定常。向きを逆に読むミスが頻出。
- 「とりあえず差分すればよい」ではない:定常な系列を差分すると(過剰差分)、不要な MA 構造が入り予測が悪化します。ADF で確認してから差分。
- 「トレンドがあれば必ず差分」ではない:決定的トレンド(直線+定常誤差=トレンド定常)は回帰でトレンド除去、確率的トレンド(単位根=差分定常)は差分。ADF(トレンド項つき)で見分けます。
- 「ランダムウォークの上昇トレンドは続く」ではない:方向は偶然で、平均回帰も継続保証もありません。外挿は禁物。
関連ノート
- 定常性と自己相関
- 予測の評価指標と時系列CV(次のトピック・予測の評価)
- ARMA・ARIMAモデル(差分=和分 I を含むモデル)
- 共和分と誤差修正モデル(VECM)(見せかけの回帰への対処)
- 確率過程(マルコフ連鎖・ポアソン過程)(統計・ランダムウォークの確率論)
- 第1章 時系列の基礎 目次
- 時系列分析・予測テキスト 全体目次