🎓 レベル:発展 | 重要度:A(必須)
📎 前提:ベイズ更新と意思決定・完全情報の価値(EVPI) | 関連:ベイズ統計(予測分布)
要点(BLUF)
- 標本情報の価値(EVSI: Expected Value of Sample Information) は、市場テストなど不完全な情報の価値。。
- 計算手順:各シグナルで①ベイズ更新→②最適行動の価値を求め、③シグナルの確率で期待を取る。
- が常に成り立ちます。情報効率 は、その情報源が完全情報の何%を取れているかを表します。
1. 不完全情報の価値をどう測るか
完全情報(EVPI, 完全情報の価値(EVPI))は理想です。現実の調査・テストは、状態を確定はせず確率を動かすだけ(ベイズ更新と意思決定)。その不完全な情報の価値が EVSI です。
考え方は EVPI と同じ「情報ありの期待利得 − 情報なし」ですが、「情報あり」の中身が変わります。完全情報は状態そのものを教えますが、標本情報は**シグナル(好感触/不感触)**を教える。だから、
- 各シグナルが出る確率 を求め、
- 各シグナルのもとで事後確率による最適行動の価値を計算し(ベイズ更新+後ろ向き帰納)、
- それをシグナルの確率で平均する。
2. EVSI の計算
ベイズ更新と意思決定で、好感触なら投入(EV=92)、不感触なら見送り(EV=0)と分かっています。各シグナルの確率はともに0.5でした。
import numpy as np
p_high, p_low = 0.4, 0.6
best_no_info = max(p_high*200 + p_low*(-100), 0.0) # 情報なしの最適 = 20
# 各シグナルの確率と事後確率(03-02 の結果)
p_signal = {"好感触": 0.5, "不感触": 0.5}
post = {"好感触": {"高": 0.64, "低": 0.36},
"不感触": {"高": 0.16, "低": 0.84}}
ev_with_sample = 0.0
for sig in ["好感触", "不感触"]:
ev_launch = post[sig]["高"]*200 + post[sig]["低"]*(-100)
best_sig = max(ev_launch, 0.0) # 投入 vs 見送り
act = "投入" if ev_launch > 0 else "見送り"
print(f"{sig}(P={p_signal[sig]}): 最適 {act}、価値 {best_sig:.1f}")
ev_with_sample += p_signal[sig] * best_sig
EVSI = ev_with_sample - best_no_info
EVPI = 60.0 # 03-03 で計算済み
print(f"標本情報下の期待利得 = {ev_with_sample:.1f} 万円")
print(f"EVSI = {EVSI:.1f} 万円")
print(f"情報効率 EVSI/EVPI = {EVSI/EVPI:.3f}")
出力:
好感触(P=0.5): 最適 投入、価値 92.0
不感触(P=0.5): 最適 見送り、価値 0.0
標本情報下の期待利得 = 46.0 万円
EVSI = 26.0 万円
情報効率 EVSI/EVPI = 0.433
出力の意味:テストを使うと期待利得は 46万。情報なしの 20万 を引いて EVSI=26万。つまり、この市場テストには最大26万まで払う価値があります。EVPI(60万)の 43.3% を取れている——完全情報の半分弱の価値しかないのは、テストが不完全(好感触でも36%は低需要)だからです。テスト費用が26万より安ければ実施、高ければ見送り、という具体的な意思決定ができます。
3. なぜ か
EVSI は2つの不等式に挟まれます。
- :情報は害になりません。シグナルを無視して情報なしと同じ行動を取る自由が常にあるので、最適に選べば必ず情報なし以上。「情報を見たうえで使わない」選択ができる限り、価値は非負です。
- :どんな標本情報も、状態を完全に教える完全情報より価値が高いことはありません。完全情報は標本情報の極限(尤度が0/1の完璧なテスト)だからです。
情報効率 は、その情報源の「鋭さ」の指標。尤度比(ベイズ更新と意思決定)が1から離れるほど効率は1に近づき、テストが無情報(尤度0.5/0.5)なら効率0です。
数式の直観的意味:情報の価値は「行動を変えた分」だけ
EVSI が生まれるのは、シグナルによって最適行動が変わるときだけです。この例では、情報なしなら常に投入でしたが、不感触のシグナルで見送りに切り替え、低需要での −100 を回避できた。EVSI の26万は、この「不感触のとき撤退できた」ことの価値に他なりません。
実際、不感触(確率0.5)で投入を回避した効果を直接計算すると、不感触下で投入なら EV=−52、見送りなら0で、差は52。これを不感触の確率0.5で重みづけると =EVSI。情報の価値は、情報がなければ取っていた行動を、情報のおかげで変えた分の改善幅——シグナルが行動を一切変えないなら EVSI=0、という完全情報の価値(EVPI)の「max を後に回す」話の、不完全情報版です。
⚠️ よくある誤解
- 「EVSIは費用を引いた純益」ではない:EVSIは情報の粗価値(払ってよい上限)です。テスト費用 を引いた純情報価値 がプラスなら実施します。
- 「情報は多いほど良い」とは限らない:EVSIは非負ですが、費用を引くと負になりえます。費用に見合わない情報は買わない——情報も投資判断の対象です。
- 「複数の情報源は価値を足せる」ではない:2つのテストのEVSIは単純加算できません(情報が重複する)。同時に評価するには、両シグナルを結合した事後確率で計算し直します。
- 「EVSI ≤ EVPI が破れた」なら計算ミス:理論上必ず成り立つので、超えたらベイズ更新か行動選択のどこかが誤っています。よい検算になります。
対応シミュレーション
本文のコードで、尤度(テスト性能)を 0.5/0.5(無情報)から 1.0/0.0(完全)へ動かすと、EVSI が0からEVPI(60万)まで連続的に上がる——情報効率が0→1に変化するのを確認できます。
関連ノート
- 第3章 決定木と情報の価値 目次
- ベイズ更新と意思決定 — 前提:事後確率と行動の選び直し
- 完全情報の価値(EVPI) — 前提:EVSIの上限となる完全情報の価値
- 経営の意思決定とシナリオ分析 — 情報収集を含む現実の意思決定設計
- 意思決定分析・リスク分析 全体目次