🎓 レベル:応用 | 重要度:A(必須)
📎 前提:ナッシュ均衡と囚人のジレンマ・業界収益性の定量化(集中度とHHI)(ここで導出を回収)
要点(BLUF)
- 価格や数量は連続値なので、戦略が連続のゲームになります。クールノー競争は数量を、ベルトラン競争は価格を、各社が同時に選ぶモデルです。
- クールノー均衡は1階条件から解け、企業数 が増えるほど価格が限界費用に近づき、利潤がゼロへ向かいます。各社のラーナー指数=シェア÷弾力性、業界平均が HHI÷ε——業界収益性の定量化(集中度とHHI)の関係をここで導出・回収します。
- ベルトランの逆説:同質財の価格競争では、たった2社でも価格が限界費用まで落ちます。同じ2社でも、数量競争か価格競争かでマージンが激変することを示します。
1. クールノー均衡と HHI÷ε の回収
逆需要を ()、限界費用を とします。各社は他社の生産量を所与に自社利潤 を最大化。1階条件 を対称解で解くと、
各社のラーナー指数は (=シェア、=価格弾力性)になります。これを数値で確かめます。
import numpy as np
import pandas as pd
# 逆需要 P=a-bQ, 限界費用 c。対称な n 社のクールノー均衡
a, b, c = 100.0, 1.0, 20.0
rows = []
for n in [1, 2, 3, 5, 10]:
q = (a - c) / (b * (n + 1)) # 1社の均衡生産量
Q = n * q
P = a - b * Q
profit = (P - c) * q
lerner = (P - c) / P # 業界のラーナー指数(対称なので各社共通)
hhi = n * (1 / n) ** 2 # 等シェア 1/n の二乗和(比率)
eps = (P / Q) / b # 価格弾力性 ε = (1/b)(P/Q)
rows.append((n, q, P, profit, lerner, hhi / eps))
df = pd.DataFrame(rows, columns=["企業数n", "生産量q*", "価格P*", "1社利潤", "ラーナー指数", "HHI/ε"])
print(df.to_string(index=False, float_format=lambda x: f"{x:.3f}"))
出力:
企業数n 生産量q* 価格P* 1社利潤 ラーナー指数 HHI/ε
1 40.000 60.000 1600.000 0.667 0.667
2 26.667 46.667 711.111 0.571 0.571
3 20.000 40.000 400.000 0.500 0.500
5 13.333 33.333 177.778 0.400 0.400
10 7.273 27.273 52.893 0.267 0.267
出力の意味:企業数が 1→10 と増えるにつれ、価格は 60→27.3 と限界費用 20 へ近づき、1社利潤は 1600→53 へ激減します。独占(n=1)が最も儲かり、競争が増えるほど超過利益が消える——直感どおりです。そして決定的なのは、「ラーナー指数」列と「HHI÷ε」列が完全に一致していること。業界収益性の定量化(集中度とHHI)で天下り的に使った「業界平均マージン=HHI÷ε」は、クールノー均衡の1階条件から導かれる帰結だったのです。構造(HHI)→ 行動(数量選択)→ 成果(マージン)が、一本の均衡式で結ばれました。
2. ベルトランの逆説:価格競争なら2社で限界費用
同質財で価格を競うと話が一変します。少しでも高い方は客を全て失うので、各社は相手より少し下げる誘因を持ち、価格は限界費用まで落ちます(ベルトランの逆説)。交互に下げる最良反応で確かめ、同じ2社のクールノーと比べます。
import numpy as np
a, b, c = 100.0, 1.0, 20.0
# ベルトラン(同質財・2社):交互に相手を少し下回る → 限界費用に収束
pA = pB = 60.0
eps = 0.05
for _ in range(5000):
pA = max(c, pB - eps) # A は B を下回る(ただし c は割れない)
pB = max(c, pA - eps) # B も同様
p_bertrand = pB
# クールノー2社(前節の式)
n = 2
q = (a - c) / (b * (n + 1))
P_cournot = a - b * n * q
print(f"ベルトラン2社:価格 {p_bertrand:.2f}、マージン {p_bertrand - c:.2f}")
print(f"クールノー2社:価格 {P_cournot:.2f}、マージン {P_cournot - c:.2f}")
出力:
ベルトラン2社:価格 20.00、マージン 0.00
クールノー2社:価格 46.67、マージン 26.67
出力の意味:同じ2社でも、価格競争(ベルトラン)なら価格は限界費用 20、マージンはゼロ。数量競争(クールノー)なら価格 46.7、マージン 26.7。差は競争の様式だけです。これが業界収益性の定量化(集中度とHHI)で注意した「HHI が高くてもベルトランならマージンは潰れ得る」の正体です。だから実務では、自社の業界が数量で競っているのか価格で競っているのかを見極め、価格競争を避ける手——差別化(同質性を壊す=ポーターの基本戦略(コスト・差別化・集中))、容量制約、製品の違い——が利益を守る鍵になります。
⚠️ よくある誤解
- 「2社なら寡占で高収益」ではない:ベルトランの逆説のとおり、同質財の価格競争では2社でもマージンが消えます。社数より競争様式と差別化が効きます。
- 「クールノーとベルトランのどちらが正しい」ではない:容量が硬直的なら数量競争(クールノー)、即時に価格で奪い合うなら価格競争(ベルトラン)に近い。製品差別化があるとベルトランでも正のマージンが残ります。
- 「HHI が高ければ必ず儲かる」ではない:HHI÷ε はクールノーの帰結。前提(数量競争・同質財・一定限界費用)が変われば関係も変わります。
- 均衡は「実際そうなる」予測ではなく基準:現実は調整・暗黙協調(ナッシュ均衡と囚人のジレンマ)で均衡から外れます。均衡は分析の基準点です。
関連ノート
- ナッシュ均衡と囚人のジレンマ(前提)/参入抑止と動学ゲーム(コミットメント)(次のトピック・動学)
- 業界収益性の定量化(集中度とHHI)(ラーナー指数=HHI÷ε の回収)/ポーターの基本戦略(コスト・差別化・集中)(差別化で価格競争を緩める)
- 需要関数・価格弾力性の推定はマーケティング・サイエンスへ
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