🎓 レベル:標準 | 重要度:A(必須)
📎 前提:オプションの基礎 | 関連:ブラックショールズ公式と解釈
要点(BLUF)
- プットコールパリティ:同じ行使価格 ・満期 のヨーロピアン・コールとプットの価格は という関係で固く結ばれます。
- 導出に確率モデルは要りません。満期で必ず同じペイオフになる2つのポートフォリオは、今日も同じ価値——無裁定だけで導けます。
- だからパリティはモデル非依存。ブラック–ショールズで価格を計算しても、当然この関係を満たします。崩れていれば裁定機会です。
1. パリティの主張
コールとプットは別物に見えますが、価格は独立ではありません。同じ について
が成り立ちます(配当なし・ヨーロピアン型)。右辺の は「現物を持ち、 を満期に払う約束をした」状態の価値——つまり先渡しの価値です。コールの買いとプットの売りを組み合わせると、原資産の先渡しと同じになる、というのがこの式の意味です。
2. 無裁定による導出
満期ペイオフが必ず一致する2つのポートフォリオを作ります。
- ポートフォリオ①:コール1単位 + 現金 (リスクフリーで運用し満期に になる)
- ポートフォリオ②:プット1単位 + 原資産1単位
満期 でのそれぞれの価値を場合分けすると:
| 満期の状態 | ① コール+現金 | ② プット+現物 |
|---|---|---|
どちらも満期価値は で完全に一致します。満期で必ず同じ価値になるものは、無裁定なら今日も同じ価値でなければなりません。
確率も期待リターンも一切登場しないことに注目してください。純粋に「満期で同じなら今も同じ」という論理だけです。
3. 数値検証
ブラック–ショールズ(第5章)でコールとプットを別々に計算し、パリティを満たすか確かめます。
import numpy as np
from scipy.stats import norm
S0, K, r, sigma, T = 100.0, 100.0, 0.05, 0.2, 1.0
d1 = (np.log(S0/K) + (r + 0.5*sigma**2)*T) / (sigma*np.sqrt(T))
d2 = d1 - sigma*np.sqrt(T)
C = S0*norm.cdf(d1) - K*np.exp(-r*T)*norm.cdf(d2) # コール価格
P = K*np.exp(-r*T)*norm.cdf(-d2) - S0*norm.cdf(-d1) # プット価格
print(f"Call = {C:.4f}, Put = {P:.4f}")
print(f"C - P = {C - P:.4f}")
print(f"S0 - K e^(-rT) = {S0 - K*np.exp(-r*T):.4f}")
出力:
Call = 10.4506, Put = 5.5735
C - P = 4.8771
S0 - K e^(-rT) = 4.8771
出力の意味:コール 10.4506・プット 5.5735 を独立に計算したのに、その差 は と完全に一致します。ブラック–ショールズの公式はパリティを内蔵しているのです(実際、両式の差を取ると などからこの関係が出ます)。逆にいえば、市場でコールとプットの価格差がこの値からズレていれば、割高な方を売り・割安な方を買い・現物と債券で調整して、確実な利益を取れます。
4. 使いどころ
パリティは実務の便利な道具です。
- 合成ポジション:コールの買い+プットの売りで先渡しを合成、現物+プットの買いで「プロテクティブ・プット(下落保険つき保有)」を作る、など自在に組み替えられます。
- 片方から片方を価格づけ:コール価格が分かればプット価格は計算不要で出ます。
- インプライド・フォワード/配当の逆算:市場のコール・プット価格から を読み、含み金利や配当を推定できます(インプライドボラティリティ と同じ精神)。
⚠️ よくある誤解
- パリティはヨーロピアン型・配当なしの関係:アメリカン型(早期行使可)では等式ではなく不等式になります。配当 があれば と修正します。
- 「パリティが価格そのものを決める」わけではない:パリティはコールとプットの差を縛るだけ。個々の価格水準には別途モデル(ブラック–ショールズなど)が要ります。差はモデル非依存、水準はモデル依存です。
- 裁定には取引コスト・空売り制約がからむ:理論上の裁定でも、ビッドアスク・借株コストを引くと消えることがあります。だから現実の価格はパリティの周りの狭い帯に収まります。
関連ノート
- 第4章 デリバティブと無裁定 目次
- オプションの基礎 — 前提:コール・プットのペイオフ
- 二項モデルとリスク中立評価 — 次のトピック:価格水準そのものを無裁定で決める
- ブラックショールズ公式と解釈 — パリティを内蔵する公式
- 金融工学テキスト 全体目次