🎓 レベル:発展 | 重要度:B(経路の性質) 📎 前提:ブラウン運動の定義と性質、停止時刻と任意停止定理
要点(BLUF)
- 反射原理:ブラウン運動が水準 に初めて到達した後、その時刻以降の経路を で鏡映しても確率法則が変わらない(強マルコフ性+対称性)。
- 帰結:走行最大値 の分布は 。
- さらに は と同分布。到達時刻の分布もこの原理から芋づる式に出ます。
概念
「ブラウン運動が時刻 までに高さ に届いたか」を直接数えるのは難しそうですが、反射原理という鏡のトリックで一気に解けます。一度 に触れた経路を、その瞬間から上下反転させても、増分の対称性( と が同確率)から確率は不変。この対称性を使うと、最大値の分布が終端値の分布に化けます。
数式による定式化
到達時刻 (停止時刻)。強マルコフ性により 以降を反射した過程も同じブラウン運動。 に注目し、終端が より上か下かで場合分けすると、反射した経路と元の経路が一対一対応して
ここで は標準正規分布関数。 のうち「すでに を超えてから戻ってきた分」を反射が補ってくれて、ちょうど2倍になります。これより
到達時刻の分布は から得られます。
直観
要するに「一度タッチした後は、上に行くも下に行くも五分五分」。終端で より上にいる経路(確率 )は当然 に触れている。終端で より下にいるが途中で に触れた経路は、反射すると終端が より上の経路にちょうど移る。だから「触れた経路」の総量は「終端が上の経路」の2倍。鏡を一枚置くだけで、見えにくい最大値が見やすい終端値に変換されます。
具体例
ブラウン運動を多数生成し、走行最大値が を超える確率が に、最大値の期待値が に一致することを確認します。
import numpy as np
from scipy.stats import norm
rng = np.random.default_rng(2)
n_paths, T, n_steps = 200000, 1.0, 4000
dt = T/n_steps
dB = rng.normal(0, np.sqrt(dt), size=(n_paths, n_steps))
B = np.cumsum(dB, axis=1)
M = B.max(axis=1) # 走行最大値(離散近似)
a = 1.0
emp = (M >= a).mean()
theory = 2*(1 - norm.cdf(a/np.sqrt(T)))
print(f"P(max>={a})={emp:.4f} (反射原理 2P(B_T>=a)={theory:.4f})")
print(f"E[max]={M.mean():.4f} E[|B_T|]={np.abs(B[:, -1]).mean():.4f} "
f"(sqrt(2T/pi)={np.sqrt(2*T/np.pi):.4f})")
# P(max>=1.0)=0.3129 (反射原理 2P(B_T>=a)=0.3173)
# E[max]=0.7886 E[|B_T|]=0.7996 (sqrt(2T/pi)=0.7979)
最大値超過確率は理論 0.3173 にほぼ一致(離散刻みのため真の連続最大をわずかに過小評価し 0.3129)。 と も で揃い、最大値と の同分布が見て取れます。
他過程との関係
- 反射原理は停止時刻と任意停止定理の停止時刻(到達時刻 )と強マルコフ性の上に立ちます。離散版はランダムウォークと再帰性のランダムウォークの反射(鏡像法)です。
- 最大値・到達時刻の分布は、金融のバリアオプション(ノックイン/ノックアウト)の価格付けに直結します(応用は金融工学へ)。ここでは過程の経路の性質に集中します。
数式の直観的意味
「2倍」の係数は、ブラウン運動の増分の対称性そのものの表れです。 と が同じ確率だから、到達後の経路は上下対称に分かれ、片側(終端が上)の確率がちょうど半分。最大値という「経路全体の最高到達点」が、終端値という「一点」の情報に圧縮できるのは、この対称性とマルコフ性の合わせ技です。
⚠️ よくある誤解
- 離散シミュレーションは連続最大を過小評価する。サンプル点の間でより高く跳ねている可能性を見落とすため、 はやや低めに出ます。刻みを細かくすると理論値へ近づきます。
- 反射原理は強マルコフ性を要する。到達時刻という「ランダムな時刻」で過程をリセットしても独立な新しいブラウン運動が始まる、という強マルコフ性が前提です。
- は分布の一致であって経路の一致ではない。最大値と終端の絶対値は同じ分布を持つだけで、同じ確率変数ではありません。
対応シミュレーション
本文コードの n_steps を増やすと最大値超過確率が理論値へ収束します。到達時刻 の分布(逆ガウス的な裾)の可視化を stochastic-processes-study/simulations/ に置きます。
関連
- 前提:ブラウン運動の定義と性質、停止時刻と任意停止定理
- 次に読む:幾何ブラウン運動
- 応用:バリアオプション(→金融工学)