🎓 レベル:発展 | 重要度:A(必須) 📎 前提:定常性と独立増分、ランダムウォークと再帰性
要点(BLUF)
- ブラウン運動 :、独立・定常な増分、、標本路が連続。これらが過程を一意に決めます。
- 軌道は連続だが至るところ微分不可。微小区間の変化 なので、傾き が発散します。
- 二次変分 (確率収束)。これがブラウン運動の「粗さ」の指紋で、伊藤解析の出発点です。
概念
ランダムウォークの歩幅を縮め、回数を増やして極限をとると、連続なランダム曲線が現れます。これがブラウン運動です。中心極限定理により増分は必ず正規分布になり、独立・定常増分・連続性という3条件だけで過程が決まります。連続なのに微分できない — この矛盾めいた性質が、通常の微積分が使えず確率解析が必要になる理由です。
数式による定式化
標準ブラウン運動 は次を満たす過程:
帰結として 、、共分散 (有限次元分布とコルモゴロフの拡張定理の がまさにこれ)。二次変分:分割 (メッシュ→0)で
通常の連続関数なら二次変分は0ですが、ブラウン運動は正の二次変分を持ちます。これが「微分不可なほど粗い」ことの定量的表現です。
直観
要するに「変化が時間の平方根で効く」過程です。 なので、時間を半分にしても変化は にしか縮まない。だから傾き は時間を細かくするほど大きくなり、微分が存在しません。一方、 は足し合わせると に収束する — 一次の変化(傾き)は暴れるのに、二次の変化(変分)はきれいに に揃う。この非対称が確率解析の鍵です。
具体例
ブラウン運動を細かい時間刻みで生成し、、二次変分 、そして刻みを細かくするほど傾きが発散することを確認します。
import numpy as np
rng = np.random.default_rng(1)
n_paths, T, n_steps = 100000, 1.0, 1000
dt = T/n_steps
dB = rng.normal(0, np.sqrt(dt), size=(n_paths, n_steps)) # 増分 ~ N(0, dt)
B = np.cumsum(dB, axis=1)
for frac in [0.25, 0.5, 1.0]:
idx = int(frac*n_steps) - 1
print(f"t={frac}: E[B_t]={B[:, idx].mean():+.4f}(理論0) Var={B[:, idx].var():.4f}(理論{frac})")
qv = (dB**2).sum(axis=1) # 二次変分
print(f"二次変分 sum(dB^2): 平均={qv.mean():.4f} (理論 T={T}) 標準偏差={qv.std():.4f}")
for ns in [100, 10000, 1000000]:
d = T/ns
dBs = rng.normal(0, np.sqrt(d), size=200000)
print(f"dt=1/{ns}: 平均|dB/dt|={np.abs(dBs/d).mean():.1f} (dt→0 で発散=非微分)")
# t=0.25: E[B_t]=+0.0022(理論0) Var=0.2498(理論0.25)
# t=0.5: E[B_t]=+0.0036(理論0) Var=0.4990(理論0.5)
# t=1.0: E[B_t]=+0.0015(理論0) Var=1.0033(理論1.0)
# 二次変分 sum(dB^2): 平均=1.0002 (理論 T=1.0) 標準偏差=0.0446
# dt=1/100: 平均|dB/dt|=8.0 (dt→0 で発散=非微分)
# dt=1/10000: 平均|dB/dt|=79.9 (dt→0 で発散=非微分)
# dt=1/1000000: 平均|dB/dt|=797.1 (dt→0 で発散=非微分)
分散はちょうど 、二次変分は に集中(標準偏差0.04と小さい)。傾きの平均は刻みを 倍にするごとに約10倍に増え( のスケール)、微分が存在しないことが数値で見えます。
他過程との関係
- ブラウン運動はランダムウォークと再帰性のスケール極限(ドンスカーの不変原理)で、離散の和が連続の拡散になります。増分が連続値という点でポアソン過程(整数値ジャンプ)と対をなすレヴィ過程の代表です。
- と はマルチンゲールの定義と例の連続時間マルチンゲール。二次変分が であることは「 がマルチンゲール」と同じ事実の言い換えです。
数式の直観的意味
二次変分 は伊藤解析の心臓部です。テイラー展開で としたとき、通常なら は無視できる高次項ですが、ブラウン運動では と一次の項として残る。これが伊藤の公式に余分な 項を生む根本原因で、確率微積分が普通の微積分と違う唯一にして最大の理由です。
⚠️ よくある誤解
- 「連続なら微分できる」は誤り。ブラウン運動は連続だが確率1で至るところ微分不可。だから (ホワイトノイズ)は通常の関数として存在せず、 という増分の形でしか扱えません。
- 二次変分はランダムでなく確定値 。個々の軌道の細部はランダムでも、二次変分は(メッシュ→0で)すべての軌道で に収束します。これが「粗さは普遍的」という意味です。
- 離散シミュレーションの二次変分は刻みに依存しない。 は刻み数を変えても に集中します(一次変分は刻みとともに発散するのと対照的)。
対応シミュレーション
本文コードの n_steps を増減しても二次変分は に集中し、傾きは刻みとともに発散します。複数の軌道を重ねた可視化(束が で広がる)は stochastic-processes-study/simulations/ に置きます。
関連
- 前提:定常性と独立増分、ランダムウォークと再帰性
- 次に読む:反射原理と最大値分布
- 発展:伊藤積分、伊藤の公式