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🎓 レベル:発展 | 重要度:A(必須)
📎 前提:伊藤積分、ブラウン運動の定義と性質
要点(BLUF)
- 伊藤の公式は確率版の連鎖律。f(Bt) の微分に、普通の f′dB に加えて補正項 21f′′dt が現れます。
- 原因はただ一つ、ブラウン運動の二次変分が t((dB)2→dt)であること。テイラー展開の二次項が消えずに残ります。
- これを使えば確率積分が「計算」できます。例:Bt2=∫0t2BdB+t、eBt−t/2 がマルチンゲール。
概念
普通の微積分では df(x)=f′(x)dx ですが、x をブラウン運動に置き換えると話が変わります。dB の二乗が無視できない(dt のオーダーで残る)ため、テイラー展開の二次の項が一次の効果として効いてきます。この「余分な半階」を正確に与えるのが伊藤の公式で、確率解析のすべての計算の心臓部です。
数式による定式化
f が C2 級のとき、ブラウン運動に対する伊藤の公式:
df(Bt)=f′(Bt)dBt+21f′′(Bt)dt
積分形では
f(Bt)=f(B0)+∫0tf′(Bs)dBs+21∫0tf′′(Bs)ds
一般の伊藤過程 dXt=μtdt+σtdBt に対しては
df(Xt)=(f′(Xt)μt+21f′′(Xt)σt2)dt+f′(Xt)σtdBt
導出の核心はテイラー展開 df≈f′dX+21f′′(dX)2 で、(dX)2=σ2(dB)2=σ2dt(二次変分)を代入する点です。
直観
要するに「曲がった関数を通すと、揺れが平均的に押し上げ/押し下げる」。f が凸(f′′>0)なら、対称な揺れ ±dB でも f の値は平均的に上がる(凸性で上振れが勝つ)。その押し上げ量が 21f′′dt。(dB)2≈dt というブラウン運動の定義と性質の事実が、「揺れの二乗が確定的に時間として効く」形で連鎖律に侵入してきます。これがジェンセンの不等式の動的版です。
具体例
伊藤の公式 d(B2)=2BdB+dt から BT2−∫2BdB=T になること、eBt−t/2 がマルチンゲール(E[eBT]=eT/2)であることを確認します。
import numpy as np
rng = np.random.default_rng(2)
n_paths, T, n_steps = 200000, 1.0, 2000
dt = T/n_steps
dB = rng.normal(0, np.sqrt(dt), size=(n_paths, n_steps))
B = np.concatenate([np.zeros((n_paths, 1)), np.cumsum(dB, axis=1)], axis=1)
ito_int = (2*B[:, :-1]*dB).sum(axis=1) # ∫ 2B dB(左端点)
print(f"E[B_T^2 - ∫2B dB]={(B[:, -1]**2 - ito_int).mean():.4f} (理論 補正項 ∫dt = T={T})")
print(f"E[exp(B_T)]={np.exp(B[:, -1]).mean():.4f} (理論 e^(T/2)={np.exp(T/2):.4f}) =補正の効果")
# E[B_T^2 - ∫2B dB]=0.9999 (理論 補正項 ∫dt = T=1.0)
# E[exp(B_T)]=1.6477 (理論 e^(T/2)=1.6487) =補正の効果
BT2 から確率積分 ∫2BdB を引くと、ちょうど補正項 ∫dt=T=1 が残ります(普通の連鎖律なら0のはず)。また E[eBT]=eT/2>1 は、ex の凸性が生む補正 +21dt の積み上がりです。eBt−t/2 とすればマルチンゲール(期待値1)になります。
他過程との関係
- 伊藤の公式は幾何ブラウン運動の解 St=S0e(μ−σ2/2)t+σBt を導きます(logS に適用すると −σ2/2 が出る)。ボラティリティ・ドラッグはまさにこの補正項です。
- f(Bt)−21∫f′′ds がマルチンゲールになる構造はマルチンゲールの定義と例のドゥーブ分解(マルチンゲール+補償子)の連続版で、補償子が 21∫f′′ds です。
数式の直観的意味
補正項 21f′′dt は、生成作用素 L=21dx2d2(ブラウン運動の場合)の現れです。E[f(Bt)] の時間発展は熱方程式 ∂tu=21∂xxu に従い、これは連続時間マルコフ連鎖と生成行列の生成行列 Q(離散状態)を連続状態に一般化した姿です。ブラウン運動の「拡散」は、この二階微分作用素が支配します。
⚠️ よくある誤解
- 補正項を忘れて普通の連鎖律を使うのが最頻出ミス。d(B2)=2BdB は誤りで、正しくは +dt が付きます。凸関数を通すたびに 21f′′dt を必ず加える。
- 補正の符号は f′′ の符号で決まる。凸(f′′>0)なら押し上げ、凹(f′′<0)なら押し下げ(log の −σ2/2 がこれ)。
- 伊藤の公式は左端点(伊藤積分)に対応。ストラトノヴィッチ積分なら補正項が消えて普通の連鎖律になりますが、マルチンゲール性を失います。
対応シミュレーション
本文に加え、f(x)=x3,sinx など他の関数でも f(BT)−21∫f′′ds の期待値が f(0) に一致すること(マルチンゲール性)を stochastic-processes-study/simulations/ で確認できます。
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