🎓 レベル:標準 | 重要度:A(必須) 📎 前提:定常性と独立増分、ポアソン過程と点過程 目次
要点(BLUF)
- ポアソン過程は、独立・定常増分を持ち、短い時間に2回以上は起きない(希少性)という公理を満たす計数過程。
- これらの公理から、時刻 までの事象数 はポアソン分布 、到着間隔は指数分布 になります。
- 指数分布の無記憶性(待った時間を覚えていない)がポアソン過程の本質。「いつから待っていようと、次の到来までの分布は変わらない」。
概念
ランダムに到来する事象(着信・故障・到着客)を数えるとき、最も自然で扱いやすいモデルがポアソン過程です。仮定は3つだけ:(1) 重ならない時間区間の事象数は独立、(2) 事象数の分布は区間の長さだけで決まる(定常)、(3) 一瞬に2回は起きない。この最小限の仮定から、計数も間隔も具体的な分布に一意に定まります。
数式による定式化
計数過程 (、右連続・整数値・非減少)が強度 のポアソン過程とは、独立増分かつ
すなわち
このとき 。到着間隔 は独立同分布の指数分布
指数分布の無記憶性:
直観
要するに「完全にランダムな到来」の数学的な姿です。無記憶性が鍵で、「もう10分待ったから、そろそろ来るはず」という直観が成り立たない。次の到来までの待ち時間の分布は、いつ観測を始めても同じ。過去の経過がゼロ情報なので、過程は「歴史を持たない」最も無秩序な点の並びになります。平均が分散に等しい(分散指数1)のも、この完全ランダム性の指標です。
具体例
指数間隔を積み上げてポアソン過程を生成し、 の平均・分散が に、間隔の平均が に、そして無記憶性が成り立つことを確認します。
import numpy as np
rng = np.random.default_rng(2)
lam, T, n, M = 3.0, 50.0, 20000, 300
E = rng.exponential(1/lam, size=(n, M)) # 指数間隔
arr = np.cumsum(E, axis=1)
counts = (arr <= T).sum(axis=1) # N(T)
print(f"N(T): 平均={counts.mean():.2f} 分散={counts.var():.2f} (理論 lam*T={lam*T:.0f})")
allE = E.ravel()
print(f"間隔の平均={allE.mean():.4f} (理論 1/lam={1/lam:.4f})")
cond = (allE > 1.0).sum() / (allE > 0.5).sum()
print(f"無記憶性 P(E>1|E>0.5)={cond:.3f} vs P(E>0.5)={np.exp(-lam*0.5):.3f}")
# N(T): 平均=149.87 分散=150.62 (理論 lam*T=150)
# 間隔の平均=0.3336 (理論 1/lam=0.3333)
# 無記憶性 P(E>1|E>0.5)=0.224 vs P(E>0.5)=0.223
の平均と分散がともに (ポアソンの特徴)。間隔平均は 。「0.5 待った上でさらに 0.5 待つ確率」が「最初から 0.5 待つ確率」に一致 — 無記憶性です。
他過程との関係
- ポアソン過程は定常性と独立増分の独立・定常増分を持つ計数過程の代表で、増分が正の整数値という点でブラウン運動(連続値)と対をなします。
- 強度を時間変化させると非斉次・複合ポアソン過程、間隔分布を一般化すると再生過程と再生定理、状態に依存させると連続時間マルコフ連鎖と生成行列になります。
数式の直観的意味
「ポアソン分布の計数」と「指数分布の間隔」と「無記憶性」は、論理的に同値な3つの顔です。無記憶性は連続分布の中で指数分布だけが持つ性質で、それが「独立増分かつ希少」という公理の必然的な帰結。だからポアソン過程はこの3つのどこから定義しても同じものになります。分散=平均という関係は点過程入門で「完全ランダム性の基準線」として効いてきます。
⚠️ よくある誤解
- 「等間隔に近い」ではない。完全ランダムなので、間隔は指数分布でばらつき、むしろ事象はかたまって現れがち(クラスター錯視)。規則正しく見えるなら、それはポアソンではありません。
- 無記憶性は「平均回帰」を否定する。バスを長く待っても「もうすぐ来る」とは限らない、というのがポアソン的世界の帰結です。
- 強度 は確率ではなく率(単位時間あたりの期待回数)。 が大きければ は1を超えます。
対応シミュレーション
本文コードの M(各軌道で生成する間隔数)は より十分大きく取る必要があります(打ち切りを避けるため)。stochastic-processes-study/simulations/ に到着時刻の可視化を置きます。
関連
- 前提:定常性と独立増分
- 次に読む:非斉次・複合ポアソン過程
- 発展:点過程入門、連続時間マルコフ連鎖と生成行列