🎓 レベル:標準 | 重要度:A(必須) 📎 前提:確率過程とは、有限次元分布とコルモゴロフの拡張定理
要点(BLUF)
- 強定常=有限次元分布が時間シフトで完全に不変。弱定常=平均が一定で、自己共分散が時間差(ラグ)だけに依存。強定常なら(2次モーメントが有限なら)弱定常です。
- 独立増分=重ならない時間区間の増分どうしが独立。ポアソン過程とブラウン運動を支える性質です。
- 「法則が時間に依らない(定常)」と「増分が積み上がる(独立増分)」は別物。前者は値の分布の不変性、後者は変化量の独立性です。
概念
過程を解析可能にする2つの「うまい構造」が定常性と独立増分です。定常性は「いつ観測を始めても統計的性質が同じ」。気温の日内変動のように平均が動くものは非定常、無限に続く安定した揺らぎは定常に近い。独立増分は「過去の変化と未来の変化が無関係」。ランダムウォークの1歩1歩が独立なのが典型です。
数式による定式化
強定常(strict stationarity):任意の時点列と任意のシフト について
つまり有限次元分布が に依らない。弱定常(共分散定常):2次モーメントが有限で
独立増分:任意の について、増分
が互いに独立。さらに増分の分布がシフト で不変なら定常増分といいます。
直観
- 定常:要するに「グラフを横にずらしても見分けがつかない」。窓を時間軸のどこに置いても、覗いた統計量(平均・分散・相関)が同じ。
- 独立増分:要するに「未来の一歩は過去の歩みを覚えていない」。今いる場所は過去の積み重ねですが、次にどれだけ動くかは過去と独立。だから分散が時間とともに足し算で増えます。
具体例
弱定常の例として AR(1) 過程 ()。理論上、分散は 、ラグ の自己相関は です。独立増分の例として、ランダムウォークの重ならない増分の無相関を確認します。
import numpy as np
rng = np.random.default_rng(7)
phi, sigma, T = 0.7, 1.0, 120000
x = np.zeros(T)
for t in range(1, T):
x[t] = phi*x[t-1] + sigma*rng.standard_normal()
x = x[2000:] # バーンイン除去
var_th = sigma**2/(1-phi**2)
print(f"弱定常AR(1): 標本平均={x.mean():+.3f}(理論0) 標本分散={x.var():.3f}(理論{var_th:.3f})")
for k in [1, 2, 3]:
ac = np.corrcoef(x[:-k], x[k:])[0, 1]
print(f" ラグ{k}自己相関={ac:+.3f} (理論 phi^k={phi**k:.3f})")
# 独立増分(ランダムウォーク)
W = np.cumsum(rng.standard_normal((40000, 40)), axis=1)
inc1 = W[:, 9] - W[:, 4] # 区間(5,10]
inc2 = W[:, 29] - W[:, 19] # 区間(20,30] 重ならない
print(f"重ならない増分の相関={np.corrcoef(inc1, inc2)[0,1]:+.4f} (独立なら0)")
# 弱定常AR(1): 標本平均=+0.000(理論0) 標本分散=1.967(理論1.961)
# ラグ1自己相関=+0.702 (理論 phi^k=0.700)
# ラグ2自己相関=+0.494 (理論 phi^k=0.490)
# ラグ3自己相関=+0.348 (理論 phi^k=0.343)
# 重ならない増分の相関=-0.0022 (独立なら0)
AR(1) の分散と自己相関が理論値と一致(弱定常)。ランダムウォークの重ならない増分の相関はほぼ0(独立増分)。
他過程との関係
- ランダムウォーク(ランダムウォークと再帰性)は独立かつ定常な増分を持ちますが、過程そのもの は分散が で増えるので非定常。増分が定常でも過程は非定常 — この区別が肝心です。
- ブラウン運動の定義と性質 は独立・定常増分の連続時間版、ポアソン過程 は独立・定常増分を持つ計数過程です。
数式の直観的意味
独立増分があると、過程は「独立な小さな変化の和」になり、和の分散=分散の和(独立性より)から が出ます。さらに増分が定常なら中心極限定理が効いて、長い時間スケールでは増分の和が正規分布に近づく — これがブラウン運動が普遍的に現れる理由(自己相関と過程の特徴づけとあわせて)です。
⚠️ よくある誤解
- 弱定常 ≠ 強定常。弱定常は1次・2次モーメントしか縛りません。ガウス過程なら平均と共分散で分布が決まるので弱定常⇒強定常ですが、一般には別物です。
- 「定常」と「独立」を混同しない。定常でも時点間は強く相関できます(AR(1) はラグ相関 )。独立増分は「変化量」の独立で、「値」の独立ではありません。
- 過程の定常と増分の定常を混同しない。ランダムウォークは増分定常だが過程は非定常。
対応シミュレーション
本文コードを再実行すれば AR(1) の弱定常性と増分の無相関が再現します。 を1に近づけると自己相関の減衰が遅くなり、定常性が崩れる境界( で単位根=ランダムウォーク)が観察できます。
関連
- 前提:確率過程とは、有限次元分布とコルモゴロフの拡張定理
- 次に読む:自己相関と過程の特徴づけ
- 応用:ブラウン運動の定義と性質、ランダムウォークと再帰性、定常過程・AR(→時系列分析)