🎓 レベル:基礎 | 重要度:A(必須) 📎 前提:確率変数・期待値・分散(統計)
要点(BLUF)
- 確率過程とは、共通の確率空間上で添字 によって並べられた確率変数の族 のこと。1つの確率変数を「時間方向に伸ばした」ものです。
- 同じ対象を3つの目で見られます:時点を固定すれば確率変数、 を固定すれば1本の標本路(軌道)、両方動かせば時間と偶然の2変数関数。
- 指標集合 が離散か連続かで「離散時間/連続時間」、値の集合(状態空間)が離散か連続かで過程の種類が分かれます。
概念
サイコロを1回振るのは確率変数 です。では「1秒ごとに振り続けて記録した数列」はどう書けばよいでしょう。各時点 に確率変数 を割り当てれば、全体は という確率変数の族になります。これが確率過程です。重要なのは、これらの がすべて同じ確率空間 上で定義されている点です。だからこそ「時点1と時点2が一緒にどうなるか」という同時分布を問えます。
数式による定式化
確率空間 、指標集合 、状態空間 を用意します。確率過程とは写像
であって、各 で が確率変数(可測関数)になっているものです。2つの見方が立ち上がります。
- 時点 を固定 → は 上の確率変数。
- を固定 → は から への1本の関数。これを**標本路(sample path)または軌道(trajectory)**と呼びます。
直観
要するに、確率過程は「関数を値にとるくじ引き」です。普通の確率変数は1回引くと1つの数が出ますが、確率過程は1回引くと1本の関数(軌道)が丸ごと出てきます。 の各点 が1つの「世界線」に対応し、その世界線での時間発展が標本路です。私たちが現実に観測するのは、無数の可能な軌道のうちたった1本だけです。
具体例
最も基本的な例が単純ランダムウォークです。 を等確率で足していきます:、。各 がコイン列を1つ決め、それが1本のギザギザの軌道を作ります。多数の軌道を集めると、各時点 での分布が見えてきます。
import numpy as np
rng = np.random.default_rng(42)
T, n_paths = 200, 5000
steps = rng.choice([-1, 1], size=(n_paths, T)) # 各行が1本の標本路
paths = np.cumsum(steps, axis=1)
for t in [10, 50, 100, 200]:
m = paths[:, t-1].mean(); v = paths[:, t-1].var()
print(f"t={t:3d}: 標本平均={m:+.3f} (理論0) 標本分散={v:7.2f} (理論{t})")
# t= 10: 標本平均=+0.008 (理論0) 標本分散= 9.82 (理論10)
# t= 50: 標本平均=+0.078 (理論0) 標本分散= 51.05 (理論50)
# t=100: 標本平均=+0.067 (理論0) 標本分散= 100.64 (理論100)
# t=200: 標本平均=-0.066 (理論0) 標本分散= 201.51 (理論200)
各時点で平均は0、分散は に一致します。1本1本の軌道はランダムに上下しますが、5000本を横に切ると秩序ある分布(平均0・分散 )が現れる — これが「族として見る」威力です。
他過程との関係
指標集合と状態空間の組み合わせで過程が整理できます。
| 状態空間 離散 | 状態空間 連続 | |
|---|---|---|
| 時間 離散 | マルコフ連鎖とは・遷移行列 | 離散時間時系列(AR等→時系列分析) |
| 時間 連続 | ポアソン過程・連続時間マルコフ連鎖と生成行列 | ブラウン運動の定義と性質 |
数式の直観的意味
「同じ確率空間上」という条件が効いてきます。これがあるおかげで、過程の振る舞いは各時点の周辺分布だけでなく、複数時点の同時分布で決まります。次の有限次元分布とコルモゴロフの拡張定理で見るように、この同時分布の族こそが過程の正体です。
⚠️ よくある誤解
- 「各 が独立」ではない。確率過程の面白さは時点間の依存にあります。 を見ると の予想が変わる、という相関こそ本質です(独立な族はむしろ特殊例=白色雑音)。
- 標本路と分布を混同しない。観測する1本の軌道は「実現値」であって、過程そのものは全軌道の確率法則です。1本だけ見て「これがこの過程だ」とは言えません。
対応シミュレーション
stochastic-processes-study/simulations/ に軌道生成のスクリプトを置きます(本文の paths 配列を可視化すると、5000本の束が末広がりに広がる様子=分散 が見えます)。
関連
- 次に読む:有限次元分布とコルモゴロフの拡張定理
- 具体化:定常性と独立増分、マルコフ連鎖とは・遷移行列