🎓 レベル:発展 | 重要度:A(必須)
📎 前提:VaR(バリュー・アット・リスク) | 関連:整合的リスク測度の公理・数理最適化(CVaR最小化)
要点(BLUF)
- CVaR(Conditional VaR = 期待ショートフォール ES) は、損失が VaR を超えたとき、その超過部分も含めた平均損失。「最悪 の事象が起きたら平均いくら損するか」。
- 定義:(連続分布の場合)。常に 。
- CVaR は裾の厚みを反映し、整合的リスク測度の4公理を満たし(整合的リスク測度の公理)、しかも凸なので最適化に向きます。VaR の弱点を一掃する後継測度です。
1. CVaR の定義:裾の平均
VaR は「裾の入口」しか見ませんでした(VaR(バリュー・アット・リスク))。CVaR は裾の中身の平均を取ります。
最後の式は「 から1までのVaRを平均したもの」で、 より厳しい全信頼水準のVaRをならした値。だから CVaR は必ず VaR 以上で、裾が厚いほど両者の差が開きます。
import numpy as np
rng = np.random.default_rng(42)
profit = rng.normal(2.0, 10.0, size=200_000)
loss = -profit
for alpha in [0.95, 0.99]:
var = np.quantile(loss, alpha)
cvar = loss[loss >= var].mean() # VaR以上の損失の平均
print(f"信頼水準 {alpha:.0%}: VaR={var:.2f} CVaR={cvar:.2f} 差={cvar-var:.2f} 万円")
出力:
信頼水準 95%: VaR=14.51 CVaR=18.65 差=4.13 万円
信頼水準 99%: VaR=21.28 CVaR=24.69 差=3.42 万円
出力の意味:95%水準で、VaR は14.5万ですが CVaR は18.6万。「5%の悪い事象が起きたら、平均18.6万損する」。VaR との差4.1万が、VaR が見落としていた『裾の中身』 です。99%でも CVaR が VaR を上回ります。正規分布だと差は小さめですが、裾の厚い現実の分布ではこの差が大きく開き、CVaR の優位(裾の深さを捉える)が際立ちます。
2. CVaR が VaR より優れる3点
CVaR は VaR の弱点(VaR(バリュー・アット・リスク)の節3)をすべて解消します。
- 裾の厚みを反映する:定義そのものが裾の平均なので、「VaR を超えた先がどれだけ深いか」を直接測ります。VaR が同じでも、裾が厚い分布は CVaR が大きくなり、ちゃんと「より危険」と判定します。
- 整合的(劣加法性を満たす):。分散投資がリスクを減らす(少なくとも増やさない)という常識を、測度が守ります(整合的リスク測度の公理で実証)。
- 凸である:CVaR はポジションについて凸関数なので、CVaR を最小化する最適化問題が凸計画になり、線形計画として解けます(Rockafellar–Uryasev)。最適化手法の詳細は数理最適化のturfですが、「最適化しやすい」ことは実務で決定的な利点です。
3. VaR と CVaR の使い分け
両者は対立するというより、役割が違います。
- VaR:直感的で報告しやすい(「95%の確率でこの額以内」)。規制・経営報告での共通言語。
- CVaR:裾のリスクを正しく捉え、最適化・分散効果の評価に向く。リスク管理の内部モデルや配分最適化で主役。
バーゼル規制も、市場リスクの内部モデルで VaR から期待ショートフォール(CVaR)へ移行しました(FRTB)。これは「裾を見ない VaR では危機を捉えられない」という金融危機の教訓を反映したものです。報告は VaR、運用判断は CVaR という併用が実務的です。
数式の直観的意味:なぜ平均化で整合性が戻るか
VaR の非整合性は「分位点が順位しか見ない・非凸」ことに由来しました(VaR(バリュー・アット・リスク))。CVaR は分位点を裾全体で平均します。平均(期待値)は線形作用素なので、和に対して素直で、 の単調性・凸性を引き継ぎます。直観的には、VaR が「裾の1点」を見て隣の点に飛び移る(不連続・非凸)のに対し、CVaR は「裾全体の重心」を見るので滑らかに動く。Rockafellar–Uryasev の表現
は、CVaR が「 に関する凸関数の最小値」として書けることを示します。 が凸で、その期待値も凸、最小化しても凸性が保たれる——だから CVaR は凸測度になります。この変分表現が、CVaR 最小化を線形計画に落とす鍵で、数理最適化に繋がります。
⚠️ よくある誤解
- 「CVaRはVaRの単なる安全マージン」ではない:CVaR は裾の平均という独立した情報で、VaR に定数を足したものではありません。分布の形でVaRとの差は変わります。
- 「CVaR ≥ VaR は分布によらず成立」:これは常に正しい(裾の平均は裾の入口以上)。逆転したら計算ミスです。
- 「CVaRなら裾を完全に把握」ではない:CVaR は裾の平均で、最悪値(最大損失)ではありません。極端な1点の損失額自体は CVaR にもならされます。
- 「CVaRは推定が簡単」ではない:裾の平均は少数のサンプルに依存するため、VaR より推定の分散が大きく、十分なデータやモデルが要ります。
対応シミュレーション
本文のコードで、分布を裾の厚いもの(t分布など)に変えると、VaR はあまり動かないのに CVaR が大きく増える——CVaR が裾の厚みを捉えることを確認できます。
関連ノート
- 第5章 リスク測度とリスク管理 目次
- VaR(バリュー・アット・リスク) — 前提:VaRの定義と弱点
- 整合的リスク測度の公理 — 次のトピック:CVaRが満たす4公理
- 多目的問題とパレート最適 — リスク・リターンの効率的フロンティア
- 意思決定分析・リスク分析 全体目次