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🎓 レベル:発展 | 重要度:B(推奨)

📎 前提:延期・拡大・撤退オプション決定木と後ろ向き帰納 | 関連:金融工学(二項オプション価格モデル)

要点(BLUF)

1. 二項格子:価値の枝分かれ

プロジェクト価値 SS が、1期ごとに確率的に SuS\cdot u(上昇)または SdS\cdot d(下落)になると仮定します(u>1>du>1>d)。これを複数期つなぐと、価値の取りうる経路が格子(lattice) を描きます。上昇・下落の順序は問わない(再結合する)ので、nn 期で末端は n+1n+1 個——決定木の指数爆発を抑えられます。

オプション(例:コスト KK を払って価値 SS のプロジェクトに投資する権利=延期オプション)の価値を、満期の各ノードで max(SK,0)\max(S-K, 0) と置き、後ろ向きに遡ります。各ノードでの「待つ価値」は、次期2ノードの価値をリスク中立確率 qq で重みづけて割り引いたもの:

q=(1+r)dud,待つ価値=qVup+(1q)Vdown1+rq = \frac{(1+r) - d}{u - d}, \qquad \text{待つ価値} = \frac{q\,V_{\text{up}} + (1-q)\,V_{\text{down}}}{1+r}

リスク中立確率は「無裁定(裁定機会がない)ように調整した確率」で、その正当化は金融工学に譲ります。ここでは「格子を遡るための重み」として使います。

2. 後ろ向き帰納で延期オプションを評価

プロジェクト価値 S0=100S_0=100u=1.3u=1.3d=0.7d=0.7、2期、投資コスト K=100K=100、無リスク金利 r=0.05r=0.05/期。各ノードで「今投資(行使)」と「待つ」を比較します(早期行使を許すアメリカン型)。

import numpy as np

S0, u, d, K, r, n = 100, 1.3, 0.7, 100, 0.05, 2
q = ((1+r) - d) / (u - d)              # リスク中立確率
print(f"リスク中立確率 q = {q:.4f}")

def S(i, j):                            # i期、上昇j回のプロジェクト価値
    return S0 * (u**j) * (d**(i-j))

# 満期(n期)のオプション価値 = max(S-K, 0)
opt = {(n, j): max(S(n, j) - K, 0) for j in range(n+1)}

# 後ろ向きに、各ノードで「待つ vs 今投資」を比較
for i in range(n-1, -1, -1):
    for j in range(i+1):
        hold = (q*opt[(i+1, j+1)] + (1-q)*opt[(i+1, j)]) / (1+r)  # 待つ
        exercise = max(S(i, j) - K, 0)                            # 今投資
        opt[(i, j)] = max(hold, exercise)

print(f"延期オプションの価値(0期)= {opt[(0,0)]:.4f}")
print(f"参考:今すぐ投資のNPV = max(S0-K, 0) = {max(S0-K, 0):.1f}")
print(f"延期できることの価値 = {opt[(0,0)] - max(S0-K, 0):.4f}")

出力:

リスク中立確率 q = 0.5833
延期オプションの価値(0期)= 21.2963
参考:今すぐ投資のNPV = max(S0-K, 0) = 0.0
延期できることの価値 = 21.2963

出力の意味:今すぐ投資のNPVは max(100100,0)=0\max(100-100,0)=0——ちょうどトントンで、静的に見れば「投資する価値なし」。ところが延期オプションとして格子で評価すると価値は21.3S0=100S_0=100 は損益ゼロでも、2期かけて上昇すれば 100×1.32=169100\times1.3^2=169 まで伸びうる。その上振れだけを(コスト100を払って)取りに行ける権利に、21.3の価値があるのです。静的NPVがゼロでも、待つ柔軟性に大きな価値——リアルオプションの考え方の主張を多期間の格子で確かめた形です。

3. なぜ格子(二項)なのか

二項モデルの利点は、多期間・経路依存・早期行使を素直に扱えることです。

決定木との違いは、状態が再結合する(上昇→下落と下落→上昇が同じノードに合流)こと。これで枝の数が指数でなく多項式(nn 期で (n+1)(n+2)/2(n+1)(n+2)/2 ノード)に抑えられ、計算が現実的になります。逐次的なオプションを「格子の後ろ向き帰納」で解く——この発想を一般の状態・行動に拡張したのが、次の逐次意思決定と動的計画の動的計画です。

数式の直観的意味:リスク中立確率は「割引の付け替え」

なぜ実際の上昇確率 pp でなく、リスク中立確率 q=(1+r)dudq=\frac{(1+r)-d}{u-d} を使うのか。直観的には、qq は「資産の期待リターンがちょうど無リスク金利 rr になるように調整した、仮想の確率」です。qu+(1q)d=1+rq\,u + (1-q)\,d = 1+r が成り立つよう qq を選ぶと、リスクプレミアムを確率の側に押し込めて、割引を無リスク金利だけで済ませられる——リスク調整を「割引率」から「確率」へ付け替える技です。これにより、リスク選好を仮定せずにオプションを一意に評価できます(無裁定価格)。この付け替えが正当なのは、オプションを原資産と無リスク資産で複製できるからで、その複製可能性(無裁定)の理論は金融工学の核心です。意思決定分析の立場では、qq は「市場で取引できる不確実性を、裁定の余地なく評価するための重み」と理解し、市場で複製できないリスク(私的な事業リスク)には主観確率+効用(期待効用と効用関数)で対処する、と使い分けます。

⚠️ よくある誤解

対応シミュレーション

本文のコードで、期数 nn やボラティリティ(u,du, d の開き)を変えると延期オプションの価値が動きます。ペイオフを撤退型 max(S,salvage)\max(S, \text{salvage}) に変えれば、多期間の撤退オプションも評価できます。

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