🎓 レベル:発展 | 重要度:B(推奨) 📎 土台:操作変数法と2SLS・重回帰分析(統計)・内生性とは(バイアスの源の地図)
要点(BLUF)
- 同時方程式モデル = 複数の式が同じ内生変数を同時に決める体系。需要と供給が価格と数量を一緒に決める、が原型です。
- 価格を数量に回帰しても、需要曲線でも供給曲線でもない両者の混合しか得られない(同時性バイアス)。これは内生性の一種(内生性とは(バイアスの源の地図))。
- 解は識別:各式に固有の**外生シフター(操作変数)**があれば、その式を取り出せる。供給シフター(天候)が需要曲線を、需要シフター(所得)が供給曲線を識別します。
1. 問題:均衡点だけを見ても曲線は引けない
需要と供給:
観測されるのは需要=供給で決まる均衡の だけ。 を に回帰しても、 が両式に現れて内生( と が相関)なので、需要の傾き も供給の傾き も取り出せません。得られるのは均衡点の散らばりという混合物です。
2. 識別の鍵:各式に固有の外生シフター
flowchart LR
W["天候(供給シフター・需要に無関係)"] -->|"供給を動かす"| EQ["均衡の P, Q が動く"]
I["所得(需要シフター・供給に無関係)"] -->|"需要を動かす"| EQ
EQ --> D["天候の変動 → 需要曲線をなぞる"]
EQ --> S["所得の変動 → 供給曲線をなぞる"]
天候は供給だけを動かす(需要には無関係)ので、天候が動かした均衡点をつなぐと需要曲線が浮かび上がる。逆に所得は需要だけを動かすので、所得の変動は供給曲線を描く。つまり「自分の式には現れず、相手の式に現れる外生変数」が操作変数になります(操作変数法と2SLS)。これが同時方程式での識別の心臓です。
3. 識別条件と推定
- 次数条件(必要条件):ある式を識別するには、その式から除外された外生変数の数 ≥ その式の内生説明変数の数。除外された外生シフターが操作変数の弾になります。
- 階数条件(必要十分):除外変数が実際に他式で効いていて、行列の階数が足りること。
- 推定:式ごとに2SLSを当てる(限定情報法)か、体系全体を同時に推定する3SLS・FIML(完全情報法)。完全情報法は効率が高い反面、1つの式の誤指定が全体に波及します。
経済学の古典的問題(需要・供給の弾力性、マクロの連立モデル)がここに属し、操作変数法(操作変数の考え方)が同時性の文脈で自然に再登場します。
⚠️ よくある誤解・落とし穴
- 「価格を数量に回帰すれば需要曲線」ではない:均衡の混合物しか出ない。固有の外生シフターで識別が必要。
- 「方程式を増やせば識別できる」ではない:必要なのは除外された外生変数。式を足しても外生シフターが無ければ識別不能(次数条件を満たさない)。
- 「3SLSは常に2SLSより良い」ではない:効率は高いが、どこか1式の誤指定が全式の係数を汚す。頑健性なら式ごとの2SLSが安全なことも。
- 誘導形と構造形の混同:内生変数を外生変数だけで表した誘導形は推定できても、それ単独では構造パラメータ(弾力性)を取り出せません。識別があって初めて構造形に戻せます。
関連ノート
- 操作変数の考え方・操作変数法と2SLS(操作変数法の本体)
- 内生性とは(バイアスの源の地図)(同時性バイアスの位置づけ)
- VAR(ベクトル自己回帰)(時系列・誘導形で同時性を回避する多変量モデル)
- 内生性と操作変数 目次
- 計量経済学 全体目次