🎓 レベル:標準 | 重要度:A(必須)
📎 前提:金利と複利 | 関連:二項モデルとリスク中立評価(無裁定の一般化)
要点(BLUF)
- 先渡し・先物は「将来のある時点に、いま決めた価格で受け渡す」契約。その価格は需給ではなく無裁定で決まります。
- 配当も保有コストもない資産なら、無裁定の先渡し価格は 。「いま借金して現物を買って持ち続ける」コストそのものです。
- 市場の先渡し価格がこれからズレると、キャッシュ・アンド・キャリー裁定で確実な利益が出ます。配当利回り があれば 。
1. 先渡し・先物とは
先渡し契約(forward)は、将来の満期 に、原資産をいま約束した価格 で受け渡す相対契約です。**先物(futures)**は取引所で標準化され日々値洗いされる点が違いますが、価格づけの考え方は同じです。買い手は満期に を払って原資産(満期時の価格 )を受け取るので、ペイオフは 。今この契約に参加するのにお金はかからない(価値ゼロで始まる)——この「契約開始時の価値がゼロ」という条件が を一意に決めます。
2. 無裁定価格:キャッシュ・アンド・キャリー
先渡しの買いは、実は「現物を借金で買って満期まで持つ」ことで複製できます。次の2つの戦略を比べます。
- 戦略A:先渡しを価格 で買う。満期に 払って原資産を得る。
- 戦略B:いま を金利 で借りて現物を買い、満期まで持つ。満期に借金 を返し、原資産を得る。
どちらも満期に「原資産1単位」を手にします。手にするものが同じなら、支払うコストも同じでなければ裁定が生じる——よって
これが無裁定先渡し価格です。もし市場価格 がこれより高ければ、「先渡しを売り、借金で現物を買って持つ」だけで、満期にリスクなく が残ります。数字で見ます。
import numpy as np
S0, r, T = 100.0, 0.05, 1.0
F_fair = S0*np.exp(r*T)
print(f"無裁定の先渡し価格 F = {F_fair:.4f}")
# 市場の先渡し価格が割高なら(F_mkt > F_fair)裁定が成立
F_mkt = 108.0
repay = S0*np.exp(r*T) # 満期に返す借金(元利)
profit = F_mkt - repay # 先渡し売り+借入現物買いの確定利益
print(f"市場 F={F_mkt} のときの裁定利益: {profit:.4f}")
出力:
無裁定の先渡し価格 F = 105.1271
市場 F=108.0 のときの裁定利益: 2.8729
出力の意味:理論価格は 。市場が 108 で取引していれば、「先渡しを 108 で売る/100 借りて現物を買う」を組めば、満期に現物を引き渡して 108 を受け取り、借金 105.13 を返して確実に 2.87 残ります。元手ゼロ・リスクゼロの利益なので、こうした取引が殺到して市場価格は 105.13 に押し戻されます。先渡し価格=現物価格+持ち越しコスト(金利)、これが無裁定の最も単純な現れです。
3. 配当・保有コストがある場合
原資産が配当(利回り )を生むなら、現物を持つ戦略Bは配当ぶん得をします。その分だけ先渡し価格は下がります。
逆に保管費や保険料(コモディティのキャリーコスト )がかかるなら と上がります。配当利回り2%のケースを見ます。
import numpy as np
S0, r, T = 100.0, 0.05, 1.0
q = 0.02 # 配当利回り
F_div = S0*np.exp((r - q)*T)
print(f"配当利回り q=2% のとき F = {F_div:.4f}")
出力:
配当利回り q=2% のとき F = 103.0455
出力の意味:配当 2% を受け取れるぶん、現物保有が有利になり、先渡し価格は配当なしの 105.13 から 103.05 へ低下します。一般に で、(持つコスト)と (持つ便益)の綱引きで決まります。この「キャリー」の考え方は、株価指数先物・通貨先渡し( を外国金利とみなす)・コモディティまで共通の骨格です。
⚠️ よくある誤解
- 「先渡し価格=将来の予想価格」ではない: に期待リターン は一切入りません。「市場が将来上がると思う」かどうかと無関係に、無裁定だけで決まります。これは 二項モデルとリスク中立評価 の「価格は に依存しない」と同じ精神です。
- 先物と先渡しは厳密には少し違う:先物は日々値洗い(マージン)され、金利と価格の相関があると先物価格は先渡しと僅かにズレます。相関ゼロor決定論的金利なら一致します(要最新確認)。
- 裁定には現物の空売り・借入が要る:理論は摩擦なしを仮定します。現実には空売り規制・借入コスト・取引コストがあり、価格は理論値の周りの狭い帯に収まる、というのが実務の見方です。
関連ノート
- 第4章 デリバティブと無裁定 目次
- 金利と複利 — 前提:連続複利と保有コスト
- オプションの基礎 — 次のトピック:非線形ペイオフの導入
- 二項モデルとリスク中立評価 — 無裁定の一般化
- 金融工学テキスト 全体目次