🎓 レベル:標準 | 重要度:A(必須) 📎 土台:差分の差分と並行トレンド(因果推論・DIDの識別)・固定効果と変量効果
要点(BLUF)
- DID(差分の差分) = 政策の前後の変化を、処置群と対照群で比べ、その差の差を効果とみなす準実験デザイン。最低2時点2群で測れます。
- 計量的には双方向固定効果(個体FE+時間FE)の回帰として実装でき、固定効果(固定効果と変量効果)の応用そのもの。
- 識別の心臓は並行トレンド仮定——「政策がなければ両群は平行に動いたはず」。これが破れれば効果は偏ります。検証不能なので、プレトレンドで間接的に点検します。
1. DIDの考え方と回帰実装
処置群は政策で変化しますが、その変化には政策効果+時間トレンド(景気など)が混ざります。対照群の変化で時間トレンドを差し引くのがDIDの発想です:
回帰では交互作用項で書きます:
がDID推定量。多期間・多群なら、個体ダミーと時間ダミーを入れた双方向固定効果(TWFE)
に一般化します(=処置を受けているか)。個体FE が時間不変の交絡を、時間FE が共通ショックを吸収します。
2. 並行トレンド仮定とその点検
flowchart LR
A["処置群の変化(政策効果+時間トレンド)"] --> C["差の差: 時間トレンドを対照群で除去"]
B["対照群の変化(時間トレンドのみ)"] --> C
C --> D["残り=政策効果 δ(並行トレンドが前提)"]
並行トレンドは「処置前の両群のトレンドが平行」ならもっともらしいと判断します。イベントスタディ(処置前後の各期のダミーを入れる)でプレトレンドがフラットかを確認するのが標準的な点検(差分の差分と並行トレンド)。プレトレンドに差があれば、その設計は疑わしい。
3. 注意:交差する処置時点とTWFEの罠
近年の計量経済学で重要なのは、処置のタイミングが個体ごとに違う(スタッガード)場合、素朴なTWFEのDID係数が負の重みで歪みうるという指摘(Goodman-Bacon分解、de Chaisemartin–D’Haultfœuille、Callaway–Sant’Anna)。「すでに処置された群」を対照に使ってしまうのが原因です。多期間・多群のDIDでは、これらの頑健なDID推定量を使うのが現代の作法になりつつあります。2群2時点の単純DIDなら従来通りで問題ありません。
⚠️ よくある誤解・落とし穴
- 「DIDは交絡を全部消す」ではない:消すのは時間不変の交絡と共通ショックだけ。群特有の時変交絡(処置群だけ別の政策も受けた等)は残ります。
- 「処置後の水準差=効果」ではない:水準差は元々の群間差を含む。必ず差の差をとる。
- スタッガード処置でTWFEを鵜呑みにしない:負の重み問題で符号すら誤りうる。頑健なDID推定量を検討。
- 並行トレンドは検証不能:プレトレンドが平行でも、処置後に平行だった保証はない。あくまで状況証拠。
関連ノート
- 固定効果と変量効果(DIDの母体=固定効果)
- パネルデータとは(個体×時間の構造)
- 操作変数法と2SLS(別ルートの準実験的識別)
- 差分の差分と並行トレンド(因果推論・並行トレンドとイベントスタディ)
- パネルデータ 目次
- 計量経済学 全体目次