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📊 対象級:準1級 ・ 1級 | 重要度:A(頻出)

確率変数の変換・モーメント母関数・積率 ── 変数変換公式/MGFで積率を生む/独立和はMGFの積

要点(BLUF)

本文

1. 確率変数の変換とは

確率変数 XX に関数 gg を施した Z=g(X)Z=g(X) も確率変数。その分布をどう求めるかが本節。離散と連続で作り方が違う。

離散:Z=g(X)Z=g(X) の分布の作り方

Z=g(X)Z=g(X) が値 zz を取る確率は、「g(x)=zg(x)=z となるすべての xx の確率を集める」だけ:

P(Z=z)=∑x: g(x)=zP(X=x).P(Z=z)=\sum_{x:\ g(x)=z} P(X=x).

要するに「同じ zz に飛んでくる xx の確率を全部足す」。例:XX がサイコロの目(1∼61\sim6 各 1/61/6)で Z=(X−3.5)2Z=(X-3.5)^2 なら、Z=6.25Z=6.25 になるのは X∈{1,6}X\in\{1,6\} だから P(Z=6.25)=16+16=13P(Z=6.25)=\frac16+\frac16=\frac13。gg が1対1でないと複数の xx がまとまる点が連続と違う。

連続:変数変換公式(本トピックの最重要公式の1つ)

XX の密度 fXf_X が分かっていて、Z=g(X)Z=g(X) の密度 fZf_Z を知りたい。gg が単調(1対1)で微分可能、逆関数 x=g−1(z)x=g^{-1}(z) を持つとき:

 fZ(z)=fX(g−1(z))∣d g−1(z)dz∣ \boxed{\,f_Z(z)=f_X\big(g^{-1}(z)\big)\left|\frac{d\,g^{-1}(z)}{dz}\right|\,}

要するに「元の密度の高さ fX(g−1(z))f_X(g^{-1}(z)) に、変換による“横軸の伸び縮み”の補正 ∣dg−1/dz∣|dg^{-1}/dz| を掛ける」。導出(CDF法)と絶対値の意味は「数式の直観的意味」で完全に示す。

なぜ補正項が要るか(直観):密度は「単位幅あたりの確率」。変換で横軸が2倍に引き伸ばされる場所では、同じ確率が2倍の幅にばらまかれるので密度は 1/21/2 に下がる。この伸縮率が ∣dg−1/dz∣|dg^{-1}/dz|(=ヤコビアン、1変数版)。

多変数への一般化(ヤコビアン)── 概要

(X1,X2)→(Z1,Z2)(X_1,X_2)\to(Z_1,Z_2) の変換では、1変数の ∣dg−1/dz∣|dg^{-1}/dz| がヤコビアン行列式の絶対値に置き換わる:

fZ1,Z2(z1,z2)=fX1,X2(x1,x2) ∣det⁡J∣,J=(∂x1∂z1∂x1∂z2∂x2∂z1∂x2∂z2).f_{Z_1,Z_2}(z_1,z_2)=f_{X_1,X_2}\big(x_1,x_2\big)\,\big|\det J\big|,\qquad J=\begin{pmatrix}\dfrac{\partial x_1}{\partial z_1}&\dfrac{\partial x_1}{\partial z_2}\\[6pt]\dfrac{\partial x_2}{\partial z_1}&\dfrac{\partial x_2}{\partial z_2}\end{pmatrix}.

要するに「∣det⁡J∣|\det J| は微小面積の変換前/変換後の比(面積のスケール因子)」。1変数の長さの伸縮が、多変数では面積(体積)の伸縮になっただけ。準1級・1級では「指数分布2つから比 X/(X+Y)X/(X+Y) がベータ分布になる」「正規2つから極座標へ(ボックス・ミュラー)」のような問題でこれを使う。

和の分布(畳み込み convolution)

独立な X,YX,Y の和 Z=X+YZ=X+Y の密度は、同時分布(⑦ 同時分布・周辺分布・条件付き分布)から導かれる畳み込み積分:

 fX+Y(z)=∫−∞∞fX(x) fY(z−x) dx \boxed{\,f_{X+Y}(z)=\int_{-\infty}^{\infty} f_X(x)\,f_Y(z-x)\,dx\,}

要するに「和が zz になる組み合わせ (x, z−x)(x,\ z-x) を、xx を動かしながら確率を掛けて全部足す」。離散版は P(X+Y=z)=∑xP(X=x)P(Y=z−x)P(X+Y=z)=\sum_x P(X=x)P(Y=z-x)。⑦の同時分布 fX(x)fY(z−x)f_X(x)f_Y(z-x)(独立だから積)を「和が zz の直線」に沿って積分で集めたものが畳み込み。導出は「数式の直観的意味」へ。後で出てくるMGFを使うと、この重たい積分がただの掛け算に変わる(そこがMGFの嬉しさ)。

2. 積率(モーメント)

分布の形を数値で要約する量。kk 次の原点まわり積率(モーメント)とkk 次の中心積率の2系統がある。

定義意味
原点まわり kk 次積率 μk′\mu_k'E[Xk]E[X^k]XkX^k の期待値(基準は0)
中心 kk 次積率 μk\mu_kE[(X−μ)k]E[(X-\mu)^k]平均 μ\mu からのズレの kk 乗の期待値

主要な対応(準1級・2級で頻出の表):

次数量式表すもの
1次(原点)平均μ=E[X]\mu=E[X]中心位置
2次(中心)分散σ2=E[(X−μ)2]\sigma^2=E[(X-\mu)^2]散らばり
3次(標準化)歪度 skewnessE[(X−μ)3]σ3\dfrac{E[(X-\mu)^3]}{\sigma^3}左右の非対称(正=右に裾)
4次(標準化)尖度 kurtosisE[(X−μ)4]σ4\dfrac{E[(X-\mu)^4]}{\sigma^4}(−3-3 する流儀も)山の尖り・裾の重さ

要するに「1次で位置、2次で広がり、3次で左右の偏り、4次で尖り」を測る。標準化(σk\sigma^k で割る)で単位をなくし、分布間で比較できるようにする。正規分布は歪度0・尖度3(−3-3 する流儀では超過尖度0)が基準。μk′\mu_k' から μk\mu_k は二項展開で相互変換でき、その変換を一気にやってくれるのが次のMGF。

3. モーメント母関数 MGF(本トピックの主役)

定義

 MX(t)=E[etX] {∑xetxp(x)(離散)∫−∞∞etxf(x) dx(連続)\boxed{\,M_X(t)=E\big[e^{tX}\big]\,}\qquad \begin{cases}\displaystyle\sum_x e^{tx}p(x) & (\text{離散})\\[4pt]\displaystyle\int_{-\infty}^{\infty} e^{tx}f(x)\,dx & (\text{連続})\end{cases}

t=0t=0 のまわりで期待値が存在すれば定義される、tt の関数。MX(0)=E[e0]=E[1]=1M_X(0)=E[e^0]=E[1]=1(必ず1から始まる)。要するに「分布の全情報を1つの関数 MX(t)M_X(t) に畳み込んだもの」。なぜ「母関数(生成関数)」かは次の性質①が答え。

モーメント母関数の2つの見方(指数分布の例)。左:M(t)はe^(tX)の重み付き平均(面積)。右:t=0での微分が積率(接線の傾き=平均μ)

左=MGFの正体(e^(tx)で重み付けした密度の面積)、右=t=0で微分すると積率が出る(M’(0)=μ、M”(0)=E[X²]、t=1で発散=MGFはt<1のみ)。図は simulations/moment_bokansu_keijou.py で生成。

性質①:積率を生成する(MGFの名前の由来)

 MX(k)(0)=E[Xk] (k 回微分して t=0 を代入)\boxed{\,M_X^{(k)}(0)=E[X^k]\,}\quad(\text{$k$ 回微分して $t=0$ を代入})

要するに「MGFを kk 回微分して t=0t=0 を入れると、kk 次の原点まわり積率 E[Xk]E[X^k] がポロッと出てくる」。だから平均は M′(0)M'(0)、分散は M′′(0)−(M′(0))2M''(0)-\big(M'(0)\big)^2。なぜ微分で積率が出るのかの導出は「数式の直観的意味」で完全に示す(テイラー展開が鍵)。

性質②:独立和はMGFの積(⑥の母関数版・最重要の実用性)

X,YX,Y が独立(一方の結果が他方の起こりやすさに影響しないこと)なら

 MX+Y(t)=MX(t) MY(t) \boxed{\,M_{X+Y}(t)=M_X(t)\,M_Y(t)\,}

要するに「独立な確率変数を足すと、MGFは掛け算になる」。畳み込み積分(和の分布)は計算が重いが、MGFの世界ではただの掛け算に変わる。これが ⑥ 期待値・分散の性質(線形性・和の分散・共分散) の「独立和の分散=分散の和」を、分布まるごと扱えるよう一般化した母関数版。導出は「数式の直観的意味」へ。

性質③:一意性(分布の「指紋」)

MGFが(t=0t=0 の近傍で)存在して2つの分布で一致すれば、その2つの分布は同一。要するに「MGFは分布を一意に決める指紋」。だから「和のMGFを計算したら、それが正規のMGFの形だった→和は正規分布だ」と逆向きに分布を同定できる(性質②と組み合わせて使うのが定番)。

MGFと積率・独立和の関係(図)

ここだけ図にすると流れが見える。

flowchart LR
    X["確率変数 X"] --> M["MGF M(t)=E(e^tX)"]
    M -->|"k回微分してt=0"| MOM["積率 E(X^k)<br/>1次=平均 2次=分散"]
    M -->|"独立な和 X+Y"| PROD["MGFの積<br/>M_X(t)·M_Y(t)"]
    PROD -->|"一意性で分布を同定"| DIST["和の分布が決まる"]

「XX をMGFに上げる → 微分で積率、掛け算で和の分布」という二刀流が見て取れる。

主要分布のMGF一覧(準1級は導出練習が要る)

分布パラメータMGF MX(t)M_X(t)平均(M′(0)M'(0))分散
ベルヌーイpp1−p+pet1-p+pe^{t}ppp(1−p)p(1-p)
二項 Bin(n,p)\mathrm{Bin}(n,p)n,pn,p(1−p+pet)n(1-p+pe^{t})^{n}npnpnp(1−p)np(1-p)
ポアソン Po(λ)\mathrm{Po}(\lambda)λ\lambdaeλ(et−1)e^{\lambda(e^{t}-1)}λ\lambdaλ\lambda
指数 Exp(λ)\mathrm{Exp}(\lambda)λ\lambdaλλ−t (t<λ)\dfrac{\lambda}{\lambda-t}\ (t<\lambda)1/λ1/\lambda1/λ21/\lambda^2
正規 N(μ,σ2)N(\mu,\sigma^2)μ,σ2\mu,\sigma^2exp⁡ ⁣(μt+σ2t22)\exp\!\Big(\mu t+\dfrac{\sigma^2 t^2}{2}\Big)μ\muσ2\sigma^2

二項のMGFがベルヌーイのMGFの nn 乗になっているのは、独立ベルヌーイ和=二項(性質②)そのもの。正規のMGFだけ「数式の直観的意味」で導出する。

MGFと関係の深い母関数:確率母関数 GX(s)=E[sX]G_X(s)=E[s^X](非負整数値の分布で便利、s=ets=e^t とすればMGFと対応)、キュムラント母関数 KX(t)=log⁡MX(t)K_X(t)=\log M_X(t)(微分するとキュムラント=平均・分散・歪度…が直接出る。正規は K(t)=μt+σ2t2/2K(t)=\mu t+\sigma^2 t^2/2 で2次までで止まるのが特徴)。準1級では確率母関数も範囲。

4. 中心極限定理への布石(MGFが効く最大の場面)

標準化した独立同分布和

Zn=1n∑i=1nXi−μσZ_n=\frac{1}{\sqrt n}\sum_{i=1}^{n}\frac{X_i-\mu}{\sigma}

のMGFが、n→∞n\to\infty で et2/2e^{t^2/2}(標準正規のMGF)に収束する。一意性(性質③)から ZnZ_n は標準正規に近づく ── これが ⑩ 中心極限定理(CLT) の証明の核。要するに「MGFの積(性質②)とテイラー展開で、和の分布が正規になることを示せる」。深入りは ⑩ で行う。

5. 特性関数(1級の道具・簡潔に)

φX(t)=E[eitX](i=−1)\varphi_X(t)=E\big[e^{itX}\big]\quad(i=\sqrt{-1})

MGF の tt を itit に置き換えたもの。∣eitX∣=1|e^{itX}|=1 なので期待値が必ず収束し、どんな分布でも常に存在する(MGFはコーシー分布など裾の重い分布では存在しないことがある)。性質はMGFとほぼ並行(一意性・独立和は積・微分で積率)。要するに「MGFが存在しない分布でも使える、より頑健な指紋」。1級の数理で道具として出るが、過去問で前面に出た実績は限定的(要最新確認)。本ノートでは存在のみ押さえる。

具体例

例1(変数変換):X∼U(0,1)X\sim U(0,1)(一様)、Z=−ln⁡XZ=-\ln X の分布。g(x)=−ln⁡xg(x)=-\ln x は単調減少、逆関数 x=g−1(z)=e−zx=g^{-1}(z)=e^{-z}、dg−1/dz=−e−zdg^{-1}/dz=-e^{-z}。fX=1f_X=1(0<x<10<x<1)だから

fZ(z)=fX(e−z) ∣−e−z∣=1⋅e−z=e−z(z>0).f_Z(z)=f_X(e^{-z})\,|-e^{-z}|=1\cdot e^{-z}=e^{-z}\quad(z>0).

レート1の指数分布。これが逆関数法(一様乱数から指数乱数を作る)の原理=シミュ①。

例2(MGFで積率):指数 Exp(λ)\mathrm{Exp}(\lambda) の M(t)=λλ−t=λ(λ−t)−1M(t)=\dfrac{\lambda}{\lambda-t}=\lambda(\lambda-t)^{-1}。 M′(t)=λ(λ−t)−2M'(t)=\lambda(\lambda-t)^{-2}、M′(0)=λ⋅λ−2=1/λ=E[X]M'(0)=\lambda\cdot\lambda^{-2}=1/\lambda=E[X]。 M′′(t)=2λ(λ−t)−3M''(t)=2\lambda(\lambda-t)^{-3}、M′′(0)=2λ⋅λ−3=2/λ2=E[X2]M''(0)=2\lambda\cdot\lambda^{-3}=2/\lambda^2=E[X^2]。 よって V[X]=E[X2]−(E[X])2=2λ2−1λ2=1λ2V[X]=E[X^2]-(E[X])^2=\dfrac{2}{\lambda^2}-\dfrac{1}{\lambda^2}=\dfrac{1}{\lambda^2}。微分2回で平均も分散も出る=シミュ②。

例3(独立和のMGFの積→分布同定):独立 X∼N(μ1,σ12), Y∼N(μ2,σ22)X\sim N(\mu_1,\sigma_1^2),\ Y\sim N(\mu_2,\sigma_2^2)。

MX+Y(t)=MX(t)MY(t)=eμ1t+σ12t2/2⋅eμ2t+σ22t2/2=e(μ1+μ2)t+(σ12+σ22)t2/2.M_{X+Y}(t)=M_X(t)M_Y(t)=e^{\mu_1 t+\sigma_1^2 t^2/2}\cdot e^{\mu_2 t+\sigma_2^2 t^2/2}=e^{(\mu_1+\mu_2)t+(\sigma_1^2+\sigma_2^2)t^2/2}.

これは N(μ1+μ2, σ12+σ22)N(\mu_1+\mu_2,\ \sigma_1^2+\sigma_2^2) のMGFそのもの。一意性より X+Y∼N(μ1+μ2,σ12+σ22)X+Y\sim N(\mu_1+\mu_2,\sigma_1^2+\sigma_2^2)。畳み込み積分を解かずに、正規の再生性が積で一発。

試験での問われ方(級ごとの差)

数式の直観的意味

変数変換公式の完全導出(CDF法・なぜ絶対値が付くか)

連続変数の分布を直接いじるのは難しいので、いったんCDF(累積分布関数)に上げてから微分で密度に戻すのがCDF法。Z=g(X)Z=g(X) のCDF FZ(z)=P(Z≤z)=P(g(X)≤z)F_Z(z)=P(Z\le z)=P(g(X)\le z) を、gg の単調性で場合分けして XX のCDFに翻訳する。

(a) gg が単調増加のとき:g(X)≤z  ⟺  X≤g−1(z)g(X)\le z \iff X\le g^{-1}(z)(不等号の向きそのまま)。よって

FZ(z)=P(X≤g−1(z))=FX(g−1(z)).F_Z(z)=P\big(X\le g^{-1}(z)\big)=F_X\big(g^{-1}(z)\big).

両辺を zz で微分。右辺は合成関数の微分(連鎖律)で

fZ(z)=ddzFX(g−1(z))=fX(g−1(z))⋅d g−1(z)dz.f_Z(z)=\frac{d}{dz}F_X\big(g^{-1}(z)\big)=f_X\big(g^{-1}(z)\big)\cdot\frac{d\,g^{-1}(z)}{dz}.

増加なら g−1g^{-1} も増加だから dg−1dz>0\dfrac{dg^{-1}}{dz}>0、つまり dg−1dz=∣dg−1dz∣\dfrac{dg^{-1}}{dz}=\left|\dfrac{dg^{-1}}{dz}\right|。

(b) gg が単調減少のとき:g(X)≤z  ⟺  X≥g−1(z)g(X)\le z \iff X\ge g^{-1}(z)(不等号が逆転)。よって

FZ(z)=P(X≥g−1(z))=1−FX(g−1(z)).F_Z(z)=P\big(X\ge g^{-1}(z)\big)=1-F_X\big(g^{-1}(z)\big).

微分すると先頭の 11 が消え、マイナスが付く:

fZ(z)=−fX(g−1(z))⋅d g−1(z)dz.f_Z(z)=-f_X\big(g^{-1}(z)\big)\cdot\frac{d\,g^{-1}(z)}{dz}.

減少なら g−1g^{-1} も減少で dg−1dz<0\dfrac{dg^{-1}}{dz}<0 だから、頭の −- と合わさって全体は正。これは −dg−1dz=∣dg−1dz∣-\dfrac{dg^{-1}}{dz}=\left|\dfrac{dg^{-1}}{dz}\right| に等しい。

(a)(b)を1本にまとめる:どちらの場合も右辺は「fX(g−1(z))f_X(g^{-1}(z)) × ∣dg−1dz∣\left|\dfrac{dg^{-1}}{dz}\right|」。だから

 fZ(z)=fX(g−1(z))∣d g−1(z)dz∣ .■\boxed{\,f_Z(z)=f_X\big(g^{-1}(z)\big)\left|\frac{d\,g^{-1}(z)}{dz}\right|\,}.\qquad\blacksquare

なぜ絶対値か(要点):密度は必ず非負。増加変換ならそのまま正、減少変換だと微分が負になるが、CDFの引き算(1−FX1-F_X)から出るマイナスがそれを打ち消し、結局向きによらず “伸縮率の大きさ” だけが効く。それを一手で書いたのが絶対値。∣dg−1/dz∣|dg^{-1}/dz| は「zz 軸の単位幅が、xx 軸では何倍の幅に対応するか」という伸縮率=1変数版ヤコビアン。

畳み込み公式の導出(同時分布→和が zz の直線で集める)

独立な X,YX,Y の和 Z=X+YZ=X+Y のCDFを、同時分布(⑦ 同時分布・周辺分布・条件付き分布)から書く。独立なので同時密度は積 fX(x)fY(y)f_X(x)f_Y(y):

FZ(z)=P(X+Y≤z)=∬x+y≤zfX(x)fY(y) dx dy.F_Z(z)=P(X+Y\le z)=\iint_{x+y\le z} f_X(x)f_Y(y)\,dx\,dy.

内側を yy について先に積分する。xx を固定すると y≤z−xy\le z-x だから

FZ(z)=∫−∞∞fX(x)(∫−∞z−xfY(y) dy)dx=∫−∞∞fX(x) FY(z−x) dx.F_Z(z)=\int_{-\infty}^{\infty} f_X(x)\left(\int_{-\infty}^{z-x} f_Y(y)\,dy\right)dx=\int_{-\infty}^{\infty} f_X(x)\,F_Y(z-x)\,dx.

zz で微分すると、内側の FY(z−x)F_Y(z-x) の微分が fY(z−x)f_Y(z-x)(連鎖律、zz の係数は1):

fZ(z)=ddzFZ(z)=∫−∞∞fX(x) fY(z−x) dx.■f_Z(z)=\frac{d}{dz}F_Z(z)=\int_{-\infty}^{\infty} f_X(x)\,f_Y(z-x)\,dx.\qquad\blacksquare

要するに「X=xX=x と決めたら相手は Y=z−xY=z-x に決まる。その確率 fX(x)fY(z−x)f_X(x)f_Y(z-x) を、xx をあらゆる値に動かして集めた」。これが和の分布の正体で、⑦の同時分布(独立→積)を和の制約 x+y=zx+y=z に沿って周辺化したもの。

なぜ M(k)(0)=E[Xk]M^{(k)}(0)=E[X^k] か(テイラー展開が鍵・完全導出)

指数関数のテイラー展開 eu=∑k=0∞ukk!e^{u}=\sum_{k=0}^{\infty}\dfrac{u^k}{k!} に u=tXu=tX を入れる:

etX=∑k=0∞(tX)kk!=∑k=0∞tkk!Xk.e^{tX}=\sum_{k=0}^{\infty}\frac{(tX)^k}{k!}=\sum_{k=0}^{\infty}\frac{t^k}{k!}X^k.

両辺の期待値を取る。期待値は線形(⑥ 期待値・分散の性質(線形性・和の分散・共分散))なので和と tk/k!t^k/k!(XX に無関係な係数)の外へ出せる:

MX(t)=E[etX]=∑k=0∞tkk!E[Xk]=1+E[X] t+E[X2]2!t2+E[X3]3!t3+⋯M_X(t)=E\big[e^{tX}\big]=\sum_{k=0}^{\infty}\frac{t^k}{k!}E[X^k]=1+E[X]\,t+\frac{E[X^2]}{2!}t^2+\frac{E[X^3]}{3!}t^3+\cdots

ここがMGFの本質:MX(t)M_X(t) をテイラー展開すると、tkt^k の係数がちょうど E[Xk]k!\dfrac{E[X^k]}{k!} になる。つまりMGFは積率を係数として畳み込んだ母関数。テイラー展開の一般項の係数は「kk 回微分して t=0t=0、を k!k! で割ったもの」だから、kk 回微分して t=0t=0 を代入すれば E[Xk]k!⋅k!=E[Xk]\dfrac{E[X^k]}{k!}\cdot k!=E[X^k] が取り出される:

MX(k)(0)=E[Xk].■M_X^{(k)}(0)=E[X^k].\qquad\blacksquare

具体的に1回・2回やると:M′(t)=E[X]+E[X2]t+⋯M'(t)=E[X]+E[X^2]t+\cdots で M′(0)=E[X]M'(0)=E[X]、M′′(t)=E[X2]+E[X3]t+⋯M''(t)=E[X^2]+E[X^3]t+\cdots で M′′(0)=E[X2]M''(0)=E[X^2]。微分のたびに展開が1つずつ繰り上がり、t=0t=0 で定数項だけが生き残るから積率が順に出る。

なぜ独立和のMGFは積か(独立がここで効く・完全導出)

定義に和を入れ、指数法則 ea+b=eaebe^{a+b}=e^a e^b で分ける:

MX+Y(t)=E[et(X+Y)]=E[etX etY].M_{X+Y}(t)=E\big[e^{t(X+Y)}\big]=E\big[e^{tX}\,e^{tY}\big].

X,YX,Y が独立なら etXe^{tX} と etYe^{tY} も独立な確率変数。独立なら「積の期待値=期待値の積」(⑥ 期待値・分散の性質(線形性・和の分散・共分散) の E[XY]=E[X]E[Y]E[XY]=E[X]E[Y] と同じ理由、同時密度が積に分かれるから):

MX+Y(t)=E[etX] E[etY]=MX(t) MY(t).■M_{X+Y}(t)=E\big[e^{tX}\big]\,E\big[e^{tY}\big]=M_X(t)\,M_Y(t).\qquad\blacksquare

要するに「独立だから指数の積の期待値を分離できる」。畳み込み積分の代わりに掛け算で和の分布を扱える理由がこれ。一般化すると独立和 ∑Xi\sum X_i のMGFは ∏MXi(t)\prod M_{X_i}(t)。同分布なら (MX(t))n\big(M_X(t)\big)^n(二項がベルヌーイMGFの nn 乗になるのはこれ)。

正規分布のMGF eμt+σ2t2/2e^{\mu t+\sigma^2 t^2/2} の導出

まず標準正規 Z∼N(0,1)Z\sim N(0,1)、f(z)=12πe−z2/2f(z)=\dfrac{1}{\sqrt{2\pi}}e^{-z^2/2} で:

MZ(t)=E[etZ]=∫−∞∞12πetze−z2/2 dz=∫−∞∞12πe−12(z2−2tz) dz.M_Z(t)=E[e^{tZ}]=\int_{-\infty}^{\infty}\frac{1}{\sqrt{2\pi}}e^{tz}e^{-z^2/2}\,dz=\int_{-\infty}^{\infty}\frac{1}{\sqrt{2\pi}}e^{-\frac12(z^2-2tz)}\,dz.

指数の中を平方完成:z2−2tz=(z−t)2−t2z^2-2tz=(z-t)^2-t^2。−t2-t^2 は zz に無関係なので積分の外へ:

MZ(t)=et2/2∫−∞∞12πe−12(z−t)2 dz.M_Z(t)=e^{t^2/2}\int_{-\infty}^{\infty}\frac{1}{\sqrt{2\pi}}e^{-\frac12(z-t)^2}\,dz.

残った積分は「平均 tt・分散1の正規分布の全積分」=1(正規密度の全積分は中心がどこでも1)。よって

 MZ(t)=et2/2 .\boxed{\,M_Z(t)=e^{t^2/2}\,}.

一般の X=μ+σZ∼N(μ,σ2)X=\mu+\sigma Z\sim N(\mu,\sigma^2) には変換のMGF規則 MaX+b(t)=E[et(aX+b)]=ebtE[e(at)X]=ebtMX(at)M_{aX+b}(t)=E[e^{t(aX+b)}]=e^{bt}E[e^{(at)X}]=e^{bt}M_X(at) を使う。X=σZ+μX=\sigma Z+\mu なら a=σ, b=μa=\sigma,\ b=\mu:

MX(t)=eμtMZ(σt)=eμte(σt)2/2=exp⁡ ⁣(μt+σ2t22).■M_X(t)=e^{\mu t}M_Z(\sigma t)=e^{\mu t}e^{(\sigma t)^2/2}=\exp\!\Big(\mu t+\frac{\sigma^2 t^2}{2}\Big).\qquad\blacksquare

要するに「平方完成で指数を正規密度の形に戻すと、余った et2/2e^{t^2/2} がMGFになる」。標準化和のMGFがこの et2/2e^{t^2/2} に収束するのがCLTの核(⑩)。

⚠️ 引っかけポイント・頻出論点・級ごとの差

よくある疑問

Q. 変数変換公式の絶対値はどこから来るのですか? なぜ密度が負にならないのですか?

A. CDF(累積分布関数)から導くと自然に出ます。Z=g(X)Z=g(X) のCDFを gg の単調性で場合分けします。

どちらの場合も結局「fX(g−1(z))f_X(g^{-1}(z)) × 微分の絶対値」になります。だから絶対値でまとめれば、向き(増加・減少)を気にせず1本の式で書けて、密度は必ず非負になります。(同じ導出を「数式の直観的意味」で式つきで詳述しています。)

Q. MGFを2回微分した M′′(0)M''(0) は分散ですか?

A. 違います。M′′(0)=E[X2]M''(0)=E[X^2](原点まわりの2次積率)です。分散は V[X]=E[X2]−(E[X])2=M′′(0)−(M′(0))2V[X]=E[X^2]-(E[X])^2=M''(0)-(M'(0))^2 と組み立ててください。MGFの微分で直接出るのはいつも「原点まわりの積率 E[Xk]E[X^k]」で、分散や歪度・尖度はそこから計算します。

Q. 「独立和はMGFの積」は、従属でも成り立ちますか?

A. 成り立ちません。MX+Y=MXMYM_{X+Y}=M_XM_Y は独立のときだけです。途中で「E[etXetY]=E[etX]E[etY]E[e^{tX}e^{tY}]=E[e^{tX}]E[e^{tY}]」という分離をしますが、これは独立だからできることです。従属だと一般に成り立ちません(独立和の分散に共分散の項が付くのと同じ事情です)。

Q. MGFと特性関数、確率母関数はどう違うのですか?

A. どれも「分布の指紋」で、E[指数っぽいもの]E[\text{指数っぽいもの}] という同じ仲間です。MGF E[etX]E[e^{tX}] はわかりやすいですが裾の重い分布で存在しないことがあります。特性関数 E[eitX]E[e^{itX}] は虚数を使う代わりに必ず存在します。確率母関数 E[sX]E[s^X] は0,1,2,…の値を取る分布(二項・ポアソンなど)で便利で、s=ets=e^t とすればMGFと対応します。使える範囲と便利な場面が違うだけです。

Q. 結局どの級で何を覚えればいいですか?

A. 2級は積率・歪度・尖度の計算まで(MGFは出ません)。準1級はMGFの定義・微分で積率・独立和の積・主要分布のMGF導出・変数変換とヤコビアン・畳み込み。1級はさらに多変数のヤコビアンで分布を作る・特性関数・中心極限定理のMGF証明、まで深掘りします。同じ「積率」でも級が上がると、数値計算から母関数での生成・操作へと深さが増します。

まとめ

対応するシミュレーション

逆関数法で一様乱数を指数分布に変換

MGFの微分で積率が出る・独立和は積

関連ノート

※Phase 3 の各分布(ポアソン・指数・正規・ガンマ・ベータなど)のMGF・変数変換が頻出だが、それらのファイル名(nikou_bunpu 以外)は未確定のため、ここではテキスト言及に留める。多変数のヤコビアン(PCA・多変量正規)はPhase 6 で再登場するが、該当ノート名が未確定のためテキスト言及に留める。