🎓 レベル:標準 | 重要度:A(必須)
📎 前提:期待効用と効用関数 | 関連:確実性等価とリスクプレミアム・リスクの測り方(分散・下方リスク)
要点(BLUF)
- リスク回避は効用関数の凹性そのものです。凹(上に凸)な効用なら、確実な平均額を、同じ平均の不確実なくじより好みます。
- 数学的根拠はJensenの不等式: が凹なら 。「平均の効用 ≥ 効用の平均」。
- 効用が凹=リスク回避、凸=リスク愛好、線形=リスク中立。リスク選好は効用関数の曲がり方に一対一で対応します。
1. リスク選好の3類型
くじ とその期待値(確実額) を比べたときの態度で、人を3つに分類します。
| 態度 | 選好 | 効用関数の形 | 例 |
|---|---|---|---|
| リスク回避 | 確実な > くじ | 凹() | 保険に入る人 |
| リスク中立 | 確実な = くじ | 線形() | 期待値だけで判断 |
| リスク愛好 | くじ > 確実な | 凸() | 宝くじを買う人 |
ほとんどの人は富の大部分についてリスク回避的です。だから保険が成立し(リスクマネジメントの実務)、リスクの高い資産には上乗せのリターン(リスクプレミアム)が要求されます。
2. Jensenの不等式:凹性 = リスク回避
リスク回避の数学的な正体はJensenの不等式です。 が凹関数なら、任意の確率分布について
が成り立ちます(等号は が定数のとき)。左辺は「期待値(確実額)の効用」、右辺は「くじの期待効用」。凹なら左辺が大きい=確実額の方を好む=リスク回避、というわけです。
直観的には、凹関数のグラフ上で2点を結んだ弦は曲線より下にあります。くじの期待効用はこの弦の上の点(2点の内分)、確実額の効用は曲線の上の点。曲線が弦より上にあるぶん、確実額が得をする——その差がリスク回避の強さです。
import numpy as np
u = lambda w: np.sqrt(w) # 凹効用
w_low, w_high, p = 0.0, 100.0, 0.5
EV = p*w_low + (1-p)*w_high # 期待値 = 50
EU = p*u(w_low) + (1-p)*u(w_high) # 期待効用 = 5
print(f"u(期待値) = u({EV:.0f}) = {u(EV):.4f}")
print(f"期待効用 = E[u(X)] = {EU:.4f}")
print("Jensen:", "u(E[X]) >= E[u(X)] が成立(凹=リスク回避)" if u(EV) >= EU else "不成立")
出力:
u(期待値) = u(50) = 7.0711
期待効用 = E[u(X)] = 5.0000
Jensen: u(E[X]) >= E[u(X)] が成立(凹=リスク回避)
出力の意味: が期待効用 をしっかり上回ります。同じ平均50なのに、確実な50万の方が「ばらつくくじ」より効用が高い——これがリスク回避の数値的な姿です。この差()が大きいほど、強くリスクを嫌っているといえます。
3. 図で見る凹性とリスク回避
弦と曲線のギャップ、そして確実性等価を一枚にすると、リスク回避の全体像が見えます。
import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt
import japanize_matplotlib # 日本語ラベル用
u = lambda w: np.sqrt(w)
w = np.linspace(0, 100, 200)
w_low, w_high, p = 0, 100, 0.5
EV = p*w_low + (1-p)*w_high # 期待値 50
EU = p*u(w_low) + (1-p)*u(w_high) # 期待効用 5
CE = EU**2 # 確実性等価(u の逆関数)
plt.figure(figsize=(7, 4.5))
plt.plot(w, u(w), lw=2, label="効用関数 u(w)=√w(凹)")
plt.plot([w_low, w_high], [u(w_low), u(w_high)], "o--", color="gray",
label="くじの効用(弦)")
plt.scatter([EV], [EU], color="red", zorder=5, label=f"期待効用 EU={EU:.1f}")
plt.scatter([EV], [u(EV)], color="blue", zorder=5, label=f"u(期待値)={u(EV):.2f}")
plt.scatter([CE], [EU], color="green", zorder=5, label=f"確実性等価 CE={CE:.0f}")
plt.vlines([CE, EV], 0, EU, linestyles=":", colors=["green", "red"], alpha=0.6)
plt.xlabel("富 w(万円)"); plt.ylabel("効用 u(w)")
plt.title("凹効用とリスク回避:u(期待値) > 期待効用")
plt.legend(fontsize=8); plt.grid(alpha=0.3); plt.tight_layout(); plt.show()
図の意味:効用曲線(実線)が、くじの2点を結ぶ弦(破線)より上にあります。期待値50の真上で、曲線上の点(青, 7.07)が弦上の点(赤, 5.0)より高い——このギャップがリスク回避です。さらに、期待効用5.0と同じ高さを確実額で実現するのは緑の点 。確実な25万 ≡ 期待値50万のくじで、差の25万がリスクを引き受けてもらうための「割引」になります(確実性等価とリスクプレミアム)。
数式の直観的意味:2階微分が選好を決める
なぜ凹性がリスク回避なのか。効用 を期待値 のまわりでテイラー展開すると、
第1項は確実額の効用、第2項が「ばらつきの効用への影響」です。(凹)なら第2項は負——分散が大きいほど期待効用が下がる。リスク回避者がばらつきを嫌う理由は、効用関数の2階微分が負であることに尽きます。この近似は、リスク回避度()と分散の積でリスクプレミアムが決まる、という確実性等価とリスクプレミアムの Arrow–Pratt 公式の出発点でもあります。分散がリスクの代理になるのは、効用が滑らかで2次近似が効くからで、その限界がリスクの測り方(分散・下方リスク)の下方リスクの議論に繋がります。
⚠️ よくある誤解
- 「リスク回避=臆病・非合理」ではない:凹効用は完全に合理的(vNM 公理を満たす)です。限界効用が逓減するなら、リスクを嫌うのが整合的な態度です。
- 「同じ人はいつもリスク回避」ではない:効用が損失領域で凸、利得領域で凹、ということが起きます(プロスペクト理論)。富の水準や参照点で態度が変わります。
- 「分散さえ見ればリスク選好が分かる」ではない:分散はリスクの一面(2次のモーメント)にすぎません。歪み(下方リスク)まで効く場面では、分散だけでは不十分です(リスクの測り方(分散・下方リスク))。
対応シミュレーション
本文の図コードで、効用関数を凸()や線形()に変えると、弦と曲線の上下が反転し、リスク愛好・中立に切り替わるのが見えます。
関連ノート
- 第2章 期待効用理論 目次
- 期待効用と効用関数 — 前提:期待効用の枠組み
- 確実性等価とリスクプレミアム — 次のトピック:凹性の強さを金額で測る
- リスクの測り方(分散・下方リスク) — 分散とは別の角度からリスクを測る
- プロスペクト理論 — 損失領域での凸性(リスク愛好)
- 意思決定分析・リスク分析 全体目次