🎓 レベル:標準 | 重要度:A(必須)
📎 前提:リスク選好と効用の凹凸 | 関連:VaR(バリュー・アット・リスク)・金融工学(リスクプレミアム・CAPM)
要点(BLUF)
- 確実性等価(CE):くじとちょうど無差別になる確実な金額。 で定義され、。
- リスクプレミアム(RP):期待値と確実性等価の差 。リスクを引き受けることへの「割引額」で、リスク回避が強いほど大きい。
- Arrow–Pratt の絶対リスク回避度 が、リスクプレミアムを局所的に定量化します。 の富への依存で効用関数の型(CARA・DARA)が決まります。
1. 確実性等価とリスクプレミアム
リスクのあるくじ を「確実な金額に換算するといくらか」を表すのが**確実性等価(certainty equivalent, CE)**です。くじと同じ期待効用を与える確実額として、
で定義します。リスク回避者なら 。この差がリスクプレミアムです。
「ばらつくくじを、確実な額に交換してもらう代わりに、いくら値引きするか」がリスクプレミアム。保険料の上限(人はこの額まで払って不確実性を手放す)でもあります。
import numpy as np
u = lambda w: np.sqrt(w) # 凹効用
u_inv = lambda y: y**2 # 逆関数
# くじ:50%で0、50%で100(万円)
EV = 0.5*0 + 0.5*100
EU = 0.5*u(0) + 0.5*u(100)
CE = u_inv(EU)
RP = EV - CE
print(f"期待値 E[X] = {EV:.1f} 万円")
print(f"期待効用 E[u(X)] = {EU:.4f}")
print(f"確実性等価 CE = {CE:.2f} 万円")
print(f"リスクプレミアム RP = E[X] - CE = {RP:.2f} 万円")
出力:
期待値 E[X] = 50.0 万円
期待効用 E[u(X)] = 5.0000
確実性等価 CE = 25.00 万円
リスクプレミアム RP = E[X] - CE = 25.00 万円
出力の意味:このリスク回避者にとって、「50%で0・50%で100万」のくじは確実な25万と同じ価値です(CE=25)。期待値50万との差25万が、リスクを背負うことへの対価(リスクプレミアム)。言い換えると、この人は最大25万まで払って、このくじを確実な50万に変える保険を買うインセンティブがあります。
2. Arrow–Pratt の絶対リスク回避度
リスクプレミアムを「効用関数の局所的な性質」から直接求めるのが**Arrow–Pratt の絶対リスク回避度(ARA)**です。小さなリスク (, )について、テイラー展開からリスクプレミアムは近似的に
と書けます。 がリスク回避の強さ、 がリスクの大きさで、その積(の半分)がプレミアム。 を で割って正規化しているのは、効用のアフィン変換(期待効用と効用関数)で不変にするためです——スケールの自由度を消し、純粋に「曲がり具合」だけを取り出しています。
なら なので 。富が増えると小さくなります。
import numpy as np
# u=sqrt(w): A(w) = -u''/u' = 0.5/w
for w in [40, 100, 400]:
A = 0.5 / w
print(f"w={w:4d} 万円: 絶対リスク回避度 A(w) = {A:.5f}")
print("-> 富 w が増えるほど A(w) が減少 = DARA(逓減的絶対リスク回避)")
出力:
w= 40 万円: 絶対リスク回避度 A(w) = 0.01250
w= 100 万円: 絶対リスク回避度 A(w) = 0.00500
w= 400 万円: 絶対リスク回避度 A(w) = 0.00125
出力の意味:富が増えるほど が下がります。これは逓減的絶対リスク回避(DARA)——豊かになるほど、同じ金額のリスクを気にしなくなる、という現実に合った性質です。 や はDARAを持ちます。
3. 効用関数の型:CARA と CRRA
絶対リスク回避度 が富にどう依存するかで、効用関数を分類します。
- CARA(一定絶対リスク回避): 一定。(指数効用)。富が変わっても、同じ絶対額のリスクへの態度が不変。数学的に扱いやすく金融でよく使われます。
- DARA: が富とともに減少(, など)。多くの実証に整合。
- CRRA(一定相対リスク回避):相対リスク回避度 が一定。(=相対リスク回避度)。富に比例したリスク(資産の何%を賭けるか)への態度が不変で、ポートフォリオ理論の標準形です。
絶対 vs 相対の区別が大事です。絶対は「100万円のリスク」のような金額ベース、相対は「資産の10%のリスク」のような割合ベースの態度を測ります。CRRA は「金持ちも貧乏人も、資産の同じ割合を株に投じる」という性質を生み、金融工学のモデルで重宝されます。
数式の直観的意味:なぜ なのか
リスクプレミアムを生むのは効用の曲がり()でした(リスク選好と効用の凹凸)。しかし そのものはアフィン変換 で 倍に変わってしまい、絶対的な意味を持ちません。そこで同じく 倍される で割ると、 はスケール不変になります。つまり Arrow–Pratt 係数は「効用の単位を消した、純粋なリスク回避の強さ」。 という式は、リスク選好と効用の凹凸のテイラー近似 を、確実性等価の定義に代入して整理すれば出てきます——「曲がり × ばらつき」がプレミアム、という一行に凝縮されています。
⚠️ よくある誤解
- 「確実性等価=期待値」ではない:リスク回避者では CE < 期待値です。両者が一致するのはリスク中立(線形効用)のときだけ。CE は効用を通した「腹落ちする金額」です。
- 「リスクプレミアムは市場が決める1つの数」ではない:ここでのリスクプレミアムは個人の効用から出る主観的な値です。金融のマーケット・リスクプレミアム(市場全体の超過リターン)とは概念が違います(リンク先で区別)。
- 「絶対と相対のリスク回避度は同じ」ではない: で、富のスケーリングが入ります。指数効用はCARAだが相対リスク回避度は富に比例して増える、など型ごとに性質が異なります。
対応シミュレーション
本文のコードで、効用関数を指数型 (CARA)やべき型(CRRA)に変えると、・ の富依存が型ごとに変わる様子を確認できます。
関連ノート
- 第2章 期待効用理論 目次
- リスク選好と効用の凹凸 — 前提:凹性とリスク回避
- 期待効用への反例(Allais・Ellsberg) — 次のトピック:この枠組みが破れる例
- VaR(バリュー・アット・リスク) — 効用とは別の、損失分位点によるリスク量
- リスクマネジメントの実務 — 保険料の上限としてのリスクプレミアム
- 意思決定分析・リスク分析 全体目次