🎓 レベル:標準 | 重要度:A(必須) 📎 土台:ランダムウォークと単位根(時系列・単位根)・定常性と自己相関(時系列・定常性)
要点(BLUF)
- 見せかけの回帰 = 互いに無関係な非定常(単位根)系列どうしを回帰すると、高いと有意な値が出てしまう現象。経済時系列の最大の落とし穴です。
- 原因は単位根(ランダムウォーク)が共通の方向に漂うため、偶然の同方向トレンドを「関係」と誤認すること。通常の分布の前提(定常性)が壊れています。
- 対策:回帰の前に単位根を疑い(単位根検定(ADF))、非定常なら**差分(成長率)**をとるか、共和分(共和分とVECM)を確認する。
1. 問題:非定常な系列の回帰は信用できない
GDP・物価・株価のような系列は 型のランダムウォーク(単位根、)で、トレンドを持って非定常に動きます(ランダムウォークと単位根)。こうした系列どうしを水準で回帰すると、たとえ真の関係がゼロでも、両者がたまたま同方向に漂っただけで強い相関が観測されます。
問題は統計的推論の前提が壊れていることです。OLSの値が標準正規に近づくのは誤差が定常なときで、単位根系列ではこの漸近論が成立せず、値が発散します。だから「有意」が乱発される。Granger–Newbold(1974)が警告した古典的な罠です。
2. 実証:無関係な2本のランダムウォークが「有意」になる
互いに完全に独立な2本のランダムウォークを1000回回帰し、(1) 5%水準で「有意」と誤判定する割合、(2) の平均、(3) 差分してから回帰した場合、を見ます。
import numpy as np
import statsmodels.api as sm
rng = np.random.default_rng(0)
n = 200
reps = 1000
sig_count = 0
r2_list = []
for _ in range(reps):
# 互いに完全に無関係な 2 本のランダムウォーク(単位根・I(1))
x = np.cumsum(rng.normal(0, 1, n))
y = np.cumsum(rng.normal(0, 1, n))
m = sm.OLS(y, sm.add_constant(x)).fit()
if abs(m.tvalues[1]) > 1.96: # 5%水準で「有意」と誤判定する割合
sig_count += 1
r2_list.append(m.rsquared)
print(f"無関係な2本のランダムウォークを回帰({reps}回)")
print(f" t>1.96 で誤って有意と判定した割合 = {sig_count/reps*100:.0f}%(本来は 5% のはず)")
print(f" 決定係数 R^2 の平均 = {np.mean(r2_list):.2f}(無関係なのに高い)")
# 差分(成長率)にすれば見せかけは消える
sig_diff = 0
for _ in range(reps):
x = np.cumsum(rng.normal(0, 1, n))
y = np.cumsum(rng.normal(0, 1, n))
m = sm.OLS(np.diff(y), sm.add_constant(np.diff(x))).fit()
if abs(m.tvalues[1]) > 1.96:
sig_diff += 1
print(f" 差分してから回帰した場合の誤検出 = {sig_diff/reps*100:.0f}%(5%付近に戻る)")
出力:
無関係な2本のランダムウォークを回帰(1000回)
t>1.96 で誤って有意と判定した割合 = 83%(本来は 5% のはず)
決定係数 R^2 の平均 = 0.24(無関係なのに高い)
差分してから回帰した場合の誤検出 = 5%(5%付近に戻る)
出力の意味:真の関係がゼロなのに、水準回帰では 83% ものケースで「有意」と誤判定しました(正しくは5%のはず)。 も平均 と無関係にしては高い。これが見せかけの回帰です。一方、差分(成長率)にすると誤検出は5%——理論通りに戻りました。差分が単位根を除去して系列を定常にし、通常の漸近論を回復させたためです。
3. 正しい手順
flowchart LR
A["経済時系列を回帰したい"] --> B["まず単位根検定(ADF)"]
B -->|"定常 I(0)"| C["そのまま回帰してよい"]
B -->|"非定常 I(1)"| D{"共和分はあるか?"}
D -->|"なし"| E["差分して回帰(成長率で関係を見る)"]
D -->|"あり"| F["VECMで長期均衡を保って回帰"]
水準で回帰してよいのは系列が定常なときだけ。非定常なら、まず共和分(共和分とVECM)を確認し、無ければ差分、有れば長期均衡を保つVECMを使います。「とりあえず水準で回帰」が最も危険です。
⚠️ よくある誤解・落とし穴
- 「 が高いから良い関係」ではない:見せかけの回帰ではが高くても無意味。非定常系列のと値は信用しない。
- 「差分すれば常に正しい」ではない:共和分があるのに差分だけ取ると長期均衡の情報を捨てる(過剰差分、共和分とVECM)。差分の前に共和分を確認。
- 「トレンド項を入れれば解決」ではない:確定トレンドの除去と単位根(確率トレンド)の差分は別物。確率トレンドは差分でしか消えません。
- 「サンプルを増やせば安全」ではない: を増やすほど見せかけの値はむしろ発散します。
関連ノート
- 単位根検定(ADF)(非定常かを判定する)
- 共和分とVECM(非定常どうしの本物の長期関係)
- 系列相関と一般化最小二乗(定常な誤差相関との違い)
- ランダムウォークと単位根・定常性と自己相関(時系列・単位根と定常性)
- 時系列計量 目次
- 計量経済学 全体目次