要点(BLUF)
- 計量経済学は、実験できない経済の観察データから関係や因果を取り出す応用統計。道具(回帰・検定)は統計と同じで、問題設定が違うだけです。
- 経済データには3つの厄介な特徴があります:(1) 観察データ(処置を割り当てられない)、(2) 同時性(価格と需要のように互いに決め合う)、(3) 非実験(条件を揃えられない)。
- この3つが「相関を因果として読めない」根本原因。だから計量経済学の主役は、推定そのものより「内生性をどう外すか」になります。
1. 計量経済学=経済の「実験できなさ」と向き合う統計
統計や機械学習が一般のデータを扱うのに対し、計量経済学が相手にするのは経済主体(家計・企業・国)が生み出す観察データです。GDP・賃金・株価・売上は、誰かが実験室で条件を変えて測ったものではなく、世界が勝手に動いた結果を後から眺めたものです。
そのため、回帰係数 を計算するのは簡単でも、それを「 を1上げると が 上がる」という因果として読むには高いハードルがあります。この読み替えの正当化が因果推論の「識別」(識別の仮定)で、計量経済学はそれを経済データの文脈で具体化します。
2. 経済データの3つの特徴
- 観察データ(非ランダム割当):教育年数・広告費・政策の有無は、当人や企業が選んで決めている。RCT(なぜRCTが黄金律か)のような無作為割当がないので、処置群と対照群が最初から違う。
- 同時性(連立して決まる):価格と数量は需要と供給が同時に決める。価格を 、数量を として回帰しても、どちらが原因か一方向に切り出せません。これは第3章の同時方程式(同時方程式モデル)の主題。
- 非実験・観察期間の制約:マクロ変数は1国1本の歴史しかなく、しかもランダムウォークと単位根のようにトレンドを持って動く。サンプルを増やせない・条件を固定できない。
3. だから計量経済学は「内生性」を中心に組み立てる
3つの特徴はすべて、統計的には説明変数と誤差項が相関する=内生性という1点に集約されます(内生性とは(バイアスの源の地図))。内生性があると OLS は一致推定すらできません。
そこで本テキストは、回帰や最小二乗そのものは統計(重回帰分析)に預け、内生性を外す道具——操作変数(第3章)、パネル(第4章)、単位根/共和分(第5章)、離散選択(第6章)——に集中します。
⚠️ よくある誤解・落とし穴
- 「経済データ=時系列」ではない:クロスセクション(家計調査)、パネル(個体×時間)、時系列(マクロ)の3種があり、内生性の出方も対処も違います。
- 「サンプルが大きければ因果になる」ではない:内生性があるバイアスは でも消えません。大標本でも間違った値に収束します(一致性が壊れる)。
- 「計量経済学は特別な数学」ではない:数理は統計・因果・時系列と共通。違いは観察データ特有の問題設定にあります。だから本サイトは引用でつなぎます。
関連ノート
- 回帰のおさらいと識別の考え方(次:回帰と識別の橋渡し)
- 内生性とは(バイアスの源の地図)(内生性の全体地図)
- 単回帰分析・重回帰分析(統計・回帰の土台)
- 相関と因果の違い・識別の仮定(因果推論・識別の言葉)
- 計量経済学とは 目次
- 計量経済学 全体目次